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第1話 婚約破棄

こちらの作品は同タイトルの連載版となります。

中編程度で終わる予定ですのでお付き合いいただけたら嬉しいです。




「すまない、ロザリア。君との婚約を破棄させて欲しい」


 定期的な婚約者様とのお茶会の席でのこと。唐突にそうおっしゃった婚約者である王太子殿下のロベルト様。


「はい? 一体どういうことでしょうか」


 ロベルト様はうっとりしたようなお顔でなにかを思い出すように言葉にした。


「真実の愛を見付けてしまったんだ」


 は? 真実の愛? この方はなにを言っているのだろう。




 ロベルト様はお優しい方だ。お優しいが逆に優柔不断であるところが欠点でもあった。

 いわゆる流されやすい方だった。


 だから国を治めるには向いていないのでは、とまで噂されるほどだった。

 私はそんなロベルト様の婚約者として、いずれ国王になるロベルト様を支えるように、と厳しい王妃教育を受けて来た。


 一朝一夕で王妃になれるものではない。そんなことは幼い頃から王妃教育を必死に受けて来た私だからこそ分かる。ポッと出の令嬢がいきなりなれるものではない。それをこの方は分かっているのか。


 真実の愛を見付けた? 意味が分からない。愛も必要だろう。それは分かる。私たちは幼い頃から婚約者同士であったと同時に、幼馴染でもあった。だからこそ、燃えるような恋愛はないにしても、お互い穏やかで家族のような愛はあるものだと思っていた。だからこそロベルト様のために厳しい王妃教育を耐えてきたのだ。それなのに……私の想いは必要なかったということ?


「それは国王陛下もお許しになられたのですか?」


「あぁ。父上は最初反対していたのだが……」


 でしょうね。


「しかし説得を続け、ようやく認めてもらったのだ」


「……」


「君には申し訳ないと思っている。だからと言ってはなんだが……」


 これ以上まだなにかあるというの?


「私と婚約破棄したことによって、君の名誉が傷付くのは本意ではない。だから父上に頼んでダルヴァン辺境伯との婚約を認めていただいた。今現在若くて独身、さらに優秀で君にふさわしい男がダルヴァン辺境伯だけだったんだよ」


 さも良いことをしてやったかのような優し気な笑顔でロベルト様が言う。


「は?」


 開いた口が塞がらなかった。

 一方的に婚約破棄した挙句、勝手に可哀想な女扱いをされ、ダルヴァン辺境伯と婚約!? 私の意見は完全無視で!?


 しかもダルヴァン辺境伯と言えば、あの『悪魔閣下』と呼ばれる方!?


 ダルヴァン辺境伯領は国を護る要となっている。他国からの攻撃、さらには魔物が発生すると言われている瘴気の森が隣接している。常に死と隣り合わせの土地。

 そんな土地をたった一人で治め、常に先陣を切って戦っているというダルヴァン辺境伯。二十五歳という若さだが、すでにご両親である前ダルヴァン辺境伯が亡くなられてからは跡を継ぎ、ずっと一人で騎士たちをまとめ戦ってきた。


 元々魔力が異常に高いらしく、さらには残忍で敵方の人間だろうが魔物だろうが、全く表情すら変えず屠っていくらしい。そのため付いたあだ名が『悪魔閣下』。社交界などにも一切顔を出さないダルヴァン辺境伯は、それ故に噂のみが広まり悪魔のように恐ろしい存在だと認識されていた。


 そんな方と事前になんの話もなく、婚約破棄だけでなくいきなり婚約!? ふざけないで!! 馬鹿にするにもほどがあるわ!!


「父上と君の父であるナジェスト公爵にはすでに了承いただいている」


「!?」


 お父様が!? なぜ!? 一体どういうことなの!?


 怒りと悔しさとで涙が零れ落ちそうになったが、私にだって自尊心くらいはある。泣きたくなんかない。こんなところで泣かない。ロベルト様に未練などない。家族としての愛はあったと思っていた私が馬鹿だったのだ。

 これがロベルト様なりの私に対する愛……だとは到底思えるはずもない。ロベルト様はどれだけ人を馬鹿にしているかということを分かっていない。こんなところで泣いてしまったら、ロベルト様に未練があると思われるかもしれない。それだけは嫌だった。


「分かりました。婚約破棄の件は承りました。新たなダルヴァン辺境伯との婚約の件は、お父様に確認させていただきます。それでは失礼いたします」


 必死に平静を保ち、お茶会の席を辞した。背後からは私の名を呼ぶロベルト様の声が聞こえたが、もう振り返ることはなかった。



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