表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

12:生と死の光

僕は墓守りだけど墓守りではない

正確には、花守り──

墓地のための土地がないこの場所で

新たに生まれた葬送法──それが、花葬

中央広場のたくさんのシェルター

そこに死者の体を安置し

僕は手をかざす──それは

死者の体に残った命と

世界に流れる豊かな命と、それから

僕自身の命の光を、溶け合わせる作業

そうしてシェルターは閉じられ

曇りガラスの蓋から、浮かび上がるように光が漏れる

それは、新たな命が伸びる時間

死体からは植物が生じ

それに合わせて死者の体は分解される

最後は全てなくなって、シェルターには、花が残る

花はたいてい燃やされて、空いたシェルターは

次の死者が来るのを待つ──


僕はここで、彼女と出会った

命の光を描き続けた、聡明で、感情豊かで、強い意志の彼女

事故に遭い、機械化されて再会した時

彼女の体は涙を流す機能がなかった──でも

僕はあの時、彼女の最後の瞬間に

確かに、涙が流れ出るのを感じた──それを

僕は今になって思い出す

赤い瞳の彼女が流した、あの夜の、星のような涙

それは燃える炎のなかで、はっきり彼女自身を示し

そこに浮かんだ光のなかで

僕は、死を選んだ彼女へ通じる、確かな道を見つけた

大丈夫、と、声がして

僕は彼女の言葉が、確かに存在していることを知る

だから

降り注ぐ光の全ては、彼女の微笑み

僕は世界に手をかざし、まだ地上で生きてるよと、光を返す

すると、僕の鼓動に、彼女の指がそっと触れる──


花葬シェルターが並ぶこの中央広場は

晴れ渡る空がよく似合う、と、僕は思う

でも、多くの人は

シェルターの光がはっきり見える夜が素敵だと言う

それも分かるけど、やっぱり──

僕の思い出は昼間を選び

人の行き交うなかの生と死の交差を見たいと思う

この墓地には、まだまだ歴史がない

伝統もなければ、深い哲学も宗教もない

だけど、それでも僕は

この墓地の花守りでよかったと思ってる

光が光に溶けていく──この光景に

僕は彼女を感じ続ける──ここには

命の光を描き続けた彼女の

僕と過ごしたわずかな時間に刻んだ意志が

今でもはっきり残っている──


僕は、墓巡りの旅を終え

機械化人間に襲われることもなく

無事、ここに帰ってくることができた

戻ってきて、僕はたぶん

前よりも喋ることが多くなったと思う

仕事をしながら、いつもにこにこ喋っているから

周りの人に不気味がられているかもしれない

怒られるかと思ったけれど、先輩からは

死者と語れる花守りであることを大切にしなさい、と言われた

その時、僕はちょっとだけ泣いて

人間として生き、人間として死んだ彼女の温もりを感じ

それが──とても、嬉しかった

音として発する、僕の言葉──それが

ここでは多くの言葉と出会う

生者の、死者の、それから、自然に満ちた世界の言葉

もちろん──彼女の言葉とも


「このシェルターのところに来るとね

 いっつも思い出すんだ

 二人で夜中にこそっと開けて、なかを見たこと

 あの時、何もないって言ってたの

 たぶん命のことじゃなくて、言葉だったのかな」


風が吹いて、さわさわと近くの木々が揺れる

散歩中の犬が嬉しそうに鳴いて

僕はさっと手をかざす

木々の葉が一瞬光り、そこに陽が反射して

世界に、命の音が鳴り響く

その波に綺麗に乗るようにして、僕の元へ

彼女の思いが流れてくる

温かくて、嬉しくて、愛しさと慈しみに満ちた

どこまでも澄んだ彼女のよろこび──


「こんにちは、花守りさん

 今日もあなたは素敵ねえ

 あのね、花守りさん

 私たちね、死んだ時にはきっと

 あなたに花葬してもらおうって

 そう、決めてるの」


散歩中の老夫婦が、屈託なく

僕の呼吸にそっと触れて──思わず

僕はその場で、泣いてしまった

二人は優しく笑ってくれて

背中までさすってくれて

僕は、ありがとうございます、と言いながら

止まらない涙を流し続ける


「本当に、綺麗な涙ね

 あなたが通ってきたものが

 こんなに輝いている」

「はい、いろんな人に、いろんな思いに

 本当にたくさんの死者たちに

 それから、僕の大切な大切な、愛する人に

 僕は支えられて、意志を受けて、だから

 僕のなかの火を、大切に燃やしていこうと思っています」

「ありがとう、花守りさん

 あなたとあなたの大切な人に、祝福がありますように」

「ありがとう、ございます

 お二人の言葉が、光のなかで安らぎますように」


老夫婦は、優しく優しく笑ってくれて

中央広場を後にする

僕はまだ、涙が止まらなくて

でも、この流れる光の温かさに

僕は彼女の声を聴き取る──ああ、そうだね

この涙は、僕らふたりの涙

きらきらと、どこまでも透き通って

虹のように輝いて、そして

優しく強く、燃えている──僕は

彼女の名を呼ぶ

宇宙のなかに光が満ちて、そこに響き渡る

僕の声と彼女の名前、そして

重なり合う、彼女の声──それは、確かに

僕の名を呼ぶ、人間という燃える光の声

命ある、彼女と僕の、本当の──名前だった 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