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そうだ、幻妖界行こう!!?

「あー! やっぱりここにいた!」


 不意に聞こえた声に、


「……おや、結局集まったな」


 小さくそう呟き、幻夜は寺の入り口に視線を向ける。と、その先…こちらに歩いてくる二つの人影──


「篝…天音……!」


 2人が合流し全員がこの場に揃った安心感に、思わず力が抜けた気がする。


「良かった、みんな無事だったみたいだね」


 辺りを見回しつつ笑顔で言う篝。その横から 


「彼方、大丈夫か?」


「うん」


 心配と優しさの滲む笑みで聞く天音に、座り込んだままの彼方も苦笑をうかべて頷く。 


「ほら、あっちで渡すはずだった差し入れ。持ってきた」


 そう言って天音が彼方に渡したのは……風呂敷包み?


「わぁ♡ ありがとう!!」


 パァッと笑顔で受け取り包みを開くと、大きめなおにぎりが何個も出てきた。早速食べ始めようとして


「白叡も一緒に食べよ」


 優しくそう言うと白叡を肩から下ろし、目の前におにぎりを一つ置く。

 珍しいこともあると言わんばかりに見上げた白叡だが、彼方の柔らかい微笑みに小さく舌打ちしつつも大人しく食べ始めた。

 そんな様子を見守りつつ、天音は溜め息をつくと


「……たく、差し入れ持って様子見に行ったらもういねぇから焦ったわ」


 天音曰く。天狗軍に連日缶詰状態だった彼方の様子を伺いつつ差し入れをしていたが、突如消えたので探し回ったあげく人界まで来た……ということらしい。


「だって、緊急事態だったんだから仕方ないでしょ? ……あと、あそこだとご飯食べさせてもらえないし、もうイヤ」


「今頃また消えたって大騒ぎだぞ。てか、飯食ってただろうが」


「足りるわけないじゃん」


「お前基準で言うな。食いながら喋んな」


 もごもごおにぎりを食べつつ文句を言う彼方に、天音の相変わらずのおかん発言。

 そのやりとりを生温かく見守る幻夜と篝。溜め息をつきつつも、もらったおにぎりはちゃんと食べる白叡。

 あぁ…なんだか急に日常が戻ってきた気がする。


 そして、天音は気を取り直すように小さく溜め息をつくと、


「で、結局何がどうなったんだ?」


 その言葉に、星酔の件を含めて一連の説明をする俺たち……主に俺。


「──……なるほどな。()()星酔がなぁ…」


 話を聞き、複雑そうな表情で呟いた天音。


 幻夜はともかく、元々彼方たちは特に害がないなら手を下す気はなかったと思う。

 ただ、前回白叡が術をかけられた時も彼方がキレてたから、もう()()だったかもしれないが。


「まぁ…ある意味、()()でよかったのかもな……」


 そう呟いた天音の灰瞳(ひとみ)はこいつらの中で唯一、()()()を抱いているようにも見えた……気がする。


 それにしても。俺も天音がここへ来られるとは思っていなかった。

 彼方同様、天音もしばらく無理だと思っていた俺に、天音はやんちゃな(いつもの)笑みで


「オレは彼方より()()ちょいちょいこっちに来て、篝の手伝いしてたんだよ」


 ということは、彼方より天音の方がお(とが)めも少なく済んだのだろうか。

 いや、ちょっと待てよ?


「篝の()()()て、やっぱり……」


「おかげで残りの奴ら全員片付け終わったよ。例の1人以外」


 笑顔の篝に、どこかドヤ顔の天音。

 そんな好戦的な2人のノリをスルーし、幻夜は小さく溜め息をつくと


「──やはり見つからないか」


「あぁ。てか、オレも結構な範囲を捜索(さが)したけど手がかりすら……もしかして、人界(こっち)にいないんじゃね?」


「……かもね」


 天音の言葉に篝たちが頷く。それはほぼ、確信。


 そんな話をしているうちに、おにぎりを食べ終えた彼方は白叡を再び肩に乗せ、立ち上がった。

 綺麗に畳んだ風呂敷を天音に返しつつ


「で、これからどうするの?」


 その一言に幻夜は篝に視線を向けると


「例の大物はともかく、こっちで人の姿のまま戦うのも…この先キツくなるんじゃないかい?」


 あ、そうか。こいつら人間verのままで鬼の実力者を相手してたな。


「やっぱり違うものなのか?」


 俺の素朴な疑問に彼方が苦笑をうかべて答えた。


「あーうん、気配や妖力(ちから)を抑える目的でこの姿でいるからね。やっぱり元の方が動けるし妖力も使いやすいよ」


「それに…篝じゃねぇけど、流石にこの先は目立つことが増えるかもしれねぇな」


 天音の言葉にムッとした様子で篝が言い返す。


「人界がごちゃごちゃしてるから悪いんだよ。戦うにしても、武器使うにしても、狭いし邪魔だしやりにくい!」


 篝の勢いに、彼方が苦笑混じりに頷いた。


「まぁ、それはそうだろうね。篝は特に」


 確かに篝の銃や刀はもちろん、金棒どころか金属バットを振り回したって通報されるような世の中。

 しかも雑多で人が多いから目立つどころか、下手したら災害級の被害が出る……?


