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第51話 奥へ、

 氷の階段を使って"氷宝の晶景"の最深部へと降りて行く。

 氷霧が大気中を舞い、ちょっとした煙幕状態になっており、視界がぼやける。


 その過程の中で周囲を見渡すと、垂氷(たるひ)が谷の両側面に付着し、且つモンスターの巣穴らしき洞穴、空洞までもがあった。

 ツララが教えてくれた。

 モンスター以外にも住みかの一つとして様々な生物が利用しているそうだ。


「あれが巣穴・・・」


「うん、大きな音を出さない様にしてねエマ。姿こそ見えていないけど中にはぎっしりとモンスター達が蠢き(ひし)めいてるはずだから、」


「ツララの言う通りだ。逆に言えば音を出さない限り襲って気はしない。」キリッ


 ひえ~~、わざわざ敵の真横を通って下層へ降りるだなんて超怖いんだけど。

 微かにだが樹海のモンスター共の禍々しい魔力とは違い、冷たい魔力を感じるような、

 目とか遭ったりしないよね。

 上級モンスターとかいたりするのだろうか?

 こんな巨大な渓谷だぞ。

 いないわけ無い。


「それとエマ。もちろん巣穴というんだからちゃんとほら、あそこに、」


 ツララが巣穴に向かって指をさす。

 俺は両目を細めながら焦点を当てて行き、その存在を確認する。


「あれは・・・卵か、」


「そう、」


 指をさした先にあったものはモンスターの卵だ。

 何のモンスターの卵なのかは知らない。

 だが鶏が産む卵と比較するとその大きさは尋常ではない。

 モンスターには卵を産む個体と産まない個体がいる。

 ユニークモンスターと同じで非常に珍しい個体だ。


 その名も"増殖種"


