第52話 やっぱりこうなるのね、
「氷で出来てるフロアに水が流れてる・・・一体どこから?」
「地上から流れて来てるんだよ。海水だよ。」
「ふむ、此処は谷の最下層。水が浸入できる通路は沢山ある。大小問わず、」キリッ
「しかしこんな大量の海水、何処へ流れて行くのやら、」
「おおお!良い着眼点だねエマ。その通り、この海水は世界を循環する為の水に戻らねばならないのだ。だからこの流水を追っていけば脱出口を目指せる手掛かりとなると同時に奥地へと進む道標になるんだ。」
「つまり?」
「この流水を追う事になる。だけどその前にちょっとしたアトラクションをクリアしなければ進めない様になっているんだよ。私は余裕だけどね。」
水が流れるフロア。
さっきまでとは違い、底部までしっかりと全てに海水が行き渡り、青々とした海水で囲まれている。
上からは大きい滝が複数個所から水飛沫を上げて激浪を呼んでいた。
小さいモノから大きいモノまで、
海水が勢い良く叩きつけられる音が木霊する。
足場となるのは適当に配置されている氷塊。
間には流れの強い海水の魔の手がある。
少しでも足を着けたら体ごと持って行かれる可能性大。
そして滝から流れて来たモンスターの死骸。
「屍が流れて来た!?モンスターも自然の力には抗えないのか。恐ろしい。」
「モンスターも同じように、我々や動物の様にして生活しているわけだからうっかり足を滑らせたり喧嘩でもして死んでしまった個体が偶然水辺に落ち、流れて来たのだろう。」キリッ
俺も気を付けよ・・・。
遥か前方を見る。
すると海水が流れている中間にはデカい氷塊があり、休むことが出来そうだ。
一先ず俺たち三人はその氷塊へと跳び移る為に軽くアキレス腱を伸ばしたり、運動したりして筋肉を解し、伸ばす。
まずは30個程配置されているであろう氷塊の上に、適切なスピード、適切な跳躍力、適切な自身のタイミングで実行に移すこと、
これが大事だ。
足場は全て氷。
勢い余ってツルッと滑らないように注意する。
「この程度で私が立ち止まるとは思わない事ね、」ピョン
「華麗にジャ☆ン☆プ☆」キリッ
ツララとウィンターは軽々と跳ぶ。
余裕が伺えるスマートな動きだ。
しかし、それに対して俺は跳ぶ前に時間を要した。
結構長い時間だ。
まずは深呼吸をして、ゲホゲホッ!
そうだった、此処は寒い地域だ。
急に酸素なんて吸ったら肺が凍る。
兎に角ジャンプすればいいんだ。
この程度の距離ならば学校の体力テスト、走り幅跳びC評価を貰う程度の飛距離。
大したことはない。
よし行くぞ!
自身に「出来る出来る」と言い聞かせる。
「よっと、」ピョン
俺は飛んだ。
跳躍力は十分。
上手く跳び、空中で足を前へと出して着地の態勢を取る。
そう思えた。
だが、飛んでみると分かる。
このままだとギリ届かない飛距離に落ちる軌道だ。
「あっ、ヤベ。」
激浪である水の流れの中に落ちでもしたら自力で戻るのは相当厳しい。
魔法を放つ隙すらも無いと思う。
俺は思考加速を無意識に発動した。
感覚が早まる。
俺は気付いた。
普通ならばこの程度の飛距離簡単に飛び越えられる。
余裕の距離だ。
だが今回何故こうなっているのか、
それは多分落ちたら後がないぞ、というプレッシャーと此処までに来る過程で拾った氷の魔鉱石が原因だ。
これは明らかな要因。
魔鉱石をリュックに入れた所為で重量が増え、重くなったからこそギリ飛距離が足りなくなったのだ。
僅か約一秒の時間の中、空中で考えた事である。
~時は正常な働きを再開する~
スタッ!
着地すること自体は成功した。
だがしかし、着地した場所は氷塊の端っこである。
俺は身体を逸らせ、両手をグルグルと回転させてバランスを前屈みへと修正しようとする。
「ふんっっっっっっ!」くるくるくるくるくる
「危ないエマ君!」ガシッ
「せいっ!」ガシッ
俺が落ちようとした時、ツララとウィンターが俺の手を掴んで引き戻してくれた。
「大丈夫かBOY。」キリッ
「ありがとうございます。」
「ひやひやしたんだよエマ。もっと先輩から指導が必要みたいだね。」
「はい、」
「そんなデカいリュック背負っていたら当然落ちちゃうよ。ちょっとその中身見せてみてよ。私が選定して必要な物だけ残すから、」
リュックの中身に入っている物が"重い"という理由で持ち物検査に移行する。
要らない物は捨てる。
命に係わる悪い要因はすべて取り除く。
冒険の基本原則であり、自分と周りの仲間の命を守る為の処置である。
俺は受け入れる。
背中に抱えてるリュックを下ろし、ツララとウィンターにリュックを開いて見せる。
二人は中身を見るなり、早速手に取り選別していく。
まさかこんな所で検査が行われるなんて、しかも氷塊の、アトラクションの途中でだ。
「えっと、これは何?」
「それは樹海の時に拾った変わった形をした木材だよ。なんか捨てられなくってさ、」
「」ぽい
「環境汚染!」
「おっと、これは何だいエマ君。」
「それはこの地に来た時に偶然見つけた綺麗な水晶玉だよ。魚が飲み込んでたんだ。多分誤って食べちゃったものだと思うけど、」
「」ぽい
「最低男!」
「これは?」
「初めて討伐したモンスターの骨だよ。記念にね、」
「」ぽい
「コラッ!」
「BOYこれは何だい?」
「綺麗な真珠。」
「」ぽい
「・・・」
このやり取りが30分ほど続き、リュックの重量が軽くなりました。
そして俺の心には鉛が上乗せされたかのように重くなりました。
悲しいです。
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~現在の持ち物~
・マジックバック(許容量アリ。しかし、重さが1tに到達するまで収納できる。)
・干し肉(子供"コウテイ"のお肉)
・水(お湯)
・氷の魔鉱石
・釣竿
・餌
・タモ網
ー--------------ー
「これでさっきみたいに危ない事にはならないね。」
「肝を冷やしたからねエマ君。もうあんな事態にはならないでくれよ。」キリッ
「おぉ、」
憂鬱なテンションで中間地点までの氷塊を跳躍しては飛び越える。
そして辿り着いた。
少しの距離しか進んでいないのに何故か俺の身体は疲れ切っていた。
何故だ?
「エマ大丈夫?顔色悪いけど、」
「全然大丈夫。余裕だね・・・」(震え声)
「お二人さん、ゴールまであと少しだよ。あの氷塊を飛び越えて行ければゴールさ、」
「ゴー・・・ル?ゴール!」
希望の光を目の当たりにした子羊の様に心が晴れる。
しかし目と鼻の先にあるゴール手前に俺は、一気に崖っぷちへと突き落される現実を目にする。
それは先程までとは掛け離れている明らかに難しいアスレチック。
氷塊の面積が少なくなり、幅25cm程度の足場。
人一人分の片足サイズしかない足場がゴールまで続いている。
ジャンプする時に躊躇ったり、勢いを殺して立ち止まると逆に危ない。
すぐ下には白波と漣を立たせた激浪が待ち構えている。
俺は心の奥深くから湧き上がる感情と共に泣き言を内心いう。
「(いやいや、無理だよ!無理無理無理!!一体お前らは俺に何をさせようとしているんだ!?あんな狭い幅の足場を何回も飛び越えなきゃいけないなんて悪戯が過ぎるでしょ。
それも氷の足場を、駄目だよ。死ぬよ。ポックリ逝くよ。
距離も地味にあるし、S〇S〇KEのアスレチックも仰天する命の懸かった最高難易度エキスパートだよ!!
今更引き返すことなんて出来ないし、行けるのか?俺は行けるのか??
落ちたら死ぬ。滑っても死ぬ。
良いか、よく見極めろ。
飛ぶ距離は?跳ぶ角度は?タイミングは?
ミスるな。俺なら行ける。
今まで何やかんや生き残ってきたんだ。行けるんだ!!)」
焦る俺。
長考している間にツララとウィンターの二人は先へ行き、ゴールに到達している。
「がんばれ!」「がんばれ!」と到達地点から応援してくれている。
あいつ等いつの間に行ったの!?
まだ心の準備が、
あの応援が逆に俺の心を焦らせるんだ。
30分後。
もういっそ頭の中で考えている事を振り切り、勢いに任せて跳ぶ事にした。
俺も男だ。
意気地の無い姿を見せられん。
見っとも無い姿は見せられん。
更に自分自身に言い聞かせて跳んだ!
肺の中に空気を溜め込み全身に力を入れる。
そして氷の足場を力強く踏み込み、高く跳躍しては面積が狭い氷塊に片足を乗っけて勢いに任せ、次々とリズミカルに跳んでいく。
「よっ!せっ!はっと。」ピョン
初手→意外に行ける!
中盤→あれ、落ち着け落ち着け!リズムを崩さないようにして跳ぶタイミングを一定に、
終盤→死ぬ死ぬ死ぬ!!!
氷塊はあちこちに点在している。
俺はそこへ向けて足を運ぶ。
氷塊にも高低差があり、波際近くから高くまである。
一定距離で配置されていない為にバランスを崩し、立ち止まることもあった。
終盤になるにつれて個数が無くなって行き、氷塊と氷塊との距離が離れて行く。
難易度が上がって行く。
序盤の奴とは違う。
最早反射神経だけで身体を動かす。
頭は正常に働くが、制御の効かない自身の身体を雀の涙程度の意思だけでコントロールしては微妙な着地調整をする。
手を広げて左右のバランスを取り、息を跳ぶ時と着地する時に合わせて一緒に吐く。
今の俺は最初とは違い順調に跳べていた。
だが、前を見て跳んではいなかった。
落ちない様に、という強い信念のもと足場だけを見ていた。
なのでぐるぐると同じ個所を周回したり、あらぬ方向へと移動したりとわけわかめ。
ゴールから離れて行き、中々安全圏へと辿り着けない出来事もあった。
それに前を見る勇気がなく、余裕はない。
しかしゴールへは辿り着きたい。
なので右往左往する時間がない俺は僅かな勇気を振り絞り、とりあえずチラッとゴールの方へを視線を向け、身体を素早く翻す。
最後の着地場面。
これを成功したらクリアである。
「良いよエマ!後もうちょっと、そこを跳んだらゴールだよ。」
「頑張りたまえエマ君。ファイトだ!」キリッ
喋る余裕がない俺は寡黙になりながらも必死にゴールへ向けて距離を詰める。
後もうちょっと、後もうちょっと、
リズムはもう崩れて関係なくなり、考えて足を動かそうにもその場の勢いで足が勝手に動いている。
止まる事は無い。
しかし、偶然にも進めている。
この流れに乗って俺も二人に続きゴールを決める!
あと一歩だ!!
俺は最後の勇気と筋力を振り絞り、高く跳んだ。
この跳躍力ならば流水に落ちてドボン!する事は無い。
だから無事ゴール出来たと、
アトラクション制覇と、
そう誰もが思った。
だが現実は夢物語ではない。
トラブルと危険は常に付きもの。
モンスターや魔法、能力があるこんな世界だと危険という概念は常に隣り合わせで日常茶飯事だ。
このフロアに流れている大滝。
その中から落ちて来た死体に交じり、生のある一匹の巨大モンスターが俺を海中から狙い定めていた。
荒波に抗い奮闘している。
グルルルルルル!
狙いとタイミングは空中散歩をしている時、
隙を伺い、時を待つ。
そして来た!
無防備。
反撃は出来ない。
反応する事も出来ない。
そして、
ズバン!
俺の真下から海水を押しのけ巨大な口が鉄砲水を上げて姿を現す。
視界に収まりきらない程の図体を持つであろう巨大な口。
鋭い牙が二重に生えており、サメを連想させる作りをしていた。
「嘘ッ!」
「「!?」」
ツララとウィンターは即座に動く!
食べられたら終わり。
口を閉じたら終わり。
助けることは不可能になる。
だからエマを巨大な口が閉じる前に秒で倒す!!
「エマは食べさせない!【玉屑天氷】」
「全く困ったboyだ。【氷丘不砕な金氷】」
二人の氷魔法が炸裂した。
ツララの放った【玉屑天氷】はモンスターの天上に雪雲を作り、絶対零度の瞬間凍結能力でこのフロア全体を凍らせてしまう。
勿論モンスターも一緒にだ。
その隙に俺はゴールへと辿り着く。
そして残ってるは後始末だ。
止めを刺す為にウィンターの【氷丘不砕な金氷】でダイアモンドの様に光り輝いている銀なる氷塊で叩き潰し、止めを刺した。
エグイ程の鈍重な音が鳴り、凍っていたフロアが息を吹き返す。
氷が鏡割りをしたかの様に簡単に割れ、水が流れたのだ。
「あ、ありがとう二人とも。恩に着るのだ。」
「先輩として当然だよエマ。」
「ふふふ、仲間を助けるのは当然ではないかエマ君。はっはっは!」キラン☆
感謝の礼を述べて二人に謝罪する。
そんな俺に対してウィンターは背中を叩き、俺の憫然たる心を励ましてくれる。
のだが、あまりにもしつこく叩いてくるので仕返しに【水弾】を放とうと勢いよく振り向いた。
その時、
「」ツルッ!
横に足を滑らせ、転んだ勢いで氷の上をスライド移動して行く。
そしてドボン!と流水の中にダイブした!?
「うああああああああ!助けっっ、」ごぽごぽごぽ
「「エマ!」」
激浪に流され体を冷やす。
しかし此処で奇跡の展開。
ツララとウィンターの二人が冷静な思考のもと俺を助け出したのだ。
俺は一命を取り留めた。
震え声で重ねてお礼を言う。
二人は呆れた面持ちをしていた。
「ごめんね。俺が悪かった。すみませんこんな厄介ごと引き起こす疫病神を連れて行ってもらって、本当にすみません。ホントなら俺がいなかったらもっとサクサク進めてたはずなのに、もしかしたら到着してたはずなのに、」(震え声)
「エマ、お祖母ちゃんみたいな声になってるよ。」
「死に際に近い声だな。」
距離が近かった為か救い出すことに成功。
だが俺の体温は救われなかった。
全身が水に濡れた。
極度の寒さに襲われることになった。
身体をブルブルと震わせ、体温を急降下で下げて行く。
心配する二人。
火の魔法を使えないツララはいっその事氷魔法で凍結させ、体の機能を停止させようと企む。
ウィンターも同様、火の魔法を使えないので一肌で温めようと考え服を脱ぎ捨てる。
だがツララに光速のぐーパンをプレゼントされ、追い打ちとして氷柱の弾丸を飛ばす氷魔法を使う。
ウィンターは気絶した。
可愛そうに・・・。
こんな状態では"白亜"を取りに行くことは敵わない。
なので今日は断念して次の日にしようと一旦休みを取ることにした。
ツララもお腹が空いた様子だ。
干し肉を食べてお湯を飲む。
俺の体温は自身の炎魔法で回復している。
体温管理の件については他人の助けは借りず、自分一人で解決できる。
迷惑を掛けることはなさそうだ。
「」ハックション!
やっぱりこうなるのね、
とことん上手く行かないな。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
面白かった、続きが読みたいと思った人は評価をお願いします。
これからもよろしくお願いします。




