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何だか複雑!!?

 幻夜の旧友であるフジにより…この妖力制御腕輪(バングル)が幻夜のお古で、ある意味()()()つきであるということが判明した……幻夜の不機嫌さと引き換えに。

 だがそんなことはお構いなしに、フジは腕輪(これ)を入店の“鍵”にしてくれたようで──どうやら俺が腕輪に念じればこの店への()を開いてくれる、ということらしい。

 とはいえあくまでも俺が来ても大丈夫な時のみだから、開くかどうかタイミングにもよるようだが……まぁ、そうか。他の妖怪がいる時に来店できたとしても、下手したら死を覚悟しなければならなくなる。


 そもそも、俺一人でこの店に来たいと思うようなことがあるのだろうか……?

 それに、もしその時があったとして、高くつきそうな()()はどうするんだ……現金かどうかも分からないが、俺に請求されても困る!


 ……そんな俺の戸惑いを察したのか、


「宗一郎が個人で来た時のお代も幻夜が払うから気にしなくていいよ。いつでも…というわけにはいかないけど、何か困ったことがあったら腕輪に念じ(来店チャレンジし)てみてな」


 来店チャレンジ……そんな緊急事態が一人の時に来ないことを祈るよ…。

 俺の気持ちを知ってか知らずか…にこやかな営業スマイルのフジに見送られ、店を後にした俺たち。

 そのまま歩きながらマンションへと向かう──が、その間に流れる沈黙は何だかちょっと気まずいくらいの空気感!?

 

 やがて、しばらく続いたこの重めな沈黙を破るように幻夜が小さく溜め息をつくと、


「……さっきの…僕とフジの個人的な話は…まぁ、忘れてくれて構わないよ」


 バツが悪そうにそう言った。……が、幻夜のいつもと違う一面が見れて驚きはあったけど、俺としては良かったと思う。


 そう答えると、幻夜は少し気まずそうに、


「……僕は…あんまり見せたくはなかったけど……まぁ、今更だな」


 そう言って仕方なさそうに笑った。

 まぁ、確かに今更…俺にも、俺の中にいる白叡にも見られてるし、もしかしたら以前店に来たという彼方も二人の様子は見てるかもしれない。


 いや、フジとのやり取りだけじゃなくて。

 それでなくとも、いつも本音を嘘くさい笑顔(仮面)で隠しているような幻夜だ。

 そんな幻夜の素の部分──仲間…紅牙は見慣れているのかもしれない。

 幻夜の言う“今更”はそっちの意味……そう思うと、何だか嬉しいような気もする。

 幻夜がどう思うかは別として、仲間たちに…紅牙に見せていた素の部分を垣間見れた、それは()がその“仲間”の一人なのだと実感させてくれるのだから。


 ようやく先ほどの痛い沈黙が柔らかな沈黙に変わり、そのまま歩くこと数分。

 気づくとマンションに到着…入り口(エントランス)のところで幻夜は足を止めた。


「僕はこのまま出かけるけど……大丈夫かい? 今日はゆっくり休んで…一応、飲み物くらいならあるけど、キッチンも好きに使って良いからね」


 その言葉に俺は素直に頷きつつ、せっかく立派な部屋があるのに留守がちな理由を聞いてみたが……


「まぁ、いろいろと。友人の店を手伝ったり…とかね」


 そう言う幻夜の表情は笑顔…いつもの嘘くさい笑み。


「店? ……もしかして、それってホス…」


()()()だよ」


 もしやと思って聞いてみただけだが、言い終わらないうちににっこり笑顔で濁された!?

 ちなみに、友人とは…フジとは違う友人らしい。が、おそらく妖怪……だろうな。

 なんだか幻夜の雰囲気含め、現金収入元が分かった気がした。


 そのまま幻夜を見送り、俺(+白叡)は部屋に戻る。

 相変わらず生活感皆無のキッチンに立ち寄り、何か飲み物がないかと冷蔵庫を開けてみると……そこには大量にミネラルウォーターのペットボトルが常備されていた。

 一応確認してみたが、水以外には酒類しかない。

 ……まぁ、いい。

 俺は水を1本もらってゲストルームへ戻り、そのままベッドに横になった。


 無音の室内──天井を眺めていると最近自分に起こったことが脳裏によぎる…が、ろくなことがないのですぐに深く考えるのをやめた。


『──良い心掛けだ。考えたって仕方ないのだからな』


 不意に聞こえた白叡の…ドヤ顔が浮かぶような言葉に、俺は思わず苦笑を浮かべる。

 まぁ、彼方も白叡も“現実を楽しめ”みたいに言うくらいだしその前向きさは見習わないとだな。


 そういえば……今頃彼方たちどうしてるかな?

