12:生と死の光
僕は墓守りだけど墓守りではない
正確には、花守り──
墓地のための土地がないこの場所で
新たに生まれた葬送法──それが、花葬
中央広場のたくさんのシェルター
そこに死者の体を安置し
僕は手をかざす──それは
死者の体に残った命と
世界に流れる豊かな命と、それから
僕自身の命の光を、溶け合わせる作業
そうしてシェルターは閉じられ
曇りガラスの蓋から、浮かび上がるように光が漏れる
それは、新たな命が伸びる時間
死体からは植物が生じ
それに合わせて死者の体は分解される
最後は全てなくなって、シェルターには、花が残る
花はたいてい燃やされて、空いたシェルターは
次の死者が来るのを待つ──
僕はここで、彼女と出会った
命の光を描き続けた、聡明で、感情豊かで、強い意志の彼女
事故に遭い、機械化されて再会した時
彼女の体は涙を流す機能がなかった──でも
僕はあの時、彼女の最後の瞬間に
確かに、涙が流れ出るのを感じた──それを
僕は今になって思い出す
赤い瞳の彼女が流した、あの夜の、星のような涙
それは燃える炎のなかで、はっきり彼女自身を示し
そこに浮かんだ光のなかで
僕は、死を選んだ彼女へ通じる、確かな道を見つけた
大丈夫、と、声がして
僕は彼女の言葉が、確かに存在していることを知る
だから
降り注ぐ光の全ては、彼女の微笑み
僕は世界に手をかざし、まだ地上で生きてるよと、光を返す
すると、僕の鼓動に、彼女の指がそっと触れる──
花葬シェルターが並ぶこの中央広場は
晴れ渡る空がよく似合う、と、僕は思う
でも、多くの人は
シェルターの光がはっきり見える夜が素敵だと言う
それも分かるけど、やっぱり──
僕の思い出は昼間を選び
人の行き交うなかの生と死の交差を見たいと思う
この墓地には、まだまだ歴史がない
伝統もなければ、深い哲学も宗教もない
だけど、それでも僕は
この墓地の花守りでよかったと思ってる
光が光に溶けていく──この光景に
僕は彼女を感じ続ける──ここには
命の光を描き続けた彼女の
僕と過ごしたわずかな時間に刻んだ意志が
今でもはっきり残っている──
僕は、墓巡りの旅を終え
機械化人間に襲われることもなく
無事、ここに帰ってくることができた
戻ってきて、僕はたぶん
前よりも喋ることが多くなったと思う
仕事をしながら、いつもにこにこ喋っているから
周りの人に不気味がられているかもしれない
怒られるかと思ったけれど、先輩からは
死者と語れる花守りであることを大切にしなさい、と言われた
その時、僕はちょっとだけ泣いて
人間として生き、人間として死んだ彼女の温もりを感じ
それが──とても、嬉しかった
音として発する、僕の言葉──それが
ここでは多くの言葉と出会う
生者の、死者の、それから、自然に満ちた世界の言葉
もちろん──彼女の言葉とも
「このシェルターのところに来るとね
いっつも思い出すんだ
二人で夜中にこそっと開けて、なかを見たこと
あの時、何もないって言ってたの
たぶん命のことじゃなくて、言葉だったのかな」
風が吹いて、さわさわと近くの木々が揺れる
散歩中の犬が嬉しそうに鳴いて
僕はさっと手をかざす
木々の葉が一瞬光り、そこに陽が反射して
世界に、命の音が鳴り響く
その波に綺麗に乗るようにして、僕の元へ
彼女の思いが流れてくる
温かくて、嬉しくて、愛しさと慈しみに満ちた
どこまでも澄んだ彼女のよろこび──
「こんにちは、花守りさん
今日もあなたは素敵ねえ
あのね、花守りさん
私たちね、死んだ時にはきっと
あなたに花葬してもらおうって
そう、決めてるの」
散歩中の老夫婦が、屈託なく
僕の呼吸にそっと触れて──思わず
僕はその場で、泣いてしまった
二人は優しく笑ってくれて
背中までさすってくれて
僕は、ありがとうございます、と言いながら
止まらない涙を流し続ける
「本当に、綺麗な涙ね
あなたが通ってきたものが
こんなに輝いている」
「はい、いろんな人に、いろんな思いに
本当にたくさんの死者たちに
それから、僕の大切な大切な、愛する人に
僕は支えられて、意志を受けて、だから
僕のなかの火を、大切に燃やしていこうと思っています」
「ありがとう、花守りさん
あなたとあなたの大切な人に、祝福がありますように」
「ありがとう、ございます
お二人の言葉が、光のなかで安らぎますように」
老夫婦は、優しく優しく笑ってくれて
中央広場を後にする
僕はまだ、涙が止まらなくて
でも、この流れる光の温かさに
僕は彼女の声を聴き取る──ああ、そうだね
この涙は、僕らふたりの涙
きらきらと、どこまでも透き通って
虹のように輝いて、そして
優しく強く、燃えている──僕は
彼女の名を呼ぶ
宇宙のなかに光が満ちて、そこに響き渡る
僕の声と彼女の名前、そして
重なり合う、彼女の声──それは、確かに
僕の名を呼ぶ、人間という燃える光の声
命ある、彼女と僕の、本当の──名前だった