「あ、篝も結界張れば良いんじゃないのか?」


 何気ない俺の一言に、一切やる気のない笑顔で


「出来ないこともないけど……そういうの、ボクはあんまり得意じゃないんだよねっ」


 その言葉には白叡が溜め息をつきつつも、一応フォローする。


『まぁ…結界の種類や強度いろいろあるし、術者の実力や向き不向きもあるが……』


「結界系は幻夜くんの担当だしね?」


 悪びれる様子のない篝に幻夜は面倒そうにその綺麗な顔を歪めた。


「…………君らが面倒な(やる気ない)だけだろうが」


「でも、ボクらの中で一番得意でしょ⭐︎」


 即答した篝の笑顔に深い溜め息をつく幻夜。それには白叡が気の毒そうな視線を向けていた。

 ただ誰も否定しないあたり、幻夜が結界担当なのは昔も今も変わらないのだろう。


「……で、どうするよ?」


 天音は皆の表情を伺うようにぐるっと見回す。


「まぁ… 人界(こっち)にいる方が安全かもだけど」


「面倒が増えるだけで、何も解決はしない」


 彼方の言葉に幻夜がそう続けると


「とりあえず、一回戻ってみない?」


 もう好戦的な笑みを隠す気のない篝。

 溜め息混じりではあるが特に否定する様子もない幻夜たちを確認し、天音もニカッと笑う。


「じゃあ行くか!」

 

 篝は大きく頷くと、俺に向かい手を差し伸べた。


「行こう、幻妖界(げんようかい)へ!」



 ────幻妖界


 広大に広がる巨大な暗い森……紅牙の隠れ家がある森の前。

 篝の手を取ったかと思えば目の前が霧に包まれ、気付けば以前天狗2人に連れて来られたのと同じ場所に立っていた。


 ……結局、戻ってきてしまった。

 覚醒どころか、まだ記憶も戻らないままなのに。


 また勢いで来てしまった気がしないでもないが、仕方がない。

 これ以上、鬼のせいで被害を出すわけにもいかない。


 ──次の瞬間。


「「「「『!!』」」」」


 背後に急に感じた気配に、俺以外が一斉に振り返る!

 

 遅れた俺が皆の視線を辿ると、そこには大きな岩の上に腰を下ろし、こちらを見つめる……男?

 俺たちが到着した時にはいなかったはず。少なくともこいつらが気づく気配はなかった……はず、だ。


 警戒する俺たちに、男はそのまま笑顔で馴れ馴れしく話しかけてきた。


「やっと来たねぇ~。()り合うなら人界(あっち)より幻妖界(こっち)がいいなぁ、と思って待ってたんだよぉ」


「……やっぱり、()()()にいたようだね」


「にしても、よくココが分かったね?」


 視線を離さぬままの幻夜と篝の言葉に


「この森、君らの隠れ家(アジト)があるらしいじゃん? だから森の入口(ココ)で待ってたら来るかなぁ、って思って」


 軽薄そうな声音とは裏腹に、その存在感…いや威圧感が只者ではないことを物語っていた。

 雰囲気? 気配……いや妖気が明らかに今までの鬼とは違う。


「こいつが…篝の言ってた()()か?」


 俺の問いに篝が頷く。

 

 整った顔立ちの青年ではあるが、その深緑の瞳は鋭く、冷たい。

 長身で細身の筋肉質。袖なしの黒着物に黒袴、前髪に金色のメッシュが入った長い黒髪に鬼の二本角。

 ──正真正銘、妖の…鬼。しかも皆が警戒するような実力者。

  

「直接面と向かって話すのは初めてだよね……篝、紅牙。俺は十六夜(いざよい)、初めまして」


 笑顔で軽く挨拶し俺と篝だけじゃなく全員を見回す。


「……いやぁ、紅牙の仲間(お友だち)も全員揃ってるなんて、俺ツイてるわぁ」


 ニヤリと牙の覗く口元を歪ませ


「皆殺しにできるじゃん」


 そう言うと岩から降り、こちらへ向かいゆっくり近づき──足を止めた。

 

17年前の件(あのゴタゴタ)……妖の…()()宝に手を出すなんて馬鹿な事したねぇ?」


 改めて順番に俺たちをまるで舐め回すようにじっくり見る。


「……そもそも同族()()なんだよ。天狗や妖狐(格下)なんてのと手を組むなんてさぁ……紅牙も所詮はザコ、てことだよねぇ」


 その言葉に一瞬で空気が張り詰めた。

 仲間たち(こいつら)がぴくりとわずかに反応した……気がする。


「だいたいさぁ…鬼ってのは()()なのよ。それが他種族と仲良く? ましてや、仲間ごっこ? 馬っ鹿じゃないのぉ!?」


「……ッ」


 見え透いた挑発。

 そんなことは分かっているのだが、無性に腹立たしい。

 流石に()だって良い気はしない。

 いつもだったら煽り倒す側の篝ですら、その茜色の瞳にわずかに怒りが宿っているようにも思えた……その時。


「──うるさいよ」

 

 …………え?


「……星酔はともかく、他人(お前)にオレたちの何が分かるの? オレらは仲間で大切な友だち…()()()()も、オレらが決める」


「彼方…ちゃん……?」


 挑発に乗ったのは意外にも彼方だった。

 珍しく苛立ち…怒りが混じる声音に、篝だけでなく思わず彼方を見る俺たち。


「篝、ごめん──オレにやらせて」


 静かにそう言うと、肩に乗っていた白叡を俺に預け、前に出る。


 誰も止めない。いや、止められない。


 ──風が吹き抜ける。

 それはあまりにも冷たく、体…いや魂までも()てつかせてしまいそうな冷気。


「オレたちは変わらない。昔も今も」


 彼方の言葉には強い意志が宿っていた。

 そして、琥珀色の瞳が金色へと変わっていく──!


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