 やっぱり怒られたんだろうか?


 その疑問に白叡は盛大に溜め息をついた。


『……彼方(アイツ)のサボりは常習だし、怒られるのもいつもの事だ。そもそも、アイツが怒られたくらいでどうにかなると思うか?』


 確かに。少なくともあの感じでは反省…はしないだろうな。常習だと言うなら尚更か。

 ……まぁ、飯抜きとかなら多少堪えるかもしれないが。

 それより、むしろ心配なのは天音の方だ。

 あの空露(カラス)の様子を思い出して、ちょっと心配にもなったが……


『あー……天音の方は…………まぁ、それもいつもの事だ』


 白叡の妙な間と、珍しく声音に同情が微かに混じっている気がして、やはり天音が心配になった。

 もう、こればかりは無事を祈るしかない。


 ていうか、あの天音がビビるくらいだ…天狗軍の上司はそんなに怖いのか?


『総大将はともかく、うるさいのは軍師の方だな…』


 総大将と軍師……まさか現代日本でそんな役職現役の話を聞くことになるとは思わなかったが。

 そういえば、彼方は総大将に思い入れがある様子だったな…言うことは聞いてないようだけど。

 紅い荒野での夜、聞こえてきた彼方と天音の会話……彼方の戸惑いや迷いの混じる声音が耳に残って──…


『聞いていたのか……まぁ、総大将(獅威)は特別なようだからな──』


 特別──か。

 気にならないと言えば嘘になる。

 大体のことに対してドライ…というか、どうでも良さそうな印象のある彼方だが、その彼方が紅牙や仲間以外に拘りのありそうな人物らしいのだから。

 というか、俺の中の紅牙も気にしている様子だったのが引っかかってもいるのだけれど。


 ……まぁ、今考えても仕方のないことだ。


 今日はもうさっさと寝る準備をして休もう!

 全部、明日だ! 明日から考えよう!!

 紅牙の記憶を取り戻すと決めたのだし、何か少しでも先に進みたい。

 ほんの小さなカケラでもいい……かき集めればいいのだから。

 自分で考えているだけでは解決しない。そもそも闇雲に生まれる前の記憶をたぐろうなんてのは無理がある。

 今の俺にでもできることから始めよう…!


 そう自分に言い聞かせ、眠りについた。


 ──翌日。

 目が覚めたのは昼前だった。久しぶりのベッド…しかも高級ベッドのおかげかぐっすり眠れた気がする。

 どうやら幻夜は留守のままで、昨夜から戻ってきた形跡もなかった。

 俺は軽く身支度をしてマンションを出ると、近所を散策しながらコンビニで適当に買い物し、目に入った公園に立ち寄ることにした。


 小さな公園。

 静かで日当たりも悪くはない、何より人がいない──丁度良い。

 人はいないが万が一の人目を避け、俺は奥の方のベンチに腰を下ろした。

 そして、先ほどコンビニで買ったツナ缶をパカッと開けて自分の横(ベンチ)に置いてから、


「白叡、約束のツナ缶だよ」


『…………オイルタイプだろうな?』


 そう言いつつ、俺の左手から出てくるとベンチに降り立つ白叡。

 ……だが、俺とツナ缶を交互に見てなかなか口をつけずにいるので、


「あぁ…大丈夫、幻夜にもらった金じゃなくて俺の小遣いからだよ。人形戦の時のお礼」


 俺が改めてお礼を言い、安心して食べるよう勧めると、


『……なら、もらってやるか』


 そう仕方なさそうに言い、ようやく食べ始めた白叡……は、その言葉とは裏腹に嬉しそうに見えた。


 人形戦でSうさぎの攻撃を防ぐために約束したツナ缶だが、あの時は白叡が紅牙()の妖力を引き出して防いだんだよな……結果的に助かったが。

 まぁ、一応約束は果たせたのだから良しとしよう──若干納得はいかないが。


 しばらく白叡がツナ缶に夢中な様子を見守りつつ、俺も買ったおにぎりとお茶で簡単に朝食をとっていると、不意に白叡が食べるのを止めて顔を上げた。


『……おい、宗一郎』


「え?」


 白叡は公園の入り口方向を警戒…いや、威嚇している──?

