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第8話 呼び出し

 王城では夜会に出席しただけでなく国王陛下にも謁見し、二人で結婚の意思があることを報告した。国王陛下は私に対しては申し訳なさそうな表情で一度だけ謝罪を口にされた。そして我々が心から愛し合い結婚をするのだと感じ取ってくださったようで、祝福のお言葉をくださった。

 それと同時になにやら複雑そうな表情をされていたけれど、それは気付かなかったことにしましょう。




「婚約書にサインされたときはまだ王都にいらしたのですよね?」


 王都を出発し、帰路の馬車のなかで気になっていたことを聞いた。


「? あぁ、そうだな。それがなにか?」


「なぜ私に会いには来てくださらなかったのですか? 先にダルヴァン辺境伯領まで戻ってしまわれていましたし」


「そ、それは!!」


 ラキシスは焦ったようにオロオロしだした。ん? なんなのかしら。

 じっとラキシスを見詰めると、観念したかのように溜め息を吐き話し出す。


「あ、あのときは……その……恥ずかしく……」


 徐々に言葉尻が小さくなっていく……。真っ赤になりながらどんどんと俯いていってしまうラキシス。フフ、可愛いわ。思わず顔を覗き込むとぐりんと顔を背けてしまった。


「あ、あのときはまさか本当に君と婚約出来るとは思っていなくて! そ、その、緊張のあまり、ほとんどなにをしていたか記憶になく……とにかく君の部屋を早く用意せねばと急いで城に帰ってしまった……すまない……」


 しょぼんとしながら項垂れるラキシスがあまりに可愛くて、思わず笑ってしまった。あの可愛らしい部屋を一生懸命考えてくれたのかと想像すると微笑ましい。


「フフ、そうだったのですね。置いて行かれて悲しかったですわ」


 少し拗ねたような顔をするとラキシスはオロオロとした。


「す、すまない!」


「もう二度と置いて行かないでくださいね」


 ラキシスの手を両手で握り締め、金色の綺麗な瞳を見詰め訴えた。


「もちろんだ!」


 ラキシスはガバッと力強く抱き締めた。そして顔を見合わせると二人で微笑み合ったのだった。




 ダルヴァン辺境伯領へと戻り、結婚式までひと月を切っていたが、ラキシスはいまだに魔物討伐に忙しく城にいることは少なかった。


 そんなある日再び胃の痛くなる手紙が届いた。


「一体なんの手紙を送ってきたのだか……」


 見覚えのある封蝋。それは王太子ロベルト殿下のものだった。

 溜め息を吐きながらその手紙を開封する。上質な便箋に綺麗な文字が綴られていた。


『親愛なるロザリア嬢。折り入って貴女に頼みたいことがあるのだが、一度王城まで来てもらえないだろうか』


 つらつらと挨拶文も書いてあったが割愛。この手紙の言いたいことはまたしても王城までやって来い、ということね。


「はぁぁあ」


 思わず深い溜め息が出た。


「ロ、ロザリア様……大丈夫ですか?」


 侍女が心配そうに声を掛けてくれる。


「あー、そうね、えぇ、大丈夫なんだけれど、ラキシスに連絡は取れるか確認してもらえるかしら?」


 そう言うと侍女は確認をしに行ってくれた。


 一体なんだと言うの? 私に頼みたいこと!? なにを今さら! 意味が分からない。国王陛下はご存じなのかしら……無視してしまってもいいような気はするけれど、万が一国王陛下が絡んでおられることならばそういうわけにもいかないでしょうし……お父様にも確認を取ってみようかしら。


 慌ててお父様へ手紙をしたため、王都まで送ってもらう。お父様からはすぐに返事が届き、何も知らないということだった。もし王城へ出向くのならば一緒に行くから屋敷に寄りなさいと言ってくださった。


 ラキシスと連絡は取れたが、その返事はすぐには戻れない、ということだった。しかし一人で王城へ向かうことはしないでくれ、と言付けられた。


 一度はロベルト様付き秘書官宛に断りの手紙を送った。しかしそれから何度も日を置かずして懇願するような内容の手紙が送られてくる。いい加減うんざりしてくる。


 ラキシスの帰還を待っていてはいつになるか分からない。結婚式までにはもうロベルト様とは縁を切りたい。このように手紙など送ってきてほしくはない。円満に婚約破棄をしたと思い込んでいるロベルト様。だからこんな手紙を何度も平気でよこしてくるのだろう。


 婚約者だったときはもう少し賢い方だと思っていたのだけれど……。いい加減ロベルト様に振り回されるのはごめんだわ。二度と私に連絡などよこさないようにしなければ。


 私はラキシスに、王城へ出向くこと、お父様と共に行くので心配はしないで欲しいということ、結婚式までには必ず戻るということ、万が一王都到着後、二、三日待っても連絡がない場合は国王陛下に謁見をお願いします、ということを手紙にしたため砦まで送った。


 出来る限りラキシスには不安になって欲しくはない。私が逆の立場でもきっと心配になるだろうし。それは自分でも分かっている。だから本来ならラキシスを待ったほうが良いことも。

 でも私は早くけじめを付けたかった。いつまでもロベルト様からの手紙が届いていることがラキシスに申し訳なく思ってしまったのよ。


 それが大きな間違いだったことはすぐに気付いたのだけれど……私もまだまだ未熟だわ。情けない。


 ラキシス、ごめんなさい……


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