会いたかったような、会いたくなかったような!!?
あれ? ここは??
辺りを見回す──さっきの場所じゃない。
今、俺が立っているのは、全方面が大小の鏡で囲まれた空間?
確か、探していた鬼の実力者を彼方が倒して、それで……妖刀の名を聞いて…意識が遠のいて…………?
これは、夢か?
もしかして、また誰かの術中!?
警戒しつつ、再び周りを見る。
当然、俺を囲む鏡には俺が無数に映っている。の、だが。
「!」
その一つ──大きな鏡に映っていた姿だけ、俺ではなかった。
長く艶のある黒髪を高く結い上げた、見上げるほど長身の男。
均整のとれた筋肉質の肉体に深紅の着物。目を閉じていても分かる整った顔立ち、その頭には二本の角──
あぁ。俺はこの鬼を知っている。
「── 紅牙」
俺が名を呼ぶと、鬼がゆっくりと目を開ける。
その鋭い眼光の…強い意志を宿している紅い瞳が俺をしっかりと見つめた。
「紅牙」
もう一度その名を呼んでも、無言で威圧するだけ。
そのまま鏡越しに流れる沈黙に、だんだん腹が立ってきた。
「……俺はお前に聞きたいことがいろいろあるんだぞ!?」
何故、記憶を持って転生しなかった?
何故、今も記憶も覚醒を拒んでいる?
何故、仲間を待たせたままにしている?
何故、宗一郎が存在している──?
ぐるぐると俺の中を駆け巡る、今まで抑えていた疑問と苛立ち。
何から聞けばいいのか、気持ちばかりが逸る。
「何か言えよ!!」
思わず声を荒げた俺に、鏡の中の紅牙は苛つきとも怒りともとれる表情で
[…………うるせぇ]
「……ッ!?」
[お前に何が分かる?]
地を這うような低音に思わずビクッとなってしまう俺。
だがここで引くわけにはいかない!
「分からねぇよ。あんなに大切に思ってくれてる仲間がいるのに、何やってんだよ!?」
不確定な転生逃亡の手伝いまでさせて、記憶も覚醒も拒んでるなんて……!
[…………ッ]
ん?
俺の言葉に、一瞬紅牙の様子が変わった……?
改めて俺を上から見据えると
[……宗一郎、お前は望むのか?]
怒号でも咆哮でもなく、低く艶のある声は紅牙本来のもの。
[どんなことが待っていても、か?]
「あぁ」
[本当に、受け入れる覚悟は出来てるのか?]
静かな問いかけ。
「…………正直…分からない……いや、怖い」
今までも何度となくされてきた質問。
確かに記憶を取り戻したい、覚醒もしたい。それは本当。
本当だけど。
その時…紅牙の記憶を取り戻して覚醒したら、俺はどうなる?
「でも、知らなければならない。俺の存在意味も、価値もきっとそこにある。俺にしかできないことも、きっと」
いや、何よりも。
“紅牙”を取り戻したいという仲間の願いを、思いを俺は知っている。痛いほど。
「もう仲間を待たせたくない」
[──!]
明らかに紅牙の表情が変わった。
俺は改めてその真紅の瞳を真っ直ぐ見つめ返す。
確かに見た目で言うなら、皆が言うように“大きくて威圧的”かもしれない。
性格も残虐な戦闘狂で破天荒かもしれない。
幻妖界の秘宝・鬼哭を盗み出した大罪人かもしれない。
だが、俺には分かる。
その瞳の奥──そこに隠しているものが。
“仲間を想う…何よりも大切にしたいという気持ち”
紅牙だって彼方を助けたいと思ったから、あの時妖力を使わせのだろう。
紅牙の仲間を思う気持ちは本物のはず。
何よりも。
何度かフラッシュバックした、仲間を見つめていたあの光景。
仲間が大事で、大好きで……この居場所を大切に思っていた。その気持ちだけは偽れない。
確かに俺の、俺たちの魂に刻まれているのだから。
────なのに。
「現在も迷っているのか?」
[…………うるせぇ]
真紅瞳に宿る動揺。
だが俺は静かに続ける。
「本当は怯えているんだろ?」
[黙れッ!! お前に何が分かるッ!?]
まるで雷のような怒号。
鏡越しなのにビリビリと感じるほどだが、どんなに怒りを露わにされようが、今更怯まない。
「分かるよ。怖いんだろ──仲間を傷つけることも、失うことも」
[……ッ]
図星、だよな。
触れられたくない、隠していた思い。感情。
分からない訳ないんだよ。
──だって、お前と俺は同じだから。
傷つけるくらいなら、失うくらいなら最初からいない方がいい。
遠ざけていたい。──逃げたい。
だから、なのか?
再び訪れた鏡越しの睨み合い。
紅牙の感情と威圧感に負けそうになるが……何とか気持ちを奮い立たせていると、
[……そこまで言うのなら、やってみるといい]
仕方ないというより“お前に出来るものか”といった表情。
……俺を試そうとしているのか?
それならそれでいい。どうせ俺がやらなければならないのだから。
覚悟を決めた俺に、紅牙は静かに続けた。
[羅刹を取り戻せ]
紅牙の妖刀・羅刹。
それが記憶の鍵、なのか──?
「!」
急に目の前が暗くなり、辺りは闇一色の中……頭に紅牙の声が響く。
[再びこの手に羅刹が戻った時、お前にも分かる…………]
──次の瞬間。
「は……ッ!?」
夢!?
