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鳥籠の鳥達  作者: キレショー&露
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第一話

「ナナシ、君はまた抵抗したのか」

強化ガラス張りの大きな中庭、そこのベンチには傷だらけの昼鳥、ナナシが横たわっていた。

「うるせぇ男女(おとこおんな)」

ナナシは「男女」と呼んだ人物、アヤノを睨み付けるが、その瞳はどこか力無い。

「立てるか?医務室へ行こう」

「俺に構うな……」

「立てないなら治療器具の方を借りて来よう」

「俺に構うなっつてんだろ!!」

ナナシは怒気を孕んだ言葉をアヤノにぶつける。

「それは出来ない」

「は?」

「私は……弱っている者を見捨てるなんて事は出来ない」

「……チッ……。もう勝手にしろ」

「ああ」


「いっ……!」

ナナシは傷に消毒液を浸けた綿を当てられ声を上げた。

「すまない……痛かったか……?」

アヤノは眉を下げて謝った。

「痛くねぇ……」

ナナシはふい、と顔を背けた。

「……なぁナナシ。君には君の心情があるんだろうが毎回こうだと君の身体が持たないぞ」

「持たねぇからなんだ。俺は俺の好きに振る舞うだけだ。他の奴の言いなりになるなら死んだ方がマシだ」

「私は……君に死んでほしくない」

「あ?何でだよ」

「私は仲間に死んでほしくなんかない」

「はっ!『仲間』!ちゃんちゃら可笑しいな!」

ナナシはアヤノの『仲間』という言葉を嘲笑った。

「ただの実験台の道具同士なだけだろ俺達は」

「……それでも、私は君達の事を仲間だと思っている」

「はん、頭の中お花畑かよ」

「そうかもな」

「……チッ」


「さあ、治療は終わったぞ。と、言っても応急手当てだがな。ちゃんと医務室で手当てしてもらうんだぞ」

「やだね。めんどくせぇ。昼鳥だから自然に治るだろ。それに、治したところで明日にはまた元通りだ」

「なら、何度でも治療してやろう」

「……めんどくせぇ奴」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「うっ……うっ……ご主人様ぁ……」

「(ん……?あれは……)」

ソウタが中庭の前を横切ろうとした時、泣き声が聞こえてきた。気になって近付いてみると夜鳥のハルが泣いていた。

「えっと……ハル、だっけか?」

「ひゃっ……!」

「あ……ごめんごめん。おどかす気は無かったんだ。泣いてるから、気になって……」

ソウタがそう言うとハルはまたポロポロと涙をこぼし始めた。

「ど、どうしたんだ!?俺で良かったら話聴くぞ!」

「うっ……うっ……ご主人様の所に帰りたいのですわ……」

「ご主人様……?」

「私(わたくし)は、生まれた時からご主人様と一緒でしたの……。それはそれは楽しい時間でしたわ……。けれど、ある日突然ここに連れて来られて……うう……」

「ハル……」

「ご主人様……ご主人様ぁ……」

ハルは泣きじゃくる。

「な!ハル!」

「ふぇ……?」

「俺じゃご主人様の代わりにはならないだろうけどさ、辛かったら話聴くし……えっと……元気出せ!な?」

「……えっと、ソウタ、さん……」

「『さん』付けとか良いって!」

「じゃあ……ソウタ、くん……」

「うん!それでいい!」

ソウタはニカッと笑った。

「俺ら、仲間だろ?あ、友達でもいいぜ!」

「友……達……?」

「友達はな、辛い事は分け合って、嬉しい事は倍にするんだ!な?だから、泣かなくていいぜ!」

「ふふっ……」

「あ、笑った」

「?」

「ハルは笑ってた方が良いぜ!」

「……ソウタくん、ありがとう」

「おう!」

ソウタは親指を立てて笑った。

だが、そんな二人を引き裂く者が現れた。

「3番!実験の時間だ!来い!」

研究員だ。研究員はハルの腕を乱暴に掴みハルを無理やり立たせた。

「きゃっ……!」

「ハル!」

ソウタはハルに手を伸ばしたが……

「あ?何だ6番。実験の邪魔をするとこいつもお前もどうなるか解っているだろうな」

その言葉を聞き手を下げた。

「ソウタくんっ……!」

「行くぞっ!」

「ソウタくんっ!ソウタくん!」

「ごめんな、ハル……!」

ソウタはうつ向いて手を強く握りしめた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「う……ぐ……」

もうすぐ夜も明けるという時間帯、研究所の廊下を身体を引きずる様にして歩く夜鳥が一人……。

「(今日の実験はきつかったわ……全身が痛い……)」

レイは深夜~明け方にかけての特別実験で疲れはてていた。

「うっ……!」

なんとか自室に戻ろうと歩を進めていたがやがて限界がきた。痛みに耐えかねレイはその場にうずくまる。

「(……どうする……)」

ふと隣を見ればベンチの並ぶ中庭がある。

「(もうすぐ夜明けだけれど、少しだけ休もう……)」

レイは最後の力を振り絞り中庭のベンチへと向かった。レイがようやっと一番近いベンチまでたどり着くと……

「ん?何?5番ちゃんじゃん」

そこには皆の事を被検体番号で呼ぶリョウが寝転がっていた。

「(もう……駄目だ……)」

レイは力尽きリョウの上に倒れこんだ。

「えっ、ちょっ、何!?」

レイの意識はそこで途切れた。


レイが目覚めると、そこには見慣れた天井があった。部屋の中は暗い。起き上がろうとすると身体に痛みが走った。

「うっ……!」

「ああ、5番ちゃん、起きた?」

声のする方を見るとリョウが本を持って椅子に座っていた。

「リョウが運んでくれたの?」

「正解~。君、あのまま放置してたら日の光に晒されてたからね。流石にそれは僕も寝覚めが悪い」

「ありがとう」

「お礼なら現物支給が良いな。1000円」

そう言うとリョウは手を差し出してきた。

「ごめんなさい。持っていないわ」

現金の類いは研究所に捕まった時に没収された。

「冗談。君達が持っていない事くらい知ってるよ。君に差し出せるものと言ったらその身体かな」

「何をすれば良いの?」

「性欲処理」

「なっ……!」

レイが狼狽えるとリョウは満足そうにクククと笑った。

「冗~談。僕にだって好みくらいあるよ」

「し、失礼ね……」

リョウはまた可笑しそうにクククと笑う。

「いいよ。5番ちゃんの珍しい所見れたから、それでチャラにしてあげる」

リョウは手元の本を閉じると椅子から立ち上がった。

「じゃあね。また面白いとこ見せてね、5番ちゃん」

そう言ってリョウはひらひらと手を振ってドアから出て行った。

「……失礼な人ね」

レイはそう言うと瞼を閉じた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


暗闇の中、レイは一人呟いた。

「私は、絶対、ここのみんなを救ってみせるわ」

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