第5話 孤児院の魔法大好きっ娘
それは本がいっぱいに詰め込まれた部屋。
普通ならば決してありえない程の量の本が俺の目の前にある。
何をどうしたらこうなるのか俺にも分からないが、この部屋の持ち主は魔法がそれはそれは大層大好きだそうだ。
俺がこの部屋に偶然入り、本をペラペラと読み流ししていたら出会った。
一人の少女に。
彼女の名前はクリス。
この孤児院で一番の魔法大好きっ娘で魔法に関する知識ならこの孤児院内では誰にも負けない。
だから、魔法が好きなの?と言う問いに答えてしまった俺は彼女に捕まり数時間のオタク話を聞かされた。
一人分のスペースという狭い空間で、
俺はどうにかしてクリスの話を遮り、一旦落ち着かせる。
「ちょっ、落ち着いて。何を言っているのか俺には分からない。」
ていうか近い・・・胸が見えそうだ。
あと意外に良い匂いがする。
「ごめん・・・・つい張り切っちゃっ・・・て。」
「いや、別に気にしてないからいいよ・・・」
狭いスペースで女の子と二人っきり。
肩と肩が触れ合う距離で盛り上がらないどんよりとした空気の中位置する二人。
「・・・」
「・・・」
お、重い。
空気が鉛のように重いぞ。
この体の元の持ち主の記憶から掘り起こして見るに、クリスは常に魔法一筋。
だから他人とのコミュニケーションを極限的に取らないし、会話をすること自体慣れていない。
しかしこの空気は重い。
何とかしないと。
そう、何か話題を、話す内容を提供しなくては!
「あの、ここの部屋はどうしてこんなに本がいっぱいあるの?」
「・・・それは私にも分からない。でもシスターが言うには昔この孤児院を建てた人達の中の一人が・・・・・・此処に置いて行ったらしい。・・・私としてはとても嬉しいの極み。」
なるほど、昔の人が置いて行ったものだったのか。
いやでも、本を置いて行ったと言っても此処までの量の本を置いて行くか普通?
ふむ、不思議だ。
「ところでエマは・・・魔法が好き?」
「え、ええ。好きですよ。」
これと言った魔法は使えないけど間違ってはいない。
だから俺はクリスの質問に対して一言答えた。
すると、クリスの目がまたもやキラキラとしている輝きの眼で俺を見てきた。
クリスが口を開く。
「いいかい。ここにある本は全て魔導書なんだよ。私は一日中ここにある本をこの孤児院で過ごす中読んできた。私の目標は此処にある魔導書の読破。この部屋には私の夢が詰まっている!」
「は、はい・・・・」
なんかまた饒舌に話し始めた。
魔法に関する話だとクリスは止まらないのかな?
よし、長く話される前に自然に話題を変えよう!
「そしてこの魔導書の中に詰まっている知識を活用して世界中を旅してみたいと考えることもある。でもまずは此処にある魔導書の読破。それしか今の私には、」
『ところで魔導書ってどんな事が書かれているんですか?』
「魔導書には偉人が残した魔法に関する基礎知識や理論、他にも色々な分野の知識が詰まっており、さらには珍しい魔法の一つや二つ、この世界にあると書かれている本があったり無かったり。他にも・・」ペらぺらぺらペら
器用な人だな。
会話している最中に会話を捻じ込んだら急に話題をそっち方面にチェンジして喋り始めた。
面白い人。
しかし、前世の頃は魔導書と言う単語はゲームやアニメ、漫画などを読んだり見ていたら必ず出てくるファンタジー要素単語の一つ。
特に魔法がある世界には必須だ。
だけど、中身は何が書いてあるのかはよくわかっていない。
皆、魔法に関する何かが書かれているとかは予想できるが、そこからは漠然としたものが広がっている。
だからここで聞いておいて損はない。
転生したからと言ってやることが無いのは暇すぎるからな。
しかし、魔法に関する基礎知識とか理論は何となくわかっていた要素だが、珍しい魔法というところが気になる。
聞いてみるか。
「だから魔法と言うのは奥が深いのだ・・・・」
「あ、はい。ところで話の途中に出てきた珍しい魔法と言うのはどういったものがあるんですか?」
「私にも魔導書に書かれている事しか知らない。だから分かることは、『時間魔法』と『組み換え魔法』、それから『宇宙』と言う魔法があるらしいが、正直事実かどうかは見て見ないと分からない。魔導書に乗っている事でも間違っている事実もあるから信じすぎるのも良くない。」
おぉ、聞いてみるもんだな。
珍しいというか、完全にチート魔法な予感がする魔法が出てきた。
時間魔法とか聞いただけでわかる強い魔法。
組み換えはよくわからないけど、なんかすごいのかな?