いや、夢なんだろうけど…限りなく現実。
というか、俺……とうとう紅牙本人に会ったのか!?
改めて思い出してみると──
確かにさんざん聞かせれてきた通り、俺より遥かに… 仲間よりデカいし威圧感がすごかった。
強気に出てしまったけど、今更背中に冷たいものが流れる。
まぁ、いい。
とりあえず目が覚めた……はいいが、ここは…どこだ?
身を起こし、辺りを見渡す。
薄暗い……見覚えのある和室。
もしかして、紅牙の隠れ家か?
障子の向こうの明るさからして夕暮れ…いや、もう夜だな。
板の間からの明かりが漏れる戸を開けると、仲間たちが騒がしく囲炉裏を囲んでいた。
相変わらず、全員人間verのまま。
当然のように宴開催中といった感じに、呆気に取られていた俺。
「あ、宗一郎、目が覚めた? とりあえずお鍋食べながら話そ?」
と、にこやかに席を勧める篝。
俺はそのまま紅牙の席へ座らせられる。
「急に気を失ったから驚いたぞ。大丈夫か?」
(彼方と肉の奪い合いをしながらも)気にかけてくれる天音に軽く頷きつつ、白叡の姿がないことに気づいた俺に
「あぁ、白叡ならオレの中で休ませてるから気にしないで」
(手元では肉の奪い合いが続く)彼方の言葉に一安心した俺。
目の前の囲炉裏にはグツグツと煮える鍋。
見た目も美味しそうだし、いい匂いはするが……相変わらず何の肉か不明。
「……これは何鍋だ?」
思わず警戒した俺に篝は笑顔で
「猪だよ⭐︎」
「え……猪!?」
熊の次は猪か。
もしかしなくても、狩ったんだろうな。
「早く食べないとなくなるよ?」
幻夜に促されて取り分けてくれた分と箸を受け取る。その間にも
「待って…彼方ちゃん、ちょっとペース早いよ!? あんなに炊いたご飯がすぐなくなる!」
「お櫃返せ。宗一郎の分がなくなるだろうがっ」
「ぇ……久しぶりのまともなごはん…お腹空いてるのに……」
そう言いつつ渋々お櫃を篝に返す彼方。
とりあえず、かろうじて残っていた俺の分のご飯をよそいつつ
「……もう一回ご飯炊くかぁ」
「篝、彼方に甘くないか?」
呆れたように言う天音に、篝は彼方へ視線を向けると
「じゃあ! 聞くけど、あの表情見て我慢しろって言えるの!?」
明らかにしょんぼりしている様子の彼方を見て、天音も言葉に詰まる。
そのやりとりを楽しそうに横目に見つつ、幻夜は篝から受け取ったご飯を俺に渡しながら
「ククク……ほら、宗一郎も早くお食べ」
促され、箸をつける。
猪も初めて食べたけど、やっぱり美味いんだよな。
味がというのもあるけど、たぶんこいつらと食べるのが美味いんだろうな。
きっとこいつらもそうなんだろう。
結局、篝がまたご飯炊こうとしているし。
「彼方、本当にお腹空いてたんだな……」
天音のおにぎりで足りないほどには。
本人的にはまともに食べれないまま、天狗軍で缶詰状態だったって言ってたしな。
あ。
まさか、あの寺に来た時に調子悪そうだったのって、もしかして……
「お腹空かせてる彼方クンなんて、見てられないよ」
「使い物にならねぇ、て正直に言えよ。てか、オレが差し入れしてやってただろ」
「ほんと、つらかった」
悲しげに言いつつも食べる手は止めない彼方。
「だからって、宗一郎の分まで食うなよ」
「いや、いいよ。たくさん食べなよ」
責めるように言う天音を思わず宥める。
幻夜ではないが、確かにお腹を空かせた彼方は見てられないし。
そんな話をしてるうちに篝が追加の器を持って戻ってきた。
「角煮もあるよ」
「さすが、篝! 分かってるなぁ」
篝から受け取る天音のテンションは高い。
「もしかして、天音の好物って角煮?」
「も、好きだけど……」
天音が言いかけると、
「天音が好きなのは油脂物だよ」
彼方も角煮を食べながら付け足した。
「揚げ物とか?」
「とか、脂身とかね」
なんか、それって
「今、カラスっぽい、て思ったろ」
ごめん、思った。
温泉の件含め、やっぱりカラスっぽいイメージはあるかも。シルバーアクセも好きみたいだし。
「カラスだろう」
「キツネに言われたくない」
そのまま幻夜と天音の言い合いが始まる。
まぁ、いつものこと。
肉の奪い合いだったり、からかったり、言い合ったり。
相変わらず、めちゃくちゃうるさ…賑やかな食事風景。
だが、妙な安心感がある……ような気もする。
そんなこんなで。
天音の好物も判明した酒盛り…もとい、食事も終盤。軽く今までの報告会になった。
どうやら俺はあの場で意識を失い、だいぶ長い時間眠ってしまっていたらしい。
その間にみんなで隠れ家へ移動。俺を運びつつ、途中で猪を狩りつつ。
で、意識を失っていた俺はというと
「…………俺、夢でだけど」
意を決し、一呼吸をおいてから切り出す。
「紅牙に会った」
「「「「はぁ!?」」」」




