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やっぱり、妖!!?

 張り詰めるような…緊迫した空気の中、再び始まった二人の戦闘(たたか)い──

 一方は鉤爪(媚薬仕込み)、もう一方は日本刀の二刀流。


 蘭丸は鋭い鉤爪で篝の命を狩り獲るべく、確実に急所を狙う。

 だが、篝はそれを片方の刀で軽くさばき、もう片方で攻撃する。

 身長では蘭丸の方が優っていても、篝の間合いは広く、体格の不利さを感じさせない攻撃の重さがあった……!


 薄明かりの中、双方の攻撃が噛み合う硬く重い金属音が響き、激しい火花が散る──。


 ……俺から見ても、戦況は明らかに篝が優勢だ。

 けして、蘭丸が弱いわけではない。

 ただ…篝の太刀裁きと身のこなしが、それをはるかに上回っているだけで……。

 

 これは、明らかに実力の差がある戦闘い。

 次第に篝の攻撃が蘭丸を追い詰め、その動きを確実に捉え始めていた──!


 蘭丸の表情が焦りと恐怖に染まっていくのとは対照的に、篝は攻撃の手を止めることなく……


「……なに? こんなものなの? ボクのために努力してきたのなら──もう少し楽しませてよ」


 その形の良い口元には……残酷な笑みをうかべている!


「──…ッ」


 それでも蘭丸は、恐怖を振り払うように更に攻撃を仕掛ける……!


 俺としては…まさか篝がこんなに強くて、しかもこんなセリフを言うなんて……思わなかった。

 が、これはやはり──“妖”故なのだろうか?


 そんな篝を見つめつつ、


「……篝…本気で殺る気かなぁ?」


 特に感情もこもらない彼方の直接的な言葉に、俺は……少し複雑な気分になった。


「どうだかなぁ……まぁ、楽しそうだがな」


 彼方の言葉を、天音も否定しない。

 このまま二人の言うように、篝は蘭丸を殺す気なんだろうか?


 改めて二人の戦いに目をやると……お互いの間合いギリギリの距離で攻撃のタイミングを測っていた。

 だが、無傷で余裕の笑みをうかべる篝とは対照的に、蘭丸は追い詰められ傷つき…深手を負っている状態。

 にも関わらず──…蘭丸は、まさに獣の鋭い瞳で篝を睨みつけていた。


 これだけ実力差が明らかなのだから……篝が殺る気になれば、いつでもトドメを刺すことが出来るだろう。

 蘭丸だって、今のうちに退いた方が得策のハズだ。

 ……だが、お互いにそんな気配は皆無。

 篝はもちろん、蘭丸も戦いをやめるつもりはないだろう。

 それに、相変わらず幻夜も縁側から動かず二人の戦いを静観するのみ。


 戦いの結末は……見る限り、篝の()()()()


 ──この戦闘いは、今まで俺が見てきたものとはまるで違う。

 俺が知っているのは白叡の一撃必殺の首切りのみだから……かもしれないが、こういう本格的…というか、じわじわしたものを見るのは正直少し戸惑う。


 一言で言うなら……“弱いものイジメ”とも言えるような状況??

 バトル漫画とかでよくありそうな状況だけど……実際見ると…しかも強い方が身内(?)だと複雑な気分になる。

 かといって、俺が止められる訳もない!!


 ただ、最初はほとんど二人の動きを捉えられなかった俺だが……蘭丸の動きがケガで鈍ったせいか、だんだん目が慣れてきたせいか、少しずつだが目で追えるようになってきた……!?

 篝や蘭丸の攻防の全てが見えているわけではないが、特に篝の動き、強さ……というか、いわゆるその華麗さに見入っている自分に気付いた。


 その強さに魅了された…というべきだろうか……?

 そして、戦闘いを見ていた俺の中で何かが…高揚感にも似た感覚が疼き始めていた──。

 それは俺の中から湧き上がってくるような、まるで体中に熱い何かが駆け巡るような感覚?

 抑えきれない──…衝動!?


 [戦闘いたい……ッ]


 俺の中に眠る()()が激しく叫んでいる……!?


 こんなこと今まで一度だってなかった。

 どんな格闘技を見ようが、それこそ今まで妖怪に襲われた時だって。

 一度も…一度だって、こんな気持ちになったことなんてない…んだ。


 なのに──…()()は……

 あまりにも、本能的な感覚──

 目の前で繰り広げられている戦闘をリアルに見て、感じているからなのか──?


「……ッ宗一郎!??」


「…え……?」


 急に耳に入った彼方の驚くような声で、俺は我に返った……が、天狗二人が俺を困惑した表情で見つめている……?


 なんだ?

 どうしたというんだ……??


「お前…妖気が……ッ」


 天音がそう言ったのと同時に、


「「「!!!?」」」


 篝、蘭丸がその手を止め、幻夜までが俺らのいる障子(の隙間)に視線を向けた……!?


 ──?

 何が起こったのか、一人理解出来てない俺……だが、


「こ…この気配は……っ」


 蘭丸が困惑げにそう口を開いた瞬間、


「幻夜くんッ!」


 篝の一声とほぼ同時に幻夜は立ち上がり、


「……あとはよろしく」


 そう言って、何かを蘭丸に向けて投げた!!


「ッ!!?」


 それに慌てて反応しようとした蘭丸だが、それより早くその足元……影に突き刺さったのは黒い棒…いや、錫杖(しゃくじょう)!?


「くっ……!?」


 まるでその黒い錫杖に影を縫い付けられたかのように……動きを封じられたのか、もがく様な蘭丸に、その間合いを一気に詰めた篝!

 同時に、その手にしていた二本の刀が、再び変化し──


「ちょっ……!?」


 驚愕と狼狽した表情を見せた蘭丸に、


「またね? 蘭丸」


 篝はニッコリそう言うと……


 カキーーンッ


 一本の太い、トゲ付き金棒に変化したソレで、フルスイングした……!!?


「覚えてなさいよ―…ッ!!!」


 そう叫びながら、遠くへ飛ばされた蘭丸──!

 それは…星の一つになったかと思うほどの見事なホームランで……キレイな軌跡を描き…蘭丸はその姿を消した。


 一瞬の間に起こった出来事…戦闘いの結末に、唖然としていた俺。

 ……だが、慌てる天狗二人同様、篝と幻夜も様子がおかしい?

 二人が駆け寄って来て、そのまま勢い良く俺らの前の障子を開け──


「「宗一郎!?」」


 二人の声がハモる……!

 ──だが、いったい何が何だか…何が起こっているのか、俺は理解が追いつかなかった……。


 何で皆…そんなに慌ててるんだ──?

 口々に皆が俺に向かい、妖気がどうの言っている……?


 四人の慌てている様子や、幻夜が隠れ家の結界を急いで強化しているのを……俺は訳も分からず、呆然と眺めていた。

 皆の会話なんてろくに耳に…頭に入ってこなかったが……どうやら、俺から妖気が出ているらしい──?


 言われてみれば……俺の体から淡い光が出てる…のか?

 それに、体が熱いような気がする……??


 俺に分かるのはその位で──妖気が出てると言われても、もちろん俺には出してる自覚なんてなかった。


「とりあえず、気配を抑えないと……っ」


 彼方は慌てて言ったが……そう言われても、俺にはどうすればいいのかなんて分からない…!


「宗一郎…ゆっくり深呼吸して、気持ちを落ち着けて……!」


 篝に言われるまま……ゆっくり息を吐く。

 俺はしばらく深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせることに専念する──…と、


「──…もう大丈夫そうだな……」


 天音が溜め息混じりに…ホッとしたように言う。


 ……どうやら、収まったのかな?

 確かに俺の体から出てた光も消え、気分もいつもどおり……?


 すると、


「……だが…何でまた急に……?」


 天音が呟くように言う横で、彼方は俺に向かい、


「……宗一郎…この前、白叡が手伝って一度妖気解放したんだって?」


 ……彼方は白叡から聞き出したのか、Sうさぎたちに襲われた時のことを言っている??

 確かにあの時……白叡の思惑で(?)、俺は妖気を引き出されたらしいから──。


 彼方の言葉に思い当たった様子の俺に、


「──…てことは、一度解放されてるだけに出やすくなってる…ってことか……」


 溜め息混じりに結論を口にした天音。

 それに彼方は軽く頷いてから、


「宗一郎、もしかして…篝たちを見て何か感じるものがあった……?」


「あ……う…ん、ちょっと……」


 そう言いかけた俺に、幻夜が……


「──戦闘いたくなったのかい?」


「……ッ!!?」


 言い当てられ、驚く俺。

 その反応を見た幻夜以外の三人が顔を見合わせた。


 ──…確かに、俺は彼方と幻夜の言うように、あの戦闘いを見ていてそう感じたんだ。 


 “──戦闘いたい!”


 急に湧き上がってきたあの感覚…感情はまさに、その一言に尽きる……。

 何故、そう思った──?

 そんなこと……俺が知る訳ない。

 何より、俺自身は絶対に思うはずないことだ……!

 だが──…おそらく、この場にいる全員が同じことを考え、導き出している答え……


 これが紅牙の……“妖の(さが)”である、ということなのかもしれない──

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