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再スタートはココから!!?

 天狗の元へ一旦帰って行った天狗二人と、後から人界へ来ると言っていた篝を幻妖界に残し……俺と俺の中にいる白叡、そして幻夜は人界…俺の家の前に立っていた。

 昼間…午後な感じはあるが、家に人の気配もない……両親は留守にしているようだった。


「俺が幻妖界に行ってる間にどのくらい時間が経ってるんだ…? 家族とか……俺のこと探してたりしないのか??」


 時間の流れが同じならば、金曜の学校帰りに連れて行かれて…幻妖界で三晩過ごしているから、今日は月曜日ということになるはずだ。

 確かめるように幻夜を見上げると、幻夜はポケットから取り出した腕時計を確認し、


「時差はほとんどない……今は月曜の午後2時をまわったくらいだ。それから…一応、宗一郎の家族に暗示がかかるようにしてある」


「暗示?」


 暗示なんて……いつの間に!?

 というか、どんな暗示をどうやってかけたんだ??


「あぁ、正確には幻術だけどね。宗一郎、公園に荷物を置いたまま幻妖界(あっち)に行っただろう?」


「あ…そういえば……そうだった」


 そう、あの時は学校帰りで…彼方と天音に成り行きで幻妖界に拉致られたんだった。

 その時に持ってた鞄…いつの間にかなくなってしまったかと思っていたが、幻夜が回収していたのか……?


「その荷物を介して術をかけたんだよ。君がいないことに違和感をもたないように、ね」


「……」


 そもそも荷物をどう入手したのか……やはり星酔経由だろうか?

 そして、複雑な気分になる暗示内容……とはいえ、実際助かった。

 少なくとも家族たちに心配をかけることはなくなるんだから。

 だが…自分がいないことに違和感がない、というのは少々寂しい。


 幻夜はそんな俺の気持ちを察したのか、


「……簡単に解けるものだから安心していい。暗示を解くのは…」


「いや、今はいい。着替えだけ持ってくるよ」


「──…いいのかい?」


 遮るように言った俺の言葉に驚く幻夜。

 俺はできる限りこの複雑な気持ちを押し込めて頷いた。


「うん。まだ何も解決してないから」


 日常に戻るのはすべてが解決してからでも遅くはない。


 そのまま玄関先に幻夜を待たせて、そっと家に入り……俺の部屋へ。

 手早く着替えを済ませ、ふと見ると…机の上にあの時忘れていったはずの鞄が置いてあった。

 特に見た目は何も変わったことはないが、これに幻術が?

 ──まぁ、いい。

 とりあえず、着替えと財布とスマホさえあれば大抵大丈夫のハズだろう。

 念のため別の鞄にそれらを適当に詰めて、部屋を出た。


 そして幻夜と合流し、歩き始めたところで……


「幻夜、一つお願いがあるんだけど」


 俺の言葉に、先を歩いていた幻夜が振り返る。


「暗示、なんだけど……家族とかだけじゃなくて、学校…いや、俺と関わってる人間にもかけられないかな?」


 そうすれば、今までの日常生活で関わった人たちが俺の不在を気にとめなくなる。

 ……出来る限り迷惑をかけたくない。


「……分かった」


 一瞬の間があった後、幻夜は俺の提案に頷いた。


 俺は、別に帰る先を無くした…退路を絶ったわけでも、今までの人生を捨てたつもりもない。

 ただ、目の前の現実に真剣に向き合うためには必要なことだと思ったからだ。

 もちろん、無事に事が済んだら……その後のことは…その時考えよう。

 幻夜の話では、俺の持ち物を媒体に術をかけているようだし、このまま俺のスマホでより強化した術をかけると言ってくれた。


 ──と、そこまではいいとして。

 自宅に戻らないと決めたはいいが、これからどうしたら…どこへ行けばいいのだろう?


「家に帰らないなら…とりあえず僕のマンションに来るかい?」


「え? マンション!?」


「人界に滞在することが多いから、一応あるんだ」


 まぁ、暗示を解く気がない以上、俺に住む場所のあてもない。

 ひとまずは申し出どおり、幻夜のところへ行くのが最善…か?

 今後のこともちゃんと相談したいし。

 それに、幻夜には聞きたいことがいくつかある──。


 断る理由もないまま幻夜に連れてこられたのは、見るからに豪華なマンション。

 どこをどう来たのかよく分からなかったが…俺の家からはそれほど遠くもない場所にまさか妖狐所有物件があるとは思わなかったよ……。

 しかもそれが、造りもセキュリティもしっかりした高級マンションだとはな。


 最上階だという幻夜の部屋に案内されたものの、あまりの高級感にちょっと緊張すらした。

 広さもそれなりの3LDK。リビングに通され、勧められるままにソファへ腰を下ろす。


 他人の家というのとはまた別の居心地の悪さを感じつつも、入れてくれた紅茶にそっと口をつけながらチラチラとあたりを見てみるが、リビングだけでなく全体的に造りはともかく…家具なども必要最低限で生活感は皆無。

 “一応”と言っていたとおり、ほとんどここでは寝泊まりどころか、滞在すらもしていないような感じで……まるでホテルとかショールームのようだった。

 これは……正直、もったいない。

 

 そして出された紅茶はもちろん、ティーカップも高級そう。

 ただ、幻夜自身が使っていたのは、おそらく自分専用(お気に入り)であろう陶器タンブラー(湯呑み)だった。

 唯一感じた生活感はそのくらいだろうか…?


