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第21話 バーサーカーカナ


「ちょっ、もう少し離れて下さいよ~」

「え~? 今さら恥ずかしがるの? 裏口からずっとくっついていたじゃん! 今さら感強くない?」

「さすがにこの辺は近所なんで、まずいっす」


 カナは俺の部屋に待機してるはずだからいいとしても、クラスの誰かがいないとも限らないし、最悪ケースとしては()に見られてしまうことだ。


「あっ、ほら、コンビニに着いたよ!」

「そりゃあまぁ……えっと」

「みのりさんは買い物がしたいです! 中に入ってもいいですか?」

「ど、どうぞ。俺は外で待ってますんで」


 いや、むしろ一緒に店内にいた方がいいのか?


 どうするか迷っていると、それすら許されない瞬間が訪れた。


「そこのブサ……キモメン! こっち見んな! いや、いい加減気づけ!!」


 誰がブサでキモいんだよ。相変わらず酷いな、こいつは。


「てか、見ちゃ駄目ならどうやって気付けるっていうんだよ!」

「声で分かるだろ、変態なんだから」

「……お前、カナの妹のくせに酷くないか? キイ」

「ふん、どっちが! お姉ちゃんみたいな超美人なお姉さまに好かれていながら、あんたは何を呆けているわけ? さっさと汚部屋に帰って癒されろよ! ボケ!!」

「汚くねーよ!!」


 何でこうも俺への憎悪がエスカレートしているのか。俺がカナに好かれているのは何となく分かるが、だからといって妹に憎まれるのはきついぞ。


 そもそも俺がコンビニにいるのは不思議なことじゃないのに、何でこいつは俺をすぐに発見出来るのか。しかも夜にまで。


「……キイってもしかして、俺――」

「消えろボケ!! 誰があんたなんかを気にするか!」

「まだ何も言ってないぞ。俺をストーカーしてるとかじゃないよな?」

「してちゃ悪い? でもあんたに興味なんて無いですから~」


 色々と酷い。こんな状況で木ノ本なる女性が現れたらシャレにならない。


「おっまったっせ~! ちかくん、待った~?」


 うわうわ、マジかこの人。


「――は? 誰これ? 天近すばる!!」

「知らん! さっき知り合ったばかり……じゃなくて、カナさんの友人――」


 友人で合ってるよな?


「ちかくん、カナちゃんは多分、わたしのこと知らないよ~」

「えぇ!? マジですか?」

「うん。だって直接会ってないもん」


 まさかの答えだった。同じ専門学校なのは違い無さそうだが、クラスとかが違えば確かに会わないのも当たり前か。


 俺の動揺をよそに、キイは木ノ本をまじまじと見つめている。


「……ふぅん、唇はディオールのグロス……下まぶたはピンクの………ふぅぅん」


 木ノ本みのりを観察するキイに乗じるように、俺もじっくりと彼女を見る。ショートヘアのゆるふわパーマで丸顔。声は言わずもがな幼いアニメ声で、身長は俺よりやや低い。


 そしてこれが素なのかは不明だが、親しみやすさのある可愛い女性といった感じだろうか。


 そうしてしばらくキイと一緒になって彼女を見つめていると、


「あっ、もうこんな時間だね。ちかくん。わたし、そろそろ帰るね~またね、ばいばい~」

「えぇっ?」


 爆弾(キイ)だけ残してあっさり引き揚げるとか、彼女は策士的小悪魔?


 それとも俺とキイに自分を見てもらったことで満足でもしたか。

 

「アレはあんたの手に負えないんじゃないの?」

「俺もよく分かってないけどな」

「どうでもいいけど、とっととアパートに帰れ! お姉ちゃんをこれ以上待たせるな!! バーカ!」


 ただただ俺をなぶりに来ただけとか、本当にきついな。それはともかく、確かに早いところ帰った方が良さそう。


「ただいま、カナさ――」

「遅いぞ、この野郎!! このあたしをいつまでも待たせてただで済むと思うなよ~! そこになおれ!!」

「え、カナさん……ど、どうしたのその格好」

「黙れ~!! 早くしないとあたしの斧が貴様の喉元に突き刺さることになるぜ!」


 おそらくレプリカの斧を持って俺を威嚇するカナは、何ともセクシーな格好をしている。


 確かこの衣装は、"魔攻女戦士"というアニメに出てくるヒロインのものだったと記憶。しかも単なる戦士じゃなくて、怒り狂うバーサーカーのはず。


 しかしいつもながら見事な胸元に加え、どこから調達したのか不明のキツネファー、そしてこの為だけに染めたらしき赤髪と恥ずかしさを感じないへそ出しコーデ。


 もしやこれが俺に見せたかったお楽しみなやつなのか。


「ど、どぅどぅ……落ち着いてよ、カナさん」

「ええい~! 口答えはゆるさーん!! 貴様はヘッドロックの刑に処すぞこの野郎!!」


 斧は見せかけのようで、カナはすぐに斧を捨てて俺にヘッドロックをかけてくる。ふさふさしたキツネファーのくすぐったさに、ぷよんとしたふくらみが頬に当たって痛くも無い感触が俺を襲う。


 このヒロインは俺の中では10位くらいなわけだが、セクシーな部分は確かに再現出来ているようで何だか感慨深い。


「は、ははは……俺の為にコスプレしてるんだよね?」

「何だとこの野郎!! まさか貴様、鼻の下を伸ばしてまたスケベモードになりやがっているのか? どうなんだ、この野郎!」

「いや、うん、似合ってるよ。カナさんらしいっていうか」

「――!! お、思い知ったようで何よりじゃないかちくしょう!」


 何だかすごく嬉しそうにしているな。もしかしなくても、これから俺が帰る度にコスプレをしてくれるというのだろうか。


 もし一番好きなヒロインになってくれたりしたら、その時は――。

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