 まさか、妖怪()か!?


 白叡の目線の先を辿る……と、こちらにゆっくり近づいてくるのは見覚えのある青髪の優男。


「──お久しぶりです、宗一郎」


「星酔……!」


 にこやかな星酔とは対照的に、俺たちは警戒モード全開。

 それでも構わず笑顔を崩さないままで、


「どうでした? 久しぶりの幻妖界は」


 俺が幻妖界へ彼方たちと行ったことは承知していたとして、帰ってきたことにはどうやって知ったのか……それを確認する気はないが、この状況は星酔の物腰ほど優しくもフレンドリーなわけでもないことは分かる。


『……この前は不意打ちで、とはいえ…よくもやってくれたな? 今日は……殺されに来たのか?』


「ふふっ…相変わらずうるさい飯綱(イタチ)ですね……』

 

 微笑む星酔に、それを見据える柘榴色の瞳は殺意剥き出しのまま。


『──聞こえなかったか? 何が目的だ?』


 以前は星酔の術で深く眠らされた白叡だが、今回は状況が違う。

 不意打ちのタイミングでも無ければ、妖力強化もしている──星酔の実力がどの程度なのかは分からないが…おそらく、状況的に不利なのは星酔の方のはず。

 それでも星酔はにこやかに答えた。


「宗一郎の様子を伺いに」


『……』


 星酔の笑顔を忌々しそうに見つめる白叡。

 俺は意を決し、しっかりと星酔を見据え、


「なぁ……星酔は幻夜に言われて、俺のところに来ているのか?」


 俺の確認を星酔は軽く溜め息混じりに首を振る。


「……いいえ、あの方は()()そんなことはおっしゃいません。あの方の望みは、あなたの記憶が戻ることと紅牙としての覚醒──私は望み(それ)を叶えるお手伝いをしたいのです」


「幻夜に命の恩があるからか?」


 俺が知っていることを驚いたように一瞬だけ表情を変えたが、


「──ええ。今この命があるのも、生きていられるのもあのお方のおかげ、妖狐一族のおかげなのですから」


 すぐにいつもの笑顔でそう答えた──感謝の念を込めるように。


 俺としてはフジの店での幻夜の話を思い出し、複雑な気持ちだ。

 幻夜にとって星酔は“あくまでも知人”であり、“ただの駒”なのかもしれないが、星酔にとっては……


『……』


「宝の在処が分かれば幻妖界のため、妖狐のためになる。そのためには一日も早く、紅牙の記憶を取り戻して覚醒する必要があるのです。あの方は高位の妖狐として、妖狐のため…幻妖界のために尽力されている……そのお手伝いを出来るなんて、僕自身大変光栄だと思ってますよ」


 ぅん???

 幻夜が高位の妖狐かはこの際置いておくとして、あいつが妖狐や幻妖界のために動いている??


 …………そんな様子あったか?

 まぁ、鬼哭の件で幻妖界への影響が…みたいなことは言っていた気はするが。

 少なくとも俺には、幻夜は紅牙や彼方…仲間のために動いているように見える。良くも悪くもだ。


「幻夜がそう言ったのか……?」


「……」


 俺の問いに星酔の笑みが固まった…ように見え、そこへ白叡が核心を突くように続けた。


『……あのキツネがどう思ってるかは知らんが、()()がそう思いたいだけだろう?』


 白叡の言葉に今度こそ星酔から笑みが…表情が消える──()()が全てを物語っていた。

 

「──……お前に何が分かる…天狗の腰巾着が」


『なんとでも。ただ、お前の目的…本当の望みは分かるぞ──天狗…いや、彼方への復讐だろう?』


 そして、白叡は断言した。


『少なくともオレ様の主はな、お前の思うようにはいかない。決して、お前に負けるようなことはない』


 ──と。

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