「さて、これからどうするか…だね」


 そう言って幻夜は俺に視線を移した。


「…俺は……どうすればいいんだ?」


 思わず聞き返した俺に、幻夜は小さく溜め息をついてから、


「すでに君の存在は鬼たちにバレてしまっているし、命は狙われ続けるだろう。まぁ…無意識に妖気が放出するくらいだから覚醒は近いのだろうけどね……」


「覚醒…か……」


 幻夜が言う“覚醒”とは、俺が紅牙の記憶と妖力を取り戻すこと──?


「とりあえず、力の使い方は記憶が戻れば自由に出来るだろうが……」


 幻夜は、俺の右手首の妖力制御腕輪(バングル)をちらりと見ると、


「それまでは腕輪(それ)をしていた方が良い。無意識に漏れ出る妖気くらいなら、なんとかなるはず……気休め程度かもしれないが」


 確かに、俺自身が無自覚に……てのが一番厄介だ。

 それに…ヘタに妖気を放出して敵に狙い撃ちされても困る!

 気休めだろうが、安心材料はあった方が良いはずだ。


「とりあえず、人界(こっち)でしばらく様子を見るしかないね。ここにいるのもあくまで時間稼ぎだ。このうちに…彼方クンたちと合流できるまでに覚醒出来ればベストだけど……」


 幻妖界にいるよりは安全なはずだからと人界に戻っては来たが、紅牙…俺の命が狙われていることに変わりは無い。

 どうしたって、俺が記憶を取り戻さなければ何も解決しない……改めて突き付けられる現実。 

 幻夜だって、他の仲間だって()()を望んでいる──だから心配されたり、面倒を見てくれているんだろうし。


「そうは言っても、急に覚醒が進むわけもないだろうから……まずは体力を回復させて…少しでも状況や気持ちの整理をしてくれれば良い」


「うん……」


 そうだ。幻夜の言うとおりだ。

 いくら自分で前向きになろうとしても、焦って…無理があったらいつかバランスが崩れるだろう。


「まぁ、戦闘いで覚醒するっていうなら…僕が相手をしてもいいけど……」


 ちらりと俺に視線を移し、口元に笑みを小さくうかべて呟いた、幻夜。


 いやいや! 無理だから!!

 そんなの、絶対覚醒する前に俺が死ぬ!!


 幻夜の戦闘力がどうとかの問題ではない。

 こいつらを相手にしたら結果は分かりきっている…確実に殺されるだけだ。


「ククッ……冗談だよ。宗一郎に少しでもケガさせたら彼方クンに合わせる顔がない」


 もう……マジで冗談(シャレ)にならない…!

 幻夜は焦り困惑する俺をからかうようにひとしきり笑ってから、


「まぁ…しばらくは、()()を好きに使うといい。一応この部屋全体に僕の結界が張ってあるけど、君の出入(ではい)りに問題はないから」


 そう言うと改めて俺を見て、

 

「……人界(こっち)にいる間は、僕が責任を持って君を護るからね」


 珍しく…優しく微笑んだ。

 

 確かに幻夜が護ってくれるなら安心なはず。白叡もいてくれるし。

 ──問題は、俺の覚醒…か。

 気が重くなる俺。それに気づいたのか、


「暗い顔をしていても状況は変わらない……まずは一旦気持ちを切り替えていこう。何かヒントが見つかるよう、僕にできることなら手伝うから」


 ()()()()()()()()

 幻夜も彼方たちと似たようなこと言うんだな……まぁ、幻夜の場合はもっと合理的とか建設的な感じがするけど。

 ──まぁ…悩んで、落ち込んでいる暇はないのも事実か。

 

 気持ちを切り替えるよう小さく頷いた俺に、幻夜は苦笑をうかべると、 


「僕にだって、君に思い出して欲しいことはいくらでもある…宝のこと以外でもね。それに……正しい判断を下して欲しいからこそ、こうして一緒にいるんだよ」


 “だから、早く思い出して…覚醒して欲しい“

 “紅牙に帰ってきて欲しい”


 ──ああ、分かるよ。

 幻夜がこういう言い方をする時は、幻夜の本心だって。

 正しい判断……というのはまだ自分にはピンとこないけど、きっとそこにも意味があるのだろう。

 

 俺たちの間に一瞬流れた沈黙。だが、幻夜は空気を変えるように、


「さて……僕はこの後用事があるから少し出るけど、戻ったら食事に行こう」


 そう言って紅茶を飲み終えた俺を連れ廊下に出ると、間取り(部屋)を簡単に案内してそのうちの一つのドアを開けた。


「とりあえず、この部屋を使ってくれたらいい」


 幻夜に促されて入った部屋は、これまた生活感のないキレイなゲストルーム。

 八畳くらいの洋間で大きな窓の明るい室内──ベッドとテレビ、ソファとテーブル、小型の冷蔵庫まであってまるでホテルの一室のよう……。


 俺が呆気に取られていると、


「夕方には戻るよ。それまで好きに過ごしていてくれて良いから」


 そう言い残し、幻夜は現金一万円と玄関の電子カードタイプの合鍵を手渡して部屋を後にした。

 そして、この場に俺は一人(中に白叡もいるが)取り残されたのだった──。

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