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第50話 "氷宝の晶景"

 "武者氷鬼"

 夏の訪れと共に姿を現す鬼の武者。

 見境なく刃を向け攻撃して来る殺人鬼。

 現れる理由は謎に包まれているが、何故か姿を見せる。


 戦った結果、弱点らしい弱点は見当たらなかった。

 炎などの明らかに効果抜群であろう属性は、"武者氷鬼"の魔氷で凍結され無効化された。

 いや、防がれた。

 弱点が見当たらなかったのではなく、克服している表現の方が正しい。


 これらの要素を踏また上で俺とツララは対策と今後の方針を講じた。

 だがどれだけ時間を重ねても"武者氷鬼"に対する有効な対策手段が見つからず、トラップで落とし穴を家の周辺に作る等の小さい抵抗くらいのものしか考え付かなかった。


 実際に戦った俺の意見を参考に考え、その結果がこれなのだ。

 炎や雷が効かないなら氷の身体を持つ"武者氷鬼"に対抗できる術がなく、嫌がらせ程度の対策しか思いつかない。

 今後の方針についても同様である。

 特に凝った内容でない。

 引き続き外出する時は細心の注意を払う、見かけたら即逃げの一手、これら二つの案を大切に守る。

 これだけだ。

 これだけしか講じられなかった。


 奴が危険であることはこの地に住んでいる冷耐人間(フロストヒューマン)、魔物、環境動物も知っている周知の事実。

 俺も数時間前に知った。

 しかし無理である。

 強いのは理解しているが、だからこそ対策の仕方が平凡なモノばかりで"武者氷鬼"を対策するのは不可能だと、被害を最小限にする事くらいしか判断できなかった。


 定義を出し、議論しても二人ではここらが限界。

 精一杯であった。


 そして夜を越し、朝になる。

 早朝5時と早起きだ。

 外はホワイトアウト。

 俺は今、ツララと一緒に外出をしている最中だ。

 前が見えない雪景色の中でリュックを担ぎ歩いてる。

 昨日あれだけ外は危険だという事を承知している次の日に外だ。


 危機感が足りないんじゃない?と思うかもしれないが、これには訳がある。

 海よりも深い訳が・・・あるはずもないのだが、ツララの一番楽しみにしているイベントの様なものらしい。

 では何故、"武者氷鬼"対策からこのような事になっているのかと言うと、それは昨日の晩に戻る。

 ちょうど"武者氷鬼"の案をすべて出し付くし、シーンと場が静寂に包まれている時の事だ。





 ー-----------------





「う~~~ん、もう思いつかない。」


「"武者氷鬼"がそんな力を有していたとは私も驚いてるんだよ。氷の弱点属性を凍結させる力。これじゃどうやって対抗すればいいのか・・・今まで通り逃げる事しか出来ないよ~、」


「第一にしてトラップなんて絶対掛かる訳無いし注意を払っても逃げるだけ、隠れてやり過ごすだけ。奴に対して対抗できる有効なものは・・・(俺の能力くらいか、)」


 シー------------ン


「・・・」


「・・・」


 静かだ~、とんでもなく静かだ。

 俺は二人っきりの状態の時にこうやってダンマリするのが一番苦手な空気なんだよ。

 話を切り出そうにも話題を提供しなくてはな、

 こんなこと考えるのはクリスの時以来だな。


 ・・・しりとりでもするか?


 いやいやいや待て待て待て!

 しりとりは会話が出来なくなった時に移行する最終的な手段であり、コミュニケーションの墓場。

 "武者氷鬼"の事は一先ず区切りがつき、ご飯も食べ、何を切り出すか。


 沈黙の虚空の中、20畳ある室内スペースの中で声が響き渡る様にして、ツララが思い出したかのように突如として反応を示した。


「あっ!!」


「」ビクッ


「思い出した。エマエマ、明日はいきなりだけど外へ行こうよ!絶対に逃しちゃいけない獲物がいるんだ!」


「え?どうしたの急に?外には今"武者氷鬼"がいて注意を払う方向に決めたんだけど。なるべく外出しないように話し合ったのはつい数十分前なんだけど。呑気に獲物の事なんて考えられないよ。」


「でもでも私は絶対に行かなきゃいけないの!エマも興味湧くと思う内容だよ。」


「一体どんな内容なの?」


 ツララは答える。


「それはね夏の上旬。この時にしか取れない超珍味で舌がとろける程の美味しさを持つ絶品魚"白亜"!