 通常の一般個体は魔力の塊が原因で自然と生まれる個体ばかりが多いが、あの"増殖種"モンスターは自ら卵を産むことで数を増やす面白個体。

 だからと言って単体の強さはそこまで無い。

 直ぐ倒せる雑魚敵だ。

 どちらかというと集団リンチで相手を圧倒するタイプの厄介系であり、いつまでも放って置くと順調に数を増やし、時間を掛ければ掛ける程倒すのが面倒になる嫌な系統種。


 そんな"増殖種"が産んだデカい卵を素通りして下層へと足を着ける。

 下へ降りると氷の結晶が辺りを支配していた。

 歩く度にバキバキと結晶が砕け散る心地よいSEが鳴る。


 バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ

 バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ


「癖になるな~この音。」バキバキ


「ふふ~ん!えい、えい!」バキバキ


「実に微笑ましい光景だ。そしてそれを見ている僕はとても心が和む。あぁ~神様。この光景を目に焼き付けられたことに深く感謝を、」


「何気持ち悪く見てんのよウィンター。殺すわよ。」バキバキ


「・・・ふっ、」


 相変わらず仲が良いのか悪いのか、両者視線を交差しては会話をする。

 ツララは今でも結晶を砕いている最中に、


 バキバキバキバキバキバキ


 その頃俺は天を見上げていた。

 俺達が元々いた地上へ視線を配っているのだ。

 そして頭では理解できない様なぽっかりと穴が開いたような喪失感に駆られ、感想を心の中で漏らす。


 さっきまでいた場所がもう氷霧で覆い隠されて見えないや。

 モンスターの巣穴も見えなくなっちゃって、ホントにあっという間だったな。

 何だか実感が湧かない内に目的地へ到着しちゃったんだからそれもそうか、


 一通り思う事を解消した次は、そこら辺に出来ている自然の結晶に手を触れて調べてみる。

 すると、ホントに幻想的な芸術(アート)が氷という素材だけで出来上がっていた。

 手に触れるだけで分かる。

 弯曲(わんきょく)を描き、深海の様に深い色したブルーな氷。

 透明感のある氷。

 それぞれの氷が魔力を内包していて静かなパワーを感じる。


「ほえ~、こんなに頑丈そうな氷なのにちょっと衝撃を加えるだけでガラスの様に砕けていく氷があるな。その逆も、」


「それは"脆い氷塊(フリーズン)"だね。魔力を沢山内包している代わりに耐久度が極限まで少なく、脆くなっている氷の塊だよ。」


「へぇ~、」


「エマ、ウィンター、ほら行くよ!」


 ツララが急かす。

 目的地までの道順は此処の常連と化しているツララの頭の中に全て入っている。

 なので迷う事は無い。

 "白亜"はこの"氷宝の晶景"の奥深くにある。

 それはつまり穴に入り、最奥へと突き進むことに他ならない。

 だが心配はいらない。

 頼もしい味方が二人いるのだから、


「「やれやれ、」」


 この時、お互いシンパシーを感じさせた。

 子供の相手をしているお父さんの気持ちに浸りながらも同じ感想を口にしたからだ。

 最初の時は「何だコイツ」と思っていた俺だが、初めて以心伝心してツララの相手をする気持ちを共有できたかもしれいない。


 コイツ良い奴だな。

 今さだけど、


 俺たち三人は慎重に行く。

 渓谷の最下層、その中にある洞窟らしき入口へと入る。


 "氷宝の晶景"の中はまさしく天然の宝庫である。

 冷たい空気が纏う暗闇空間の中、ブルーダイアモンド色に放つ氷の結晶達が(むらが)り、集積物を成していた。

 その中でウィンターが足を止め、俺に言ってくる。


「氷の魔石があるよ。」


 ツララは先を急ぎたそうにしているが、少しの距離を引き返してペタペタとペンギンの様に可愛らしく歩いて戻って来る。

 そして、俺にこの地の魔石について解説してくれた。


 だがその前にツララは前口上を述べた。

 非常に興味の持てる内容だった。


 内容はこうだ。


 世界の中心部。

 大地の中には地脈・龍脈と呼ばれる星を生かす為の人間でいう血液に該当する莫大なエネルギーが絶え間なく流れ続けている部分がある。

 そして、その地脈・龍脈の中に流れているエネルギーを吸い取る生物がいた。


 それは植物。


 植物たちは自分達の生命を維持しつつ、根から吸収したエネルギーを人間が吐く二酸化炭素の要領で緑葉から放出する。

 それにより、植物を仲介して加工されたエネルギーは魔力として空気中に漂い、この世界を魔力で溢れさせた。

 そして、全ての生き物がこの世に生を受けたならば、例え無機物だろうが何だろうが魔力を持って生まれるようになった。


 魔法を使い続け、魔力が枯渇した時何故自然回復するのか?

 それは植物がこの世界に現存しているからだ、


 そして本題。

 この"グレイスダイアモンド"は最北に位置し、且つ地脈・龍脈の中を流れるエネルギーからの距離感が近い。

 なので最北、それも地中に潜った所には魔力が溜まりやすく、伝わりやすい。

 魔鉱石が辺りを埋め尽くす程にあるのはその為であり、魔物やこんな神秘的な姿が作られたのもそれが原因だ。


 ツララが話した内容をまとめるとこんな感じ。

 一気に俺の中の世界観が広くなったような気がする。

 これでまたこの世界の知識を覚えられた。

 人間は成長するのだ。


 ツララは解説しながら実際に氷を持って俺へと捧げて来る。

 持ってみる。

 すると凝縮した濃厚な魔力が伝わってくるのを地肌で感じることが出来た。

 血管を伝い、筋肉が反応し、体の隅々まで魔力が伝わる。


「この濃い魔力反応。確かにツララの言っていた事は真実なんだな。」


「私はホントの事しか言わないからね。どうよ、」えっへん!


 両手を腰に当てながら胸を張り、可愛らしく自慢しては鼻息を漏らす。

 自身の持っている知識を披露した事で得意げになっている。

 可愛い!!


「ねぇねぇツララさんや、」


「なに?」


「この氷の魔石、持って帰ってもいいかな?」


「全然OK!」


 有難いことにOKサインが出た。

 一秒の思考時間もいらない即決即断な回答。


 流石ツララさんだ!

