イマジナリーが止まらない
小学1年生の時、初めての友達ができました。名前は佐藤さん、あだ名はさっちゃんです。読書が大好きで、おすすめの小説を貸してもらっているうちに自然と仲良くなりました。ちなみにイマジナリーフレンドです。
さっちゃんは、たとえ空想上の存在だとしても私の自慢の親友です。さっちゃんは、仲良くなってしばらくして、私に言いました。
「怒らないで聞いてね。やっぱり私以外の友達もいたほうがいいんじゃないかな。これからのあなたの人生のためにも」
私は大泣きしました。悲しかったのではなく、嬉しかったのです。真の友情に感動したのです。
これがどんなに素敵で幸せなことか分かりますか? 彼女は私に嫌われてしまったら、この世界から消えかねないことを承知で、それでも私のために忠告してくれたのです。だからこそ、私は彼女の言葉に従いました。
彼女を心配させないよう、もっとたくさん友達を増やすことにしたのです。運動が得意な鈴木くん、勉強熱心な高橋さん、明るいムードメーカーの伊藤くん、いつもクールな渡辺さん……。1年間で1クラス分のイマジナリーフレンドができました。さっちゃんは何とも複雑な表情をしていましたが。
現実の友達は進学や就職をきっかけに段々と疎遠になっていくそうですが、イマジナリーフレンドにそんな寂しい別れはありません。毎日だって同窓会やパジャマパーティーができるのですから。
そうそう、この小説もさっちゃんが私のために書いてくれたんですよ。最近はネットにも投稿しているそうです。せっかくだから、先生にも読んでほしくて、さっちゃんにも許可を取りました。
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おそらく、解離性同一症だろう。しばらくはカウンセリングを続けつつ、投薬治療も視野にいれるべきかもしれない。
しかし、話を聞いているとなんだか不思議な気持ちになってくる。ひょっとすると私も彼女の想像の産物なのでは……なんて突拍子のない考えが浮かんでくるのだ。
だからこそ、彼女から何も書かれていない原稿用紙の束を受け取りながら安心した。少なくとも私は彼女が創造し、生活している世界の一員ではないらしい。
「小説かあ。それはすごいね。ところで、なんていうタイトルなのかな?」
「もう、ちゃんと読んでくださいよ、先生! 一番最初に書いてあるでしょう。『イマジナリーが止まらない』って」