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第2話 新たな婚約



「お父様はお戻りですか?」


 ナジェスト邸へと戻ると開口一番でお父様の居場所を求めた。


「書斎におられます」


 執事からそう告げられ、真っ先に向かう。


「お父様失礼いたします。ロザリアがただいま戻りました。少しお話よろしいでしょうか」


 そう告げながら扉を叩く。


 なかから声が聞こえたかと思うと、扉は開かれた。


「おかえり、ロザリア。ちょうど今誰もいないからお入り」


 お父様はそう言うと書斎へと促した。侍女がお茶を用意してくれ、応接椅子に向かい合い座る。


「ロザリア、君がなにをしにここへ来たかは分かっているよ」


「一体どういうことですか?」


 極めて冷静に、静かに質問する。それが却って怒りを抑えているように見えたのか、お父様は立ち上がったかと思うと私の横へと席を移した。


 そして私をぎゅっと抱き締めた。


「すまない……すまないロザリア」


 その言葉に今まで張り詰めていた気持ちが一気に緩んでしまったのか、涙が零れてしまった。


「う、うぅ、一体どうしてこんなことになったのですか!? 私がなにかいけないことをしましたか!?」


「違うよ、ロザリアはなにも悪くない。なにも悪くないのだ」


 そうやってしばらくお父様に抱き締められている間に、私の涙も落ち着き、冷静に話を出来るようになった。そして説明をされる。


「ロベルト様はたまたま街へお忍びで出かけているときに、とある男爵家のご令嬢と運命の出逢いをされたのだそうだ」


「はあ……運命の出逢い……ですか」


 真実の愛の次は運命の出逢いか、と気の抜けた声しか出なかった。


「そしてロザリアという婚約者がいながら、ロベルト様はその男爵令嬢と頻繁に会っていたそうなのだ」


「……」


「そして最近になって国王陛下にロザリアとの婚約破棄、男爵令嬢との新たな婚約を訴え出したらしい」


 またしても開いた口が塞がらなくなってしまった。


「国王陛下は当然ながら反対し説得してくださったらしいのだが、あまりのしつこさに結局は折れてしまわれた。逆にこんな浮気をするような相手に嫁がせるのは申し訳ないから、と謝罪されていた」


 そこはまあそうですわね。このまま結婚をしていたにしてもおそらくロベルト様は男爵令嬢を愛妾にされるのでしょう。下手をすると私を排除しようとするかもしれない。それならば最初から結婚しないほうがマシだ。


「しかしそれがどうしてダルヴァン辺境伯との婚約話になるのですか」


 それが一番問題だ。なぜ勝手に会ったこともない方とすでに婚約するはめになるのか。


「それは……ロベルト様が無理矢理言い出したことは間違いないのだが、ダルヴァン辺境伯領がこの国で主要な土地であることも変えようのない事実なのだ」


「えぇ、それは分かります。しかしなぜそれが婚約になるのです」


「それが、その……」


 なんなのこの歯切れの悪さ。


「一体なんなのですか?」


「ひと月前にダルヴァン辺境伯が魔物討伐に功績をあげたのを知っているね?」


「はい」


 ひと月前、ダルヴァン辺境伯領に魔物の大群が現れたのだ。今までにない魔物の大群が発生したため、国を挙げての騎士団が派遣された。

 しかしまともに戦えたのはダルヴァン辺境伯領の騎士たちだけだった。国から派遣された騎士たちは人間よりも圧倒的に強い魔物たちとまともに戦える術を持っていなかった。

 剣ではまともに魔物を切ることが出来ず、国の騎士団は壊滅寸前となっていた。

 ダルヴァン辺境伯騎士団は魔法に長けた者が多数いる。そのため魔法攻撃、物理の武器にも魔法が付与されたものを使っていた。国から派遣された騎士団にもダルヴァン辺境伯騎士団から魔法付与を施してはいたが、それが間に合うほどの時間はなかった。


 結果、ダルヴァン辺境伯騎士団はほぼ無傷で魔物の大群を殲滅。国の騎士団は逆に足手纏い状態で終わってしまったのだった。

 その不名誉を隠すためか、ただ単にダルヴァン辺境伯騎士団を称えるためか、先日褒章式典が行われていたはずだ。確かお父様も参列されていたはず。


「ダルヴァン辺境伯にね……褒賞はなにが良いか問うたのだ。そのときに答えたのが……」


「まさか……」


「あぁ、君の名を挙げたのだ」


「!!」


 唖然とした。なぜ私の名を? お会いしたこともないのに……。


「なぜですか、なぜ私をお求めになられるのです!? お会いしたこともありません! しかもまだ私はロベルト様の婚約者だったのですよ?」


 意味が分からない。


「そうなのだよ。だから陛下や宰相閣下も驚き却下したのだが、その話を幸いとばかりにロベルト様が婚約破棄を言い出したのだ」


 それをさも私のためのように言い出したというの!? 馬鹿にするにもほどがある! 再び怒りが込み上げて来てしまった。


「すまない、ロザリア。私は反対したのだ。婚約破棄を受け入れたとしても、傷付いた娘をそんなすぐに見知らぬ男の元へと送り出せる訳がない、と」


 お父様は俯き私の手を握り締めた。


「しかし陛下はダルヴァン辺境伯の機嫌を損ねたくはない、と。ロザリアが嫁いでくれるのならば、かの土地にも援助をもっと行っていこうと思っている、と」


 国王陛下に懇願されたら断ることなど出来ないことは知っている。


「すまない……すまない」


 お父様は何度も謝罪を口にした。


「謝らないでください。お父様の本意でないことは分かっております。陛下からのお言葉ならば拒否など出来るはずがないことも理解しております」


 顔を上げたお父様に精一杯笑って見せた。


「私、ダルヴァン辺境伯に嫁ぎますわ」


 これは私の意地だった。



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