 その魚が"氷宝の晶景"という谷の中のまたその小さな泉の中に生息しているんだけど~、それを捕獲したい!そして食べたいの!

 今まで何度も挑戦しては失敗しての繰り返し。

 だ・か・ら!今度こそ捕まえて私の胃袋の中に入れるんだよ!」


「すごい気合入ってるけど"武者氷鬼"が現れたらどうするの?」


「それは心配ないの。ちょうどいい壁がいるのよ。」


「壁?」


 そして現在の時間軸に戻る。




 ー------------




「やぁ今日も一段と寒いねエマ君。ま、冷耐人間(フロストヒューマン)の耐性があるから人間の君よりは寒くないけど☆」キリッ


 ウィンターはこんなホワイトアウト中の今でも元気溌溂(はつらつ)と喋る。


「あまり余計なカロリーは使いたくないので少し寡黙になってもらいたいのですが、」


「そうだね、この大地の苛酷さを知っているからこそ僕の為に体力を使わせるわけにはいかない。そしてツララ。」キラッ


「・・・」


「おいおい無視は良くないじゃないの。」キリッ


「・・・反応するのも面倒くさいから私たち二人を護衛して、」


「ふっ、相変わらず僕には素っ気ない態度だね。安心するよツララ。」


 白い世界。

 周りの地形や景色が見えない白濁の凍える凍土の中、俺たち三人はウィンターをこの場の盛り上げ役として、護衛として"氷宝の晶景"を進み歩いて行く。


 ここまでの流れで何故ウィンターが居るのかというと、もうお分かりだろう。

 ツララの言う丁度いい壁とはウィンターの事だ。

 いざとなったら"武者氷鬼"にウィンターを差し出し逃げるんだと。


 完全に肉壁である。


「あんな変態でも実力はあるし役に立つ」というのがツララの連れてきた考えらしい。

 そんなツララは気分良好。

 ウィンターのお陰で場の空気は安定してウザいが、会話の無いピクニックは悲しい。

 なので今は若干心の中で感謝していたりもする。


 今向かっている目的地。

 "氷宝の晶景"とはどういった場所なのか、俺は聞きたくなったのでツララに聞いてみる。

 昨日は睡魔がきてそのまま寝てしまい、聞きそびれていた。

 ツララは答えてくれる。


 "氷宝の晶景"

 それは氷の結晶がこびり付き、瑞々しくも青々と輝いている神秘の場所の一つ。

 夜になっても暗闇になっても灯りはいらず、氷の輝きだけで辺りを仄かに照らす昏々(こんこん)とした渓谷。


 ついでに"白亜"についても教えてくれた。

 "白亜"とは"氷宝の晶景"の奥深くの泉で泳ぐ発光の魚。

 魔力には敏感に反応し、逃げる。

 しかし、そんな"白亜"は超珍味と言われるだけあって一口頬張ったら身体が若返る様な感覚、そして追加効果で五感が研ぎ澄ませれるキラキラとした気分になるらしい。


 その美味さは"グレイスダイアモンド"の中でも一番美味な魚!!

 これは間違いないと断言できる!


 その為には"氷宝の晶景"に行く必要があるのだが、一週間掛かる場所にあるらしい。

 ツララは年中行っているらしいが、全て爆死。

 当たり年は一回も無かった。

 なので今度こそ捕まえる所存だ。


 そんなこんなで目的地を目指して一週間が経過した。

 途中で氷の巨人やこの地に住む魔物があらぬ方向、以外な生態を見せつけ俺達の前に現れてくれたが、全て返り討ちにしてやった。


 まさか口から魔物を吐き出し攻撃させるとは、あのモンスターはピッ〇ロと呼ぼう。

 比喩ではない。

 軽蔑もしていない。

 只々凄かった。それに尽きる生態を持つモンスター"氷怪"。

 面白いと同時に気持ち悪かったが【炎帝奔龍】で溶かしてやったわ!