宇宙はよくわからない。
漢字で書けば宇宙と書いて宇宙と読むんだろうけど何が出来るかは未知数。
「あの・・・」
クリスは俺の声が聞こえていないのか一方通行な会話をしている。
自分の溜め込んだ知識を俺だけに向けて爆発させている。
頭痛くなる・・・
「」ペラペラペラペラペラペラペラペラペラ
何でこんなことに・・・。
俺はただ、何故こんな所に大量の山積みになった本が置いてあるのか聞きたかっただけなのに、
案の定墓穴を掘った発言により再び数時間のおしゃべりタイムが続いたのだった。
勘弁してくれ。
もう俺のライフはとっくにゼロよ。
おしゃべりタイムから約6時間後、
「という事。これでエマにも魔法の可能性と凄さが十分に伝わったと思う。」
「はい・・・・・・・・・・・・・あの、魔法の素晴らしさが身に染みる程分かったので、そろそろ本題に入っても、」
「ん・・・」
そう、本題は別にある。
クリスに話したかった事は、そもそも何故こんな所に大量の本が置いてあるかだが、クリスと話している最中に俺は一つの可能性を見た。
その可能性とは、この孤児院で魔法に関しての知識が一番あるクリスに魔法を教われば、俺もかっこいい魔法とかを使えるかもしれないというものだ。
今より成長できるかも。
だから俺は早速魔法を教えてもらえるようにお願いする。
「あのクリス、突然の頼みなんだけど俺に魔法を教えてくれないか?」
「?」
「ほら、俺魔法好きだし、もっと色んな魔法を覚えてみたいな~、なんちゃって。」
「了承。」
「ホント!」
「だけど簡単じゃない。今までシスターに教わったことは基本中の基本。そこから更に踏み込むためにはどうしても知識が必要になる。だから、魔導書を読んで知識をつける。」
「魔導書?」
「そう、ここにある大量の魔導書を読み漁って魔法に関する知識を深める。そうすると、自分の発想力だけで扱える魔法とか、色んなことが分かってくるから退屈しない。」
「そ、それなら、」
俺はただ退屈しないという理由でこの話に乗っかった。
だってこの世界って特にやる事が無いし、ずっと暇を持て余していたんだよね。
だから目標が出来るまで辛抱していたんだけど、その必要はなくなりそうだ。
それに、正直言って本を読むのは好きだ。
小説や漫画とかを読むから当然だ。
しかし、問題が一つある。
字が読めないという事だ。
正確にはちょくちょく知っている文字があるだけで全体的にどんな内容なのか、何が書いてあるのかが全く分からない。
だからまずはこの世界の文字について学ばなければならない。
なので俺は強がらず、正直にクリスに「文字を教えてくれ」と綺麗な土下座をしながら頼んだ。
客観的に見たらそれはもう見事な土下座だ。
輝いている。
すると、俺の誠意が届いたのか、了承の二文字を手に入れる事に成功した。
「分かった。魔導書は難しい文字がいっぱいある。だから文字を教えるのはいい。だけどこちらからも一つ条件がある。」
「条件?」
「そう、条件。」
「俺に出来る条件ならば何でもやるよ!」
「そう言ってくれるのを待っていた。私が出す条件は・・・魔法について・・二人で語り合いたい・・・・というもの。」
「・・・」
クリスはリンゴの様に真っ赤に赤面しては俯きながら照れくさそうに条件を出す。
こういう機会に恵まれなかったからこその反応なのだろう。
そして、言い終えた後は両手で顔を覆い隠して目を塞いだ。
俺が次の言葉を発するのを待っていると同時に、彼女は何処かで俺の答える返答内容に期待を抱いている様子だ。
ちょくちょく両手の指の隙間から僅かにだが目をチラッと覗かせているのが良い証拠だ。
多分だが、俺がYESと答えるのを待っているように思える。
なので俺は「分かった」とだけ言い、彼女の期待に応えるように返答する。
そして俺は彼女の反応を待つ。
だが、待つ必要はなかった。
ずっと魔法について語れる友達がいなかったのか、煌めいた目で俺の事を見てきて「条件承諾。」と彼女は言う。
可愛い・・・
そんなに嬉しかったのか。
分からんが、友達が出来たのは素直に喜ぶべきだよな。
てか何の話しているの。
兎に角条件は承諾した。
だからまずは文字を覚えてじっくり色んな事を覚えて行こう。
まぁ時間は掛かるだろうが今の俺は子供。
子供の学習能力と覚えたいと思う気持ちさえ強くあれば大抵の事は覚えられる。
子供の頃から吸収できるところから吸収しておかないと将来困るからな。
今のうちに文字を覚えてしまおう。
と、そんな感じで俺は魔法を覚える為にクリスにお願いしたところ、文字を教えてもらう事を条件に魔法について一緒に語る仲間となり、魔導への第一歩が始まったのだ。
全てはかっこいい魔法を使ってみたいと言う一つの願望を叶えるために。
補足:クリスの部屋には沢山の魔導書があるが、その数は一万冊を超えるらしい。毎日その部屋で過ごすクリスは魔導書をベット代わりとして睡眠するそうだ。
体痛くならないのかな?
~場所・???~
「宇宙魔法。懐かしいわね。過去に何回も見たことのある魔法だわ。」
「そうですね。もはや人の域を逸脱している魔の力。と言っても過言ではないかと記憶しています。」
「あんな壮大なもの見せられて記憶できない方がどうかしているわよ。一回食らった時は全身を木っ端みじんに吹き飛ばされてしまったのよね。痛かったわ~~」
「・・・・・・・」
「〇〇〇。そんな怖い顔しないで。私はここに居るでしょう。大丈夫よ。」
「はい。」
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