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第23話 買い物でぇと 意識編2


「……むむむ」

「ねえねえ、どう? 今度は似合う~?」

「ど、どうだろう」

「すばるくんが恥ずかしがってたら仕方ないぞ? ほれほれ、次に行くぜ~」

「む、むぅぅ……」


 カナによるコスプレ試着会が始まってからしばらく経つ。ここに来ている客や店員は、基本的に自分たち以外を気にしないだけに俺が意識する必要は無い。


 しかしそれを知ってか知らずか、カナは着替える度に俺に対する警戒心を緩め、次々と刺激的なコスプレをお披露目してくる。


 そのほとんどは、俺が好きなアニメのヒロインの外見を似せたものなのだが……。


「さぁ、少年! いいえ、愛しのご主人様。ひらりとカーテンを開け、あたしのこの()れた姿をその目に焼き尽くしておくんなまし」

「……焼き尽くしたら駄目でしょ。焼き付ける……ね」


 ちょいちょい間違った言葉のチョイスを混ぜながら、俺の心の琴線に触れてくるようになった。


「というか、別にカナさんはまだ()れてないでしょ。俺と二つしか違わないわけだし……全然まだ――」

「まだ何だと言うのかね?」

「え、いや……えっと」


 そうかと思えば()()()()調子で俺の本心を暴き出そうとする。カナの気持ちはどっちなのか、このやり取りだけではどうにもつかめそうにない。


 そんな曖昧な感じで時間が過ぎた。


「うん、すばるくんの気持ちに少しだけ近づけた気がするよ。君もそうだといいなぁ。ね?」

「そ、そうだね」


 試着にして数十着程度だったものの、カナのコスプレお披露目会は彼女自身が自己満足して幕を閉じた。それを堂々と見せられまくった俺はというと、内心は決して穏やかじゃない。


 単なる買い物デートだと思っていたのに、気づいたら全てのカナに夢中になっていたからだ。見た格好が変わるだけでも違ったし、言葉や態度もヒロインに似せていたことにかなり緊張した。


 だからといってこれがいわゆる”恋”というやつなのかというと、それは不明だ。


 何にしても、妹のキイとは違う別の感情がカナ相手にだけ芽生え始めたのは、俺自身の成長なのかもしれない。


「お待たせ~! 待たせたな! 少年」

「あれ? 衣装は?」

「ん~? 返したぜ!」

「買いに来たんじゃなかったっけ? 試着しまくったのに買うまでも無かった感じなの?」


 時間の大部分を試着だけで使ったのに、カナの手元には買い物袋の影も見えない。これが狙いなんじゃなかったのだろうか。


「ふふふ。そうじゃないんだぜ少年。試着はあくまでも試着なのだよ。少年の気持ちに応えるには、ここじゃない場所でする必要があるんだぜ!」


 また訳の分からないことを言い出してるな。


「試着するのは大体お店とかしか無いと思うんだけど……」

「否! ちが~う!! 外と中では全然違うんだよ、きみぃ」

「ん? もしかして俺に一応気を遣ってる?」


 外というのはお店とか、店員や他の客のことを言っている。中はおそらく、俺の部屋の中だけのことのはず。


 今回のカナの試着は俺しか見ていないが、それでも試着室の鏡やちょっとした隙間なんかで、誰かが見ていた可能性がある。そうなるとカナの言葉の意味は、多分()()()()意味につながってしまう。


 俺だけの視線を独占させるという意味だとすれば、カナの気持ちは()()()()ことだということが考えられるし、そう思っても間違いじゃない。


 もちろん、この後どこに行くかでまた変わりそうだが。


「すばるくんはすけべくんだからね。外と中では気合いの入れ方が違うんだぜ!」

「何だよそれ~……まぁいいけど、次はどこに行くの?」

「スーパーで適当に買い物して、お部屋に直行しようか」

「え、もう終わり? 他にもっとこう――」


 この後にカフェやら映画館やらに行くかと思っていたのに、そんな気は全く無いかのようにカナは頭を左右に振っている。


「あたしとすばるくんがカフェに行くのはやぶさかではないけど、すばるくんが次なる階段を上がるには、まずあたしに近づく必要があるのだよ。それは今でもなければ外でやることでも無い。やっぱり本拠地(趣味部屋)で落とす必要があるのだよ」


 何だ、デートと言いながらやっぱり普通にするつもりはなかったってわけか。カナらしいといえばらしいけど、この時間の使い方に深い意味は無かったのだろうか。


「よく分からないけど、カナさんは俺に近づいた?」

「うむぅ。部屋の中でくすぶってるよりもずっとね。もうすぐ、もうすぐさね」

「……なるほど」

「それじゃあ、でぇとは解除してセール品を争奪しに行くぜ! 気合いだよ、すばるくん!」

「う、うん」


 カナから俺への距離、対するは俺からカナへの距離だけ――ってことか。

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