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鳥籠の鳥達  作者: キレショー&露
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第三話

「ナナシ……君、甘い物は好きか……?」

食事時の食堂でアヤノはナナシに近付いてそう言った。その手には小鉢が握られている。

「あ?甘ぇもん?好きでも嫌いでもねぇよ」

「頼みがあるのだが……」

「んだよ」

「これ……食べてくれないか……?」

アヤノは手に持っている小鉢をナナシに差し出した。それは、今日のメニューのフルーツポンチだった。

「なんだテメェ、これが食えねぇのかよ」

ナナシはニヤつきながら言った。

「ああ……そうだ……。私は甘い物が苦手なのだ……。だが、残すのはどうもしのびない……」

アヤノは項垂れた。

「んじゃ、トレード」

そう言うとナナシはサラダの入った小鉢を差し出して来た。

「?ナナシは野菜が苦手なのか?」

「好きでもねぇけど嫌いでもねぇ。俺は肉さえ食えりゃいいんだよ」

「むう……普段なら栄養が偏ると叱る所なのだが、今日は私も人の事は言えない。わかった、引き受けよう」

「話がわかるじゃねぇか」

ナナシはニヤリと笑った。


食事を終えたアヤノは、食事を終えてもなお食堂にたむろするナナシに近付いた。

「ナナシ、さっきは助かった。ありがとう」

「ん?あぁ。しっかしテメェにも苦手なもんがあるんだなー」

ナナシはアヤノの弱みを握ったとニヤニヤした。

「ああ……そうだ……。それでその……」

「あ?何だ?」

「これからも、苦手な物が出たら交換してくれないか……?」

「くっ……はははははっ!」

ナナシは可笑しそうに腹を抱えて笑った。

「天下の男女アヤノ様が苦手なもん食ってくれってか!はははっ!これは笑えるっ!」

そんなナナシにアヤノは……

「ありがとう!恩に着る!」

ナナシの手を取って礼を言った。

「は?テメェ笑われてんのがわかんねーの?」

「いやでも食べてくれるのだろう?」

「まぁ……」

ナナシはアヤノから目線を反らし人差し指で頬を掻いた。

「ならやはりありがたい!これからよろしくな!ナナシ!」

「……チッ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「うっ……うっ……」

「ハル!どうしたんだ!」

ソウタは中庭で泣いているハルを見かけると一目散に近付いた。

「うっ……ソウタくん……」

ハルはソウタの方を向く。

「俺で良かったら話聞くぞ?」

「ソウタくん……」

「うん、どうした?」

「その……ですね……」

「うん」

「今日のお食事が私の嫌いな物ばかりでしたの!」

「うん……て、え……?」

ソウタは想像していたものとはかけ離れたハルの言葉に面食らった。

「私、ねばねばした物が嫌いですのに今日のお食事ときたら緑のねばねばに茶色のねばねば!」

「あ、ああ……オクラに納豆な……」

「ご主人様といた時はこんな事無かったですのに!」

ハルは一人憤慨していた。

「お、俺もさ、飯ににんじん入ってたら泣きたくなるよ」

「ですわよね!全く、ここのお食事もう少しどうにかなりませんこと!私の好きなフルーツサラダも出ませんし……」

「お、ハルはフルーツサラダが好きなのか。俺はラムネが好きだぞ!」

「『らむね』……って何ですの?」

「ハルお前ラムネ知らないのか!」

ソウタは驚きに目を丸くした。

「はい」

「ラムネはな~甘くてシュワシュワで美味いんだぞ~」

「甘くて……シュワシュワ……」

「な、ハル!ここから出られたらハルにラムネを紹介してやるよ!」

「まあ!それは楽しみですわ」

「ハル、元気になったな」

「え、あ……」

ハルは先程までの悲しみが消え失せている事に気が付いた。

「ソウタくん……」

「ハルが元気になって良かったよ」

「ふふっ。またソウタくんに元気付けられましたわね……。私もいつかソウタくんの事元気付けられるかしら」

「もうなってるぜ!」

「え……?」

「おれ、ハルといると元気になる!ハルから元気もらってんだ!」

「そ、そうですの……」

ハルは顔を赤らめた。

「?ハル、顔赤いぜ?どーしたんだ?」

「あ、えっと、あの!そ、そろそろ実験のお時間ですのでもう行きますわね!」

ハルは立ち上がった。

「お、おー」

「ソウタくん、ありがとうございます」

ハルは去り際ソウタに礼を言った。

「ん!」

ソウタはいつもの様に満面の笑みを浮かべる。

ハルはその笑みに心臓の鼓動を高鳴らせた。

「で、では……」

「おー!またなー!」


「(何ですの……このドキドキは……。気持ち良くて、温かい……。ソウタくんと一緒にいると……)」

ハルにはそれが「恋」だという知識は持ち合わせていなかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「リョウ、何を食べてるの?」

レイは中庭で口をモゴモゴとさせているリョウを見かけて声をかけた。

「ああ、5番ちゃん。チョコレートだよ。それも僕好みのハイミルクのね」

「何でそんな物が?」

レイは首を傾げた。

研究所に捕まった時に現金の類いは没収されているし、そもそも外に出られない。研究所の食事でチョコレート、しかもピンポイントでハイミルクの物など出ない。

レイの疑問にリョウは嘲笑うかのように答えた。

「あは、無理矢理捕まえられた君達には到底無理だけどね、僕は自ら望んでここに来た。研究員達と交渉してね。僕と研究員は対等……いや、僕の方が立場は上。自分の好物くらい余裕で持って来させられる」

「リョウはチョコレートが好きなのね。可愛いわね」

「……は?俺が、可愛い……?」

リョウはレイの期待していた反応と違う反応に戸惑った。

「うん。可愛い」

リョウは毅然となおも自分の事を「可愛い」と言ってくるレイに戸惑う。

「あ~!もう!調子狂うなあ!帰る!」

「どこに?」

「自分の部屋に決まってるだろう!」

「そう。リョウ」

「何」

「またね」

「こいつは~~!」

リョウは頭をがしがしと掻きながら去って行った。

「(そうなのね……。リョウは自らここに来て好きな物を持って来させられる……。)」

レイは一人分析していた。

「(それにしてもちょっと羨ましいわ。好物を持って来て貰えるなんて。私も耳の柔らかい食パンが食べたいわ……。ここで出るのは硬いのばかりだもの。リョウに頼んだら持って来て貰えるかしら。なんて)」

レイはリョウの心中も知らずそんな事を考えた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「アヤノ」

「あ、レイさん。どうしたんですか?」

アヤノは廊下でレイに声をかけられ振り返った。

「私の部屋に来て」

「?何かご用で?」

「部屋に来たら言う」

「?はい」


「それで、何のご用でしょうか?」

レイの部屋に来たアヤノは質問した。

「……私の本当の名前は八雲麗花。この組織を潰す為に潜入捜査に来た警察官よ」

「え!?『八雲麗花』ってあの……夜鳥ながらも警察官になり様々な功績を残している……。新聞で何度か名前をお見かけしました。顔写真はのっていなかったのでお顔は知りませんでしたが……」

アヤノが驚いているが、レイは続けてこう言った。

「アヤノ、この組織を潰す、もしくは皆の解放の為に貴方の力を借りたい」

アヤノの顔が引き締まる。

「……わかりました。願ったり叶ったりのお話です」

「ありがとう。皆にもこの話はするつもり。でもタイミングもある。だからみんなにはこの事はまだ黙っていて」

「はい」

レイは、アヤノという協力者を手に入れた。

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