第46話 狩りと食事の時間
記念すべき"グレイスダイアモンド"生活一日目は狩りの時間だ。
散々と"エルフの樹海"で聞いた言葉だが、何やかんや言って狩りは"ガムト"しか経験がない。
エルフの里に居た時は無駄な殺生をしない様にとルールが課せられていた。
ベジタリアンということもあり、野菜は好むが肉は好まない。
故に、エルフは動物を一匹も狩らなかった。
モンスターだけだ。
だから狩りの経験はほんの少しの時の中でしか経験がない。
せめて弓矢で兎の一羽や二羽くらい仕留めたかった。
そんなこんなでツララは、狩りの仕方を俺に伝授させようと白銀の世界に足を踏み入れる。
そして現場に向かう。
厚着をしていても感じる程に伝わってくる寒風。
雪を巻き上げ、吹かせて来る。
寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い!!
何だこの寒さは!!
予想外過ぎる寒さ。
いや分かってたけどさ、ツララちゃんの話を聞いて分かってたけどさ、寒すぎだろ!!
※マイナス50度です。
唇が青紫色に変色する程に寒冷である大地。
それでもツララは俺の事なんぞ気にせず、釣竿を肩に二本担ぎ、可愛らしくペンギン歩きでよちよちと小刻みに進んで行く。
寒さに耐えながらも大きく積もった雪の山を越え、氷塊を渡る。
向かい側から降ってくる雪の粒を片手で盾の様に防ぎながら、前傾姿勢で足を踏みしめて行く。
一時間後・・・
「着いたよエマ!これが狩場さ、」
「こ、これは・・・ペンギン!?」
その先に歩を進めた結果あった光景は、大自然の一部とでもいうべき景色なのか?
同じ個体がイワシの様に一塊になって動き、上から俯瞰した光景だと黒い群が一つの生物の様に蠢いていた。
まるで生きているかの様に動いてる。
しかしながらモンスター大行進の時とは違い、神秘的で美しい光景であった。
「変わった鳴き声だな。」
「特徴的だよね~。私も同感。」
キュルルルルルルル~、とビブラートが掛かった奇抜な鳴き声を喉から発し、コミュニケーションを取っているみたいだ。
「・・・」
新鮮な生態系を見た俺の黙りこくる反応を見てツララは、軽く説明してくれた。
「エマ、あれは"コウテイ"って言うんだよ。北の大地で一番個体数が多いチキンなのよ。
そ・れ・で、"コウテイ"が屯して周期的に移動するルートでもあるのよ。毎週一年越しに此処へ現われては春時に生まれた命に餌を与える為に活動している。
この群は外敵から子を守る為の対策なんだよ。威嚇って言うの?」
「へぇ~、詳しんだねツララちゃん。」
「まぁね!!」
鼻息を荒く吐きながらどっしりと自信満々に胸を張って答える。
被り物であるペンギンもどこか嬉しそうな表情をしている。
ニマニマ笑顔が止まらない。
「よし、なら早速狩ろう!俺こう見えても強い魔法は使えるからさ、役立つと思うんだよね。」
そう言って、俺は範囲が広い魔法を使う為に魔力を込め始める。
だが俺の行動は激しく阻害された。
「ちがああああああああああああああう!!!」
お腹にツララのペンギンタックルが突っ込んで来た!!
当たり所が悪かったらしく丁度みぞおちだ。
み、みぞだよそこは・・・・。
息が、、、、苦しいよ。
両手を腹に添え、蹲って鈍痛を我慢する。
相当痛い。呼吸がしずらい。
「そんな魔法使ったら一斉に大パニックを起こしちゃうよ!それに余分な命を失わせる結果になる。
狩りの基本原則の一つは自分が食べる分だけ命を頂戴するの。
狩れればいいってもんじゃないよ。」
「おk、だからもうタックルしないで・・・。お願いします・・・」
今もプルプルしながら苦しそうに声を出して耐えている。
いやホントに苦しいのよこれ。
呼吸が上手く出来ないし、立ち上がる事も出来ない。
やってくれたなツララ!!!
「エマ、"コウテイ"を狩る時は大人個体じゃなくて子供の個体を狙うの。」
「残酷。」
「いつだって現実は非常なのよ。生き延びる為には仕方のない行為。それに"コウテイ"って美味しいのよ!特に子供は滅茶苦茶うまい!!エマも食べて見ればわかるって!!殺るぞおおおお!」
「ナチュラルサイコパスのペンタローが、」
ピョンピョン飛び跳ね、身体全体でその美味しさを表すツララ。
過去に何度か食べたことあるようで、その美味しさと言ったらこの大陸で随一からも知れないと豪語したそうだ。
子供が美味いという不吉ワードを笑顔で言っていたが、俺以外の人が聞いたら顔面蒼白になって絶句するだろうな。
ナチュラルにサイコパス発言してたもん。
怖い怖い。
因みに、何故子供の個体が美味しいのかというと、この寒さに耐えうるだけの構造が出来上がっていないからだ。
だからこそ肉が柔らかくて食べ頃。
冷帯人間や魔物、肉食動物が狙ってくる。
逆に大人個体はこの寒さに耐えうる強い肉体を作るために外皮やら肉が硬度になっており、少しでも体温を保つため、耐寒冷構造になって行く。
だからこそ肉は固く、味はしない。
それを踏まえた上で俺は、涎をジュルリと垂らした。
考えて見れば今までだってスープやらカチカチのパン。野菜やサラダ、果物、メインとなる食材が無かった。
しかし俺は此処でようやく