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【完結】モブメイドは戦死する伯爵の運命を変えたい  作者: 絵山イオン
最終章 モブメイドと変える運命
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何が起きても手放すな

 私はメイド長を振り切り、広間に着いた。

 マジル王国の総攻撃が来るまでに、隠し部屋へ向かわないと。

 この屋敷も遠隔兵器の攻撃対象であれば、地下にある資料室か、別空間にある隠し部屋に避難しなければ命は免れない。


「あの子が秘術を!! 私達の勝利ね!」

「そうですね、母上」

「これで王様から報奨金がもらえるわ。なにを買おうかしら?」


 広間には浮かれたスティナと息子のブルーノがいた。


(ブルーノ!!)


 私はブルーノの顔を見て、とっさに彼の腕を掴んだ。


「エレノア、なにをする!」

「貴方、ブルーノちゃんに勝手に触れるなんて失礼じゃない!!」


 ブルーノのは私の行動に驚き、スティナは甲高い声で私を非難する。

 私はそのままブルーノを引っ張った。

 

「ブルーノさま、こちらへ! オリバーさまの部屋へ来てください!!」

「はあ?」


 私はブルーノにそう叫んだ。

 それは、オリバーの頼み事を完遂するためだ。

 ブルーノに二つの秘術が書かれた初代ソルテラ伯爵の手記を渡すこと。

 ここに居てはマジル王国の総攻撃によって、ブルーノが死んでしまう。渡す相手が居なくなってしまう。

 私の要求に、ブルーノは訳がわからないといった顔をする。


「戦争は終わっていません! マジル王国の反撃が始まります!!」

「な、何をーー」

「お願いします。時間がないんです! 私のことを信じてください!!」

「……」


 今の私は化粧により、ブルーノ好みの顔になっている。好感度は高いほうだと思う。

 私が無理を通せば、よくわからないことを言っていたとしても付いてきてくれるかもしれない。

 付いてきてくれなければ、オリバーの頼みが無駄になってしまう。なんとしてでも、ブルーノを隠し部屋へ連れて行かないと。


「あんた、ブルーノちゃんをーー」


 スティナが私の髪を引っ張る。ブルーノから引き剥がそうとする。とても邪魔だ。


「ここにいては死んでしまいます! 少しの間、部屋に居てくださればいいのです」

「……」

「もし、それでも何も起こらないのであれば罰を受けます。お願いします! ブルーノさま!!」

「ブルーノちゃん、こんなメイドの言う事聞かなくてもいいの!!」


 私の説得とスティナの言葉が連なる。

 ブルーノは黙ったまま、何かを考えていた。


「母上、エレノアについて行きましょう」 

「ブルーノちゃん!?」

「マジル王国の反撃、というのが引っかかる。嘘であれば、こいつに折檻すればいいでしょう」

「……ブルーノちゃんがそう言うなら」


 ブルーノの判断にスティナは渋々従った。

 これでブルーノの死は免れる。私はほっと胸を撫で下ろした。


「それで、俺たちを何処へ連れてゆくんだ?」

「……こちらです」


 スティナを同伴されるのは想定外だけど。

 私はブルーノとスティナを隠し部屋へと誘った。



 私はブルーノとスティナを連れ、オリバーの私室に入る。ドアノブに手をかけた時、ブルーノに「ここは、当主しか入ってはいけない部屋だろ!」と注意されたものの、私は「オリバーさまに許可を貰っております」とその場で言い返す。

 三人でオリバーの私室に入り、私は急いで肖像画を壁から外した。


「ついてきてください」


 私は二人にそう言うと、肖像画が貼られていた壁に体重をかけた。

 壁をすり抜ける感覚。

 不思議な感覚がした直後、私は隠し部屋の中にいた。

 少し経ち、この部屋にブルーノとスティナが現れる。

 

「な、なんだこの部屋は!!」


 ブルーノは隠し部屋の存在に驚いていた。

 側にいるスティナは不思議な部屋が現れたと、驚きのあまり声を出せないようだ。


「……隠し部屋です」

「こんな部屋があったとは……、それにこの文字はーー」

「百年前、火災で失われた歴代ソルテラ伯爵の魔導研究室でございます」

「百年前? 火災?」


 私の発言にスティナはぽかんとしていた。

 ソルテラ伯爵家の人間だというのに、その態度ということは、スティナは前当主の爵位や財産にしか興味が無かったのだろう。

 だが、裏でオリバーを支えていたブルーノは事の重大さを理解し、傍にあった手記をパラパラとめくっている。そして、部屋に置いてある触媒が並んでいるのをみて、ここが本物の研究室であると分かってくれたようだ。


「なーに、このキラキラしたーー」

「母上、触らないで下さい!!」

「ぶ、ブルーノちゃん? 急に大声を出して」

「すみません、綺麗な砂ですがこれは貴重なものなのです。この部屋にあるものには絶対に触れないで下さい」

「分かったわ……、ブルーノちゃんの言う通りにする」

「ありがとうございます」


 スティナの行動をブルーノが制する。

 わがままなスティナでも溺愛する息子の言う事なら大人しく聞いてくれる。手のかかるスティナが静かになるのはいいことだ。


「ブルーノさま」

「なんだ、俺は忙しーー」

「あなたが探しているものはここに書いてあります」

 

 私はブルーノに初代ソルテラ伯爵の手記を渡した。

 ブルーノはそれを受け取り、本を開いて表紙を見た。


「兄さんはこれを読んで、秘術をーー」

「はい。オリバーさまはこれをブルーノさまにと」

「俺に……」


 ブルーノは突然の秘術が放たれて内心驚いていただろう。この部屋の存在を知り、腑に落ちたようだ。 


「エレノアはあいつに何か言われたか?」

「はい。この水晶を持っていてほしいと」

「そうか」


 ブルーノは何かを考えている。

 僅かな手がかりでオリバーの意図を探ろうとしているのだ。オリバーと同じ考えに至るのは側にいたブルーノしかいない。


「なら、その通りにしろ。何が起きても水晶を手放すな」

「そのつもりです」

「丁度いいバックがある。それに入れたらどうだ?」


 ブルーノが指した先には、布製の肩掛けバックがあった。前に隠し部屋に入った時には無かった。きっと、オリバーが私のために用意してくれたのかもしれない。

 私はその肩掛けバックに時戻りの水晶を入れた。

 

「ねえ、ブルーノちゃん、いつまでこの古臭い部屋に居ないといけないの?」

「母上、それはーー」


 しびれを切らしたスティナがブルーノに話しかける。なだめる言葉を考えていたところで、部屋の外から爆発音が聞こえた。

 一発、二発。

 爆発音が聞こえているというのに、隠し部屋にはその衝撃が来ない。

 やはり、この部屋は外と空間が遮断されている。

 とりあえずマジル王国の遠隔兵器の被害にならずに済んだ。


「な、何!? 怖いわ!!」


 スティナはブルーノにしがみつく。

 

「……これが、マジル王国の反撃か?」

「きっと、そうです」

「爆発が落ち着いた。どうする?」

「少し様子を見ましょう」

「わかった。母上、外は危険です。様子を見ましょう」

「うん」


 スティナはブルーノの言うことを素直に聞いた。

 その直後、スティナの体はブルーノの言葉と反して、外へと向けて動く。


「スティナーー、スティナーー」

「グエル!! 私はここよ!」


 外側からスティナの愛人、グエルの声がしたからだ。

 

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