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第6話 何かが導かれた貸し借り

「おい、すばる。冷血女子がお前のことを呼んでたぜ。あの笑顔はやべぇから早くいっとけ?」


 次の日の休み時間。


 自分の席でまったりと惰眠をむさぼろうとしていると、横山がニヤつきながら声をかけてきた。横山とはしょっちゅう新作アニメの話をする気が合う奴で、クールが終わるたびに話題を授けてくるありがたい存在だ。


 ただそれ以外の話、特にリアル女子との恋愛関係は一切話すことが無いだけに、()()()()話を持ってきた時は注意が必要になる。


「冷血……あー、あいつか。何だって?」

「おれに聞かれても知らん。冷血女子とおれらは全く無関係だしな」

「いや、俺だって知らんけど……ったく、何だよー」


 金輪際関わることもないし俺も関わりたくない。そう思っていたのに、冷たい笑顔をした小桜キイが俺に向けて手招きをしている。


 昨日あれだけ騒いでいたカナから、まさかの連絡でもいったのだろうか。そうだとしても俺を呼ぶ意味が分からない。


 ただでさえ小桜の周りは強そうな女子でかためられているのに、そこに近づかなきゃいけない身にもなって欲しいものだ。


「天近すばる! 遅い!!」

「何の用で俺を――んごっ!?」


 小桜に近づいた途端、俺はいきなり襟元を掴まれて強引に引っ張られた。まさかの公開処刑か?


 俺は何もしてないはずなんだが。

 そう思っているとキイは俺の耳に口元を近づけ、


「……がと」


 何かを伝えてきた。


「…………ん? 何だって?」

「このボケ!! ……さっさと離れてくれる? 視界に映したくないし」

「はぁ?」


 呼ばれたから来てやったのに何なんだこれは。文句の一つでも言ってやろうと思ったが、他の女子がさらにやばそうなのでとっとと退散する。


 何を言いたかったのか意味が分からないものの、小桜キイの顔がほんの少しだけ赤く見えた。真夏の教室は暑いし仕方ないことだな。


 ますますクラスの女子たちとの間に溝が出来てしまったが、耐えに耐えて放課後。


 平日の真ん中はバイトが休みということもあって、どこにも寄り道することなく部屋に帰ろうとすると、


「すばる! これ渡しとく。秘蔵映像付き号だ! これを見て冷血の記憶を削除しておいた方がいいぞ」

「おぉぉっ! サンキュー、横山!」


 小桜キイのことは今さらだし、気にもしてないからいいとして問題は――。


「おっか~え~り~!! 待ってたぜ!」


 ですよね。実家に帰りもせず、カナが住んでいる所にすら戻ろうとしてないとか、予想してた。


 もう追い返すのも無駄なので何も言わずに鍵を開けて部屋に入った。すると、両手をすりすりしながら彼女も自動的に部屋に進んできた。


「……」

「何だい?」

「ここは俺が住んでるアパートなんですよ? それはご存じですよね?」

「もちろん! 近所迷惑にしないように気をつけておりますゆえ!」


 幸いにしてすぐ真隣にお隣さんがいるわけじゃなく、今のところ苦情の声は来ていない。そうなるとカナはいつここに来て、俺を待ち構えているのか。


 部屋についてくるのは我慢するとして、何で自然と入り浸るようになっているのか意味が分からない。


「コザカナが住んでるところは追い出されたんですか?」

「何てことを言うんだい、この子は! そんな子に育てた覚えはないぞ」

「まぁ、親が違いますからね」

「キモっ!! そんな返しをしてくるなんて、究極すぎない?」

「俺はいたって真面目に正論を言ってますよ」


 カナを相手にする時はバイト先と同じような対応が出来ている。これは俺なりのけじめであって、カナを突き放すという意味じゃない。


 こんなコメディな人でも年上だし気は遣うからだ。


「少年が心配せんでもきちんと帰ってますが、何か文句があんのかゴラァ?」

「何で逆切れしてんだよ……」


 ちょいちょいつられてため口を利いてしまうが、この人は実はしっかり計算してる人だから油断してはならない。


 そんなカナを放置して、バイト休みを利用して秘蔵映像本を再生することにする。最近はまともに見ることが出来なくなっているし、この際カナのことは気にしないことにした。


 円盤付きの本は俺自身あまり買うことが無く、円盤をデッキに置くことも無いだけに何とも言えないワクワクさがある。


「ほほぅ? 放置プレイに突入を決めるとはいい度胸じゃないか~! 一緒になって、しかも隣に座り込んで見ちゃうぞこの野郎!」

「お好きにしてください」


 秘蔵映像といっても、本編未公開とかノーカットOP&EDのたぐいであって、カナが緊張するようなものでもない。


 それなのにカナは、


「はほぉぉぉ……!! 今ってこんななのか~!? やはりこういうのがいいのか、そうなのか~……はぁぁぁぁ」


 何故か映像に夢中になりながら落ち込んだ動きを見せている。一体カナの中で何の感情が渦巻いているのだろうか。


「……ところでカナさん。連絡はしたんですか?」

「おう! 喜ぶがいいさ! キイちゃんとだけは電話したぜ! それを聞くということは、学校でお礼を言われちゃったかな?」

「お礼参りみたいなことならありましたけどね」

「あれれ? それはおかしいぞ。キイちゃんってば、すばるくんを見直したとかって言ってたのに。そっか~きっと照れくさかったんだね、間違いない!」


 照れくさくてあの態度は相当に危険すぎるだろ。でも連絡はしてくれたのか。それだけでも前進したかな。


 そうなると問題は実家への帰還だけになる。


「カナさん。実家に――」

「わーわーわー!! すげぇいいもん見せてもらったぜ! すばるくん! 頼みがある!」


 突然の奇声で誤魔化されたか。


「頼み?」

「この映像をあたしに貸しておくれ! 何度も見たくてたまらないよ!!」

「貸し借りですか? でもそれは俺のものじゃ……」

「これを借りることが出来たら帰るから!」


 実家に帰ってアニメを見るのはなかなかハードそうだが……。


「……じゃあ、明日までならいいですよ。本当は又貸しになるんで良くないんですけどね」

「おぉう! さすがすばるくん!! これであたしはレベルアップ出来るぜ!」


 異世界アニメにはまり始めたのか?


「じゃあじゃあ、帰るぜ! あばよっ!」

「え? あ、はい。またです」


 まだ辺りは暗くもなってないが、さっさと出て行ってしまった。でもこれで俺の部屋に入り浸ることもなくなりそうだな。

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