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鳥籠の鳥達  作者: キレショー&露
6/13

第五話

「(今日は男女見かけねぇなぁ……)」

食堂でも中庭でも実験場でも見かけなかった。

「(つまんねぇ)」

ナナシはふらりと廊下を歩いて行った。


「男女ー」

ナナシはアヤノの部屋の前まで来るとノックもせずにいきなりドアを開けた。

「ごほっ……ごほっ……ナ、ナナシ……?」

そこには苦しそうにベッドに横たわるアヤノがいた。

「んだよ風邪か?」

「ああ……移るといけない……。君はもう帰りたまえ……」

「ヒャハハ!あの男女が風邪ね~」

ナナシは面白そうに嗤った。

「あの……帰ったらどうだ……?」

「何でだよ。良いネタが転がってんのに帰る訳ねーだろ」

「移っても知らないからな……」


後日……

「ごほっ……げほっ……」

「そらみたことか」

アヤノは見事に風邪が移ったナナシの見舞いに来ていた。

「うるせぇ……ごほっ……ごほっ……」

「私はもう行くが、大人しく寝てるんだぞ」

「ふん……ごほっ……ごほっ……」


アヤノは外に出てドアを閉めた。

「(……風邪が移ったのは可哀想だが、一人で心細かった所に来てくれて嬉しかった、なんて言えないな……)」

アヤノは一人、静かに笑った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「(今日はソウタくん見かけませんわね……)」

ハルはいつもの様に中庭でソウタを待っていたがそこにも来る気配は無い。

そうこうしてる間に実験の時間がやってきた。

「(ソウタくん……)」


次の日……

「(ソウタくん今日も来ませんわね……。こうなったら、実験の時間が来る前に、お、お部屋に伺ってみましょうかしら……!)」

ハルは立ち上がった。


「最近研究所内で風邪が流行ってるみたいだな」

「俺らも気をつけねぇとな」

ハルは談笑している研究職員の横をそそくさと通り抜け、ソウタの部屋の前へとたどり着いた。そして部屋の扉をノックする。

「ソ、ソウタくん……?」

ソウタからの返事は無い。ハルはそっと扉を開けた。

そこには苦しそうにベッドに横たわるソウタの姿があった。

「ソ、ソウタくん!?どういたしましたの!?」

「う……え……ハ……ハル……?何で……?」

ソウタは突然のハルの出現に驚いた様だ。

「昨日からソウタくんの事をお見かけしませんでしたからお部屋にお伺いしようと……。ソウタくん、大丈夫ですの……?」

ハルはソウタに近付いた。

「あー……風邪拗らせたんだ……。すぐ治るから大丈夫だよ……。風邪移ったらいけないからハルはもう帰りな……」

「風邪って、移りますの?」

「ははっ、移るの」

ソウタは苦しそうに笑った。

「ソウタくん……」

「治ったらまたいっぱい喋ろうな……」

「……!は、はい!」

「じゃあな」

「ソウタくん、また……」

「ああ……」

ハルは扉を閉めて出ていった。


「あー、ハルにカッコ悪いとこみせちまった……」

ソウタは一人になった部屋でそう呟いた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ごほっ……ごほっ……」

部屋で一人咳き込んだ。

「(研究所内で風邪が流行ってるのは知ってたけど、俺がかかるなんてね……)」

心の中で強がってみせるが、そうした所で風邪は治らない。

「(部屋で何もせずに横になってると嫌な事を考えるから嫌なんだけど……ああ……ほら)」

家族からの期待にも応えられず、何もかも嫌になって全てを捨て、スリになったあの日の事……。手先は器用だったからそれで充分生活は出来た。警察に捕まる様な事もなかった。ある日たまたまスッた奴がここの研究所の職員だったからそこからこの研究所にたどり着いた。もちろん交渉も上手くいき、存分な衣食住を手に入れた。……なのに心がいつまでも満たされない気がするのは何でだ?何で……。

「……ウ、リョウ!」

「へっ……?な……何……。5番ちゃんじゃん……」

いつの間にかうとうとしてた様で部屋に入って来た5番ちゃんに気がつかなかった。

「勝手に入って来るとか何してんの……」

「ごめんなさい。返事が無かったから」

「……」

「リョウ、どうしたの?病気?」

5番ちゃんは珍しく少しおろおろしてる様だった。

「ただの風邪……」

何で君が慌てるのさ……。

「何か欲しい物はある?」

「あっても君には持って来られないだろう……ごほっ……。ここの奴らに持って来させるから大丈夫だよ……。君の出来る事は無い……ごほっ……。さあ帰った帰った」

風邪が移るといけないからなんて言えなかった。

「そう……それじゃあまたね」

5番ちゃんは微かなその表情の中に「心配だ」とでもいう様なものを滲ませていた。だから何で君が心配するのさ……わざわざ俺の部屋にまで来て……。

『ホントに良いの?』

俺の心がざわつく。

『ホントに帰ってもらって良いの?一人は寂しいんでしょ?一緒にいて欲しいんでしょ?』

ああ、やめろ。

「リョウ、じゃあね」

『ホントに』

「待って!ごほっごほっごほっ」

大声を出してベッドから跳ね上がった為激しく咳き込んだ。

「リョウ!大丈夫?どうしたの?」

5番ちゃんは出かけた扉の向こうから俺の方へ走って来た。

「えっと……」

『素直になりなよ』

ああもう俺の心の声うるさい。

「一緒に……いて欲しい……。風邪移るかもだから無理にとは言わないけど……」

「良いよ」

君はそう言うと思ったよ……。

「……俺が眠るまでの間で良いよ」

「眠ってからも一緒にいるわ」

「何で……ごほっ……」

「起きて誰もいなかったら寂しいでしょう」

全く、君には敵わないね。

「実験はどうするの」

「……忘れてたわ」

「ははっ……ごほっ……。眠るまでの間で良いよ……。それで充分……」

「うん。お休み」

そう言うと5番ちゃんは俺の頭を撫でた。

「!」

「?」

まあいい……。今日は甘んじて受けてやろうじゃん。

俺がこんなに人に頼るのは風邪で弱っているからだ。心の中でそう言い訳した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ハル」

「あ……レ、レイさん」

「話があるのだけれど」


「『けいさつかん』、というのはよくわかりませんけれど、とにかく私達をここから出してくれますのね」

ハルはよくわからないなりにレイの話す内容を理解した様だ。

「ええ。ただ、少なからず皆の協力はいるのだけれど」

「お、お役にたてるかわかりませんけれど、頑張りますわ」

ハルは小さくガッツポーズをした。

「けれど……研究所の解体?はお手伝いしなくて大丈夫ですの?」

「それはソウタに止められたから」

「え?」

ハルは何故いきなりそこでソウタの名前が出たのかわからない様だった。

「ソウタが『ハルに無茶させたくない』って」

「ソウタくん……そうでしたの……」

ハルは脳裏にソウタの顔を思い浮かべた。

「だからハルは脱出の事だけ考えて」

「はい。わかりましたわ」

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