 ハハハハハハハ!


「ところでエマはさぁ、」


 ツララがウィンターを間に挟み、俺に話しかけ来た。


「外の世界もこんな風に冒険とかするの?」


「俺は予期してなかった展開で冒険が始まったから良く分からないけど、冒険者ギルドで依頼を毎日せっせとこなしている冒険者の方々や吟遊詩人(ぎんゆうしじん)、商業者なんかはそうなんじゃないの。

 俺もあまりこの世界の事について知らない事だらけだからこんな曖昧な事しか言えないけど、」


「それでも羨ましい。私は無理だから。」


「種族的な奴で?」


「そう、前にも言ったよね。冷耐人間(フロストヒューマン)だから外へはKy、」


 ツララが最後まで訳を話そうとした時、

 機会を狙った発言なのか、ウィンターが一声「二人とも着いたよ。」と言ってきた。

 言葉を遮る。


 俺達二人の注意はウィンターが指で指し示した方角へと視線を配り、ホワイトアウトを抜けた先に辿り着いた一つの壮観的憧憬。


「ここが"氷宝の晶景"だ。エマ君。」キリッ


「ここが、」


 それは圧巻の光景。

 鴻大(こうだい)で毒気に当てられ思わず凍り付く自然のミステリー。

 一刀両断に断裂された凍土の大地は縹緲(ひょうびょう)たるパラノマ。

 周りには立花(りっか)の花が満開に咲き誇り、美しく開花している花畑。


 そう此処が、此処こそがツララの言っていた目的地、"氷宝の晶景"。

 何千、何万、何億年と人為的な要素を一切合切加えず悠久の時を得て自然の力のみで作られた氷の宝が眠る自然の宝庫。


「呆気に取られるよね。私もそうだったよエマ。」


「あぁ!凄いよ!これは・・・その、なんか凄い!」


「エマ君は始めて見るから言葉が出ないのも無理はない。でもこんな序盤でそんなに驚いていたらこの先もっと度肝抜かれる事になるよ。

 ここは"氷の宝"と呼ばれるくらいだからね。

 それはそれは美しい要素がいっぱいあるよ。」


「何かワクワクしてきた。最初はいつものノリで只狩りに出かけるぐらいに思ってたけどこの景色見てたら俄然(がぜん)やる気出て来たよ。」


「でも注意してねエマ。この渓谷にもちゃんと魔物は潜んでいるの。だから周りに視線を奪われていると死んじゃうよ。」


 人差し指を立てて片頬をぷくっと膨らませ、注意を促してきた。

 可愛い!!


 そしてウィンターも同様だ。

 簡潔に注意事項を伝える。


「この地で生き抜く為にはまず守らなければならない狩猟民族らしいルールが五つあるんだ。ちゃんと覚えて欲しい。」


「ルール?」


「そうルールだ。

 まず一つ目は無暗に戦闘をしない。

 二つ目はなるべく音を立てない。

 三つ目は我慢をしないこと。

 四つ目は単独行動をしないこと。

 そして最後は仲間と協力することだ。」


 ツララが喋る。


「この五つのルールを守らなければ命が幾つあっても足りないんだよ。」


「一人で"氷宝の晶景"へ潜ってた狂人の言う事じゃないかな。」


「えっ、ツララちゃん今まで単独行動で協力もしないまま今まで行ってたの!?」


「美味しい食材あるところに私アリ!なんだよ。」


「何故か説得力のあるセリフだが、とにかくルールを守ってマルチプレイをすればいいのか・・・。分かった。行こう、」


 俺はツララとウィンターの顔を交互に一瞥しては了解の有無を表情で分からせる。

 それからコクリと頷き、"氷宝の晶景"へと向かう為にウィンターが氷の階段を安全なルートで作り、俺達を先導していく。


 いざ、"氷宝の晶景"へ!!



ここまで読んでくれてありがとうございます。

面白かった、続きが読みたいと思った人は評価をお願いします。


これからもよろしくお願いします。

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