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嘘だと言ってくれ!!?

 なんでこんなことに巻き込まれてるんだ!?

 どう考えても分からない──なんで俺は追われてるんだ??


 恐怖と混乱の中、俺──高瀬 宗一郎(たかせ そういちろう)はただひたすら逃げていた。

 いつもどおりに高校を出て、まっすぐ自宅に帰ろうとしただけなのに……大通りを外れた瞬間から後を尾けてくる気配、それに気付いてからすでに10分は経過しているはずだった。

 気のせいではない、確実に尾けられている!

 最初は気づかないふりをしていたのだが、早足で歩いても走り出しても振り切れなかった。

 学校生活だけではない、真面目に大人しく生きてきた俺には尾行される覚えなんてないし、ましてやこうして全力疾走で逃げなきゃいけない覚えもない。なのに、容赦なく追ってくる気配。

 制服(ブレザー)にスニーカーとはいえ足にはそれなりに自信があったのだが、全然振り切れない。

 気づけば、昼間なのになんだか薄暗い人気のない道!?

 それでも必死に逃げる俺──


「あ……ッ」


 ズザザザァ……!


 こんなところで転倒(ころ)ぶなんて……!

 いかにもな展開に己のドジさを呪い、痛みに耐えながら身を起こす。

 だがすでに、すっかり囲まれている!?

 ──そこでようやく、追ってきていた気配の姿を確認した。


「何なんだよ…お前ら……!??」


 俺を取り囲む数人の男たち……その姿は全員若い男だが、どうも普通の人間とは思えない。よく漫画や映像とかで見る人間と妖怪のミックスのような、中途半端に人間ってかんじ。

 服装も肌や髪の色も普通ではあったが、そいつら全員耳も歯も鋭く尖って、その殺気だった赤い瞳は俺をしっかりと見据えていた。

 そいつらがじりじりと俺との距離を詰め、そのうちの一人が口を開く。


「──紅牙(こうが)、ようやく見つけたぞ」


 紅牙?? 誰のことだ……?


「お前の奪った宝は何処だ?」


 宝??

 何のことか理解ができない。

 だいたい、こんな人間離れした連中に知り合いなんているわけない!


「な……何なんだよ、お前ら!? 何のことだかさっぱり──…」


「しらばっくれるなッ!!」


 ようやく発することのできた俺の言葉をそいつは怒鳴るように遮り、


「──どうしても言わないのなら…」


 その言葉が合図になったように、俺を取り囲む奴らの爪が鋭く伸び、口からは牙らしきものが覗く……!

 そしてその姿は、中途半端な人間から完全なる妖怪へと変化している!?


 これは明らかに俺を()る気……?

 こいつらが何なのか、何故こんなことになっているのか……混乱し理解に苦しむ状況だがそれを整理する暇はない。

 ただ、今解ることは……──俺、殺される!?


「死ねぇ! 紅牙ァ!!」


「だから! 俺は紅牙じゃないって!!!」


 そんな俺の叫びを無視し、そいつらが一斉に飛びかかってきた!


「!!」


 もうダメだ……ッ


 俺はとっさに目を閉じた。

 その時。


「あ~、やっと見つけたぁ」


 明らかにこの場の緊張感も空気も読めていない……そんな声が聞こえた直後。


「ぐぁ……ッ」


 ボトッ……ボト…


 短い呻き声に続き何かが落ちた音だけが聞こえ、俺には一向に攻撃がこない……?

 …………??

 

 恐る恐る目を開けた俺が見たのは……


「!!?」


 ……思わず目を疑った。

 俺に襲いかかろうとしていた奴らの首が次々に切り落とされていく……!?

 あまりの光景に唖然としているうちに、最後の一人が倒れ……俺は恐る恐るさっきの声の主に視線を移す。

 そこには……背の高い、細身の若い男。

 モデルとか芸能人みたいな外見。こういう奴を中性的な美形っていうのか……?

 銀髪で琥珀色の瞳をしたそいつは、俺を見てにっこりと微笑んだ。


「大丈夫?」


「あ…あぁ……」


 頷いたものの、ここに倒れてる奴らを殺ったのはこいつ……のはず。

 なのに、そんなことをするような感じにも見えないし、丸腰で首を飛ばせるような刃物らしいものなんて持ってない。

 だがそもそも、こいつが味方とは限らない!

 そうだ、新たな敵という可能性だってありうる……!!


「…あ…あんた……いや、あんたら何者だ?」


 絞り出すようにやっと出た声でなんとか質問した俺に、そいつは不思議そうな表情を見せてから口を開いた。


「ん~? もしかして……覚えてないの? 紅牙」


 また紅牙か……?

 その名にしても、人外との関わりにしても……どうひっくり返したって、今までの人生を隅々まで振り返ったって身に覚えはない。


「だからッ、俺は何も……」


「……覚えてないんだね」


 そんな呆れるように言われても……


「人違いだろ? 少なくとも俺は“紅牙”じゃないし、関係ない……ッ!」


 そう苛立ち混じりに言ってみたが、


「いや、間違いないと思うよ?」


 きっぱり言い切られ、言葉を失う俺に、


「まぁ、いいや。場所かえて話ししようか」


 そう言ってそいつはにっこり微笑んで先を歩き出した。

 なんてマイペースなんだ……。

 しかし、これは拒否したら俺もさっきの奴らのように……?

 そう思って転がっていた死体に視線を移すが、


「!!?」


 俺は再び目を疑った。

 俺の目に映ったのは……そこにあったはずの死体がまるで黒い霧のように…黒い粒子になって消滅していくところだった。

 ──やっぱり人間じゃなかったんだな。

 というか、俺が知り得る限り、こんな死に方……消え方する生き物は存在しない!


「何やってんのー? 行くよー!」


 信じられない光景に驚き、固まっていた俺にそいつは足を止め振り返り、相変わらずマイペースに言う。

 とりあえず、この頭の混乱をどうにかするにはついて行くしかないのか?

 いや、やはり……おとなしくついて行かないと殺られるんだろうか??

 どうやら、俺には選択肢がないらしい。

 ……なら、せめて!


「おい! ちょっと待て」


「……なぁに?」


 俺の呼び止めた声に、再び歩き出そうとしていたそいつは振り返った。


「せめて、あんたの名前くらい教えろ」


「……」


 …………?

 俺の問いにそいつは一瞬悲しそうな表情を見せた……が、すぐに今までのような笑顔で答えた。


「オレは彼方(かなた)


 ……か…なた…?

 ?? ……あれ?

 何故か、その名を聞いて俺の心の片隅に感じた──これは…懐かしさ?

 初めて会った、初めて聞いた名前なのに…──?

 それこそ、さっき俺にみんなが言っていた“紅牙”という名には何も感じなかった。

 ……強いて言うなら、人違いで巻き込まれた苛立ちくらいか。


「どうしたの? 早く行こ」


 そう言うと彼方はまた歩き出す。

 俺はその後ろ姿をただ黙って追いかけた。

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