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もうじきなかったことになる

「そなた……、おお、エレノアではないか」


 私が一歩前へ出ると、ブルーノから名を呼ばれる。

 彼が私の名前を憶えているのは、お気に入りのメイドである証だ。


「私がオリバーさまの遺品整理をいたします」

「あ、ああ……。頼んだ」


 オリバーの遺品を整理すると立候補すると、ブルーノは承諾してくれた。

 言葉に詰まっていたのは、『他の者にやらせればいいのに』と心の中で思っていたからだろう。


「終わったら俺に報告に来るんだぞ、エレノア」

「かしこまりました」


 分かりきったことを言う。

 私はそんな考えを顔に出さず、服の裾を持ってブルーノに一礼した。

 そして、新しい仕事に入るため彼を横切り、階段を上る。


「ちょっと! 窓ふきは!?」

「エレノアには俺が新しい仕事を与えた。彼女がやっていた仕事は貴様が一人でやればいいだろ」


 後ろで先輩が私を呼び留めている。

 だけど、私はそれを無視して、オリバーの私室へと向かう。

 後ろでブルーノが先輩に新しい命令を出しているのが聞こえる。

 これで私は先輩に嫌われただろう。

 だけど、そんなのどうでもいい。

 だって、この出来事はもうじき”なかったこと”になるのだから。



 二階へ上ってすぐの扉を開ける。

 廊下が見え、左右とつきあたりにそれぞれ一室ずつある。

 三室はソルテラ一家の私室で、左がスティナ、右がブルーノ、つきあたりがオリバーとなっている。

 オリバーの部屋は代々ソルテラ伯爵が利用する部屋で、当主以外、誰も入ってはいけないことになっている。掃除にも、お茶を持っていくのも禁じられている。それは親族にも該当するようで、二人も入ったことがないらしい。


 私はオリバーが利用していた部屋の前で立ち止まる。

 当主以外、入室を禁じられた部屋。今回はブルーノが”遺品整理”という仕事を私に与えてくれた。

 私はためらうことなく、ドアノブに手を伸ばし、部屋に入った。


 物が散らかっておらず整頓された部屋だが、部屋の主が出兵し一週間ほど無人だったため、埃っぽいにおいが立ち込める。


「さて……、と」


 私は、壁に掛けられている肖像画の額縁を外した。

 描かれた人物が誰であるかなんて、今はどうでもいい。。


「よいしょっと」


 肖像がをその場に置き、私はかけてあった壁に全体重をかけた。

 私の身体は壁にもたれかかることはなく、すり抜ける。

 その先に、もう一室あるのだ。隠し部屋である。

 この裏の壁は、見た目上ただの壁に見えるが、隠し部屋の入口なのだ。

 隠し部屋は、本と沢山の小瓶、筆記用具そして青白く光る水晶玉がある。

 小瓶にはキラキラした砂や色のついた液体が入っている。

 ぱっと見た感じ、魔法を研究している場所だろうか。


「はあ」


 私は隠し部屋に入った突端、ため息をついた。

 突然、隠し部屋が現れたのに驚かず、落胆するなどありえない反応だと自分でも思う。


「”また”、ここに来ちゃった」


 私は水晶玉を両手で持ち上げながら、独り言を呟いた。


『僕は初代ソルテラ伯爵。この水晶を手にする者よ――』


「これを見つけるのも”八回目”ね」


 水晶を手にすると頭の中に男性の声が流れる。

 だけど、私はこの展開をもう知っている。


『私の血筋を絶やさぬため、【時戻り】をしてほしい。さあ、”いつ”に戻す?』


 この水晶はある条件が起こると、青白く光り、時間を戻すことができる魔法道具。

 私はこの魔法道具を八回、利用している。

 青白く光る条件は、”ソルテラの血筋が途絶える”こと。


「オリバーさま。次こそは、あなたをお救いします」


 八度、繰り返しても私は一度もオリバーを救えていない。

 

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それでは次話お楽しみに!

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