第四話
「むう……」
「んだよ男女」
アヤノは中庭の真ん中で腕組みをして唸った。近くのベンチにはナナシが寝転がっている。
「いや、ここにいると運動不足を感じてな……。料理もせず買い物にも出ないとなるとなおのこと活動量の不足を感じる」
「男女は常に動き続けて無ぇと生きれねーのかよ。マグロか」
「む、そういう君だって運動不足気味になってるんじゃないか?」
「んなこと言ったてここじゃ出来る事だって限られてんじゃねーか」
「ナナシ、私と一緒に運動しないか?」
「は?」
「まずはラジオ体操なんてどうだ?」
「しねぇよ」
「むむ、なら太極拳ならどうだ?」
「しねぇ」
「ヨガ」
「しねぇ」
「何なら良いんだ君は」
「何でテメェと一緒に運動する前提なんだよ」
「君も運動不足かと思って……」
「他の奴誘え」
「……」
押し黙ってうつ向くアヤノにナナシは盛大なため息をついた。
「手合わせなら良いぜぇ……バトろうじゃねぇか」
「……!ナナシ!」
「あれ何やってんの」
中庭の端のベンチに座るレイにリョウは声をかけた。
「手合わせしてるみたい」
「ふーん。野蛮人のやる事だね」
「私達もする?リョウ、運動不足でしょう」
「やだね。僕は本でも読んでる」
「……もう」
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「あーあ、ここにいたら趣味も楽しめねぇ」
ソウタは口を尖らせた。
「趣味?ソウタくんの趣味は何ですの?」
「おれの趣味はねー、カメラ!特に人を取るのが好きなんだ。あーあ、カメラがあったらなーハルの事も撮ってやりたいのに」
「まあ!カメラ!良いですわね」
「お!カメラは知ってんのか」
「ええ、ご主人様がよくカメラマンの人をお呼びして私の事を撮ってらしたのです」
「カ、カメラマン……ハルのご主人様は金持ちなんだなー」
「?」
「ハルの趣味は何だ?」
気を取り直してソウタはハルに質問した。
「私の趣味は絵を描く事ですわ!特に水彩画。風景を描くのが好きですわ。でも鉛筆のデッサンやお人を描くのも好きです。……けど、ここには絵の具やキャンパスはありませんものね……。鉛筆やスケッチブックすらありませんもの……。つまらないですわ……」
「そっかー……。じゃあ、ここから出られたらやりたい事リストに追加だな!」
「やりたい事リスト……?」
「おう!おれらだって一生このままじゃ無いだろ?きっといつか出られる。やりたい事を作ってたら未来に希望も持てるだろ?」
「ふふっ、そうですわね」
ハルはソウタの言葉に微笑んだ。
「いっぱい、やりたい事リスト作ろうな!」
「はい!」
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「やっ!はっ!」
「何してんの?」
リョウは中庭の木陰で声を出しながら動いているレイに話しかけた。
「剣道の真似事」
「何でそんな事してんの」
「ここにいると体が鈍るから」
「2番ちゃんといい君といい殊勝なもんだね」
「ありがとう」
「皮肉だよ」
リョウは木陰のベンチに腰掛けた。
「リョウもする?」
「は?やだよ。そんな野蛮人のする事」
「リョウは本ばっかり読んで運動不足気味でしょう?」
「運動不足結構。僕は文字が読めてたらいいの」
「将来困るよ」
「……」
リョウはその言葉に少しぐらついた様だ。
「さ、立って」
レイはリョウの腕を掴んだ。
「ちょっ……まだ『する』なんて言って無いじゃん……!」
「沈黙が答え」
「……くそっ。わかったよ。すれば良いんだろすれば!」
リョウは嫌々立ち上がった。
「じゃあまずは竹刀を握る所から」
「竹刀無いじゃん」
「竹刀は想像で補って」
「はぁ……」
「手首は柔らかく。そう、リョウ、上手いじゃない」
「当たり前だろう。僕は君達とは違って器用なの」
「本格的に剣道、やってみない?」
「やだね」
リョウの言葉にレイはがっかりした様だ。
「じゃあ、次は摺り足(すりあし)」
三十分後……
「ぜぇ……ぜぇ……」
「やっぱり運動不足ね」
リョウは膝に手をつき息をきらせていた。
「俺は……君達みたいな……体力お化けとは……違うの……」
「それでも運動不足気味よ」
「チッ……」
リョウは図星をつかれた事を隠す様に舌打ちをした。
「今日はここまでにしましょう。また明日特訓するわ」
「もうしないって……。何で当たり前の様に特訓する事になってんの……」
「リョウの運動不足をどうにかしたいから」
「何で君が俺の運動不足をどうにかしたいの……」
「……何でかしら?」
「……とにかく、もう付き合わないからね」
「そう……残念ね……」
「……たまになら良いよ」
リョウは微かに滲み出たレイの悲しげな表情に居心地の悪さを感じそう言った。
「本当?嬉しいわ」
「何で君が喜ぶのさ」
「……何でかしら?」
「はぁ……」
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「ソウタ」
「あっ、レイ。どした?」
「話がある」
「?」
「はぁ~!レイって警察官だったんだな~」
ソウタは驚きの表情を見せる。
「ソウタ、声が大きい」
「あっ!ごめんごめん」
「ソウタ、必ず貴方方をここから出してみせるわ」
「おう!おれにも手伝える事があったら言ってくれよな!……って、言いたい所だけど……」
「何」
レイは小首を傾げた。
「研究所を潰すのってハルにも手伝わさせるのか……?」
「そのつもり」
ソウタはその言葉に顔を曇らせた。
「それは、止めてくんねーかな。ハルに無茶させたくないんだ」
「……そう」
「ダメか?」
「いえ、わかったわ。こちらの配慮が足りていなかったわね。ごめんなさい」
「いや!レイが謝る事じゃねーって!おれはハルに無茶させないならそれで良いんだ……。だからハルの脱出の手伝いならする。でもそれ以外は出来ねぇ」
「わかったわ」
「ごめんな」
「ソウタが謝る事でも無いわ」
「じゃ!ありがとな!かな?」
ソウタの言葉にレイは薄く笑った。