 俺の気持ちを分かってくれたみたい。


 リュックの中に大事そうに入れる。


「ツララ、念を押すように言うけど気持ちが先行して先走らない様に頭に覚えさせておきたまえよ。」キリッ


「分かってるわよ。」


 ウィンターの発言にツララが答える。


「ここって、"武者氷鬼"は出現するんですかね?」


「奴が"氷宝の晶景"の中に出現するという情報はまだ掴めていない。だが奴の行動範囲に制限自体は掛かっていない。もしもの時は覚悟を決めるしかないかな。」キリッ


 段々と募る不安要素。

 "武者氷鬼"の登場。

 俺はこの中に出現した時の事を考える。


 もしこんな所で鉢合わせでもしたら奴の氷魔法を回避する十分なスペースが無いじゃないか、

 でもだからと言ってこんな所で派手な炎攻撃をしたら周りの氷が解けて崩れかねん。

 それでも本末転倒。

 それに奴の近接攻撃に対抗できる人材がいない以上祈るしか出来ないが、如何せん不安症であるからな、

 考える事しか出来ん。


 今度は魔法じゃなくて能力の方を行使して対抗するという手段がある。

 炎や雷が完封されるのなら凍結することが出来ない攻撃で奴にダメージを与えればいい。

 しかし何度も言うようだけど能力の行使には魔力の消費が著しく激減する。

 消耗が激しいのだ。

 そして俺の能力は隙が大きい。


 だからそれをカバーするくらいの立ち回りと戦略があれば勝つこと自体は出来ずとも逃げれる突破口を作れるかもしれない。

 逃げ腰なのは分かっているが、奴の強さを実際にちょびっとだけ体験した感じだとこの位の精神がちょうどいいんじゃないのかと思ったりする。

 いずれにせよ、こんな場所で"武者氷鬼"と戦いたくない。

 "武者氷鬼"の出番が今後ないよう神に祈ろう。


 そうしている内に更に奥へ進んで行くと開けた場所へと辿り着いた。

 さっきまでの雰囲気とは一味も二味も違う美しい場所だ。


 氷の柱が天地を繋ぎ、上を見ると沢山の氷柱が恒河沙数(ごうがしゃすう)張り付いていた。

 俺達が今立っている場所。

 それは氷の鏡。

 繋いでいる柱、氷柱が映し出されクリアに反射している。

 神々しい。


「まさか渓谷にこんな美しい場所があるなんて、」


「でも気を付けてねエマ。私此処に何回か来たことあるけど毎回モンスターが居るんだよね。結構な数、」


「え?じゃあその時はどうしたのさ?」


「無論玉砕覚悟の猪突猛進。」


 駄目だこのペンタロー。

 早く何とかしないと。


 そして暫く進んで行くとツララの言う通りモンスターが居た。

 しかし眠っている。


「場が広いから寝るには最適なんだよね。でも道を塞ぐようにして寝ないで欲しいんだよね。通行人に迷惑でしょ。」


「ツララよ、そもそも此処に通行人が来ること自体稀だぞ。というか予想外の来客だ。」キリッ


 俺達は戦闘をなるべく回避しつつ奥へと進みたいので、隠密での行動を実行。

 ツララの玉砕覚悟の猪突猛進作戦は即断却下だ。

 命が幾つあっても足りない。

 無駄に犬死してかっこ悪く魂を冥府へ送ることになる。

 それだけは駄目だ。

 どうせ死ぬならちゃんとした抵抗、ちゃんとした戦闘で貢献して、かっこよく死にたい。

 まぁ、そんな覚悟無いけど。

 もしあったならばいちいち"武者氷鬼"にビビる事は無かった。


 ウィンターが音を消す魔法【サイレント】を使う。

 足音や声が無音になった。

 この状態ならば音は消せるが、便利な魔法ではない。

 互いのコミュニケーションが封じられるデメリットがある。

 なのでジェスチャーで指示をして潜り抜けることになる。


「」スッ


 早速ウィンターが手で指示をした。


「「」」コクッ


 俺達二人は反応する。

 そして的確に間を掻い潜る。

 迫力満点のモンスターの横側を通る。

 牙が剥き出しで、モンスターの鼾が怒号の様なドスの利いた音で空気を震わせる。


 親父の鼾を思い出すな。

 不快力全快なんだけど、

 うるせぇよ。


 "白亜"が生息する泉までの距離はまだまだ長くて道のりが遠い。

 危ない場面や就寝中のモンスターが起きてしまう様な大胆なアクション、肝を冷やすハプニングの数々を取ってしまったりもしたのだが、何とか危なげにギリギリクリアすることが出来た。

 鳥肌が立つ。

 俺のピュアな心に突き刺さる畏怖たる感情。

 それが恐怖心を煽ってくるのだ。

 怖じ恐れすぎて寿命が縮まる思いだ。


 こんなギリギリな展開なんぞ今後から無くていい。

 いや、マジで!!


 そして次に俺達が辿り着いた先にあったもの、それは水が流れているフロアだった。


ここまで読んでくれてありがとうございます。

面白かった、続きが読みたいと思った人は評価をお願いします。


これからもよろしくお願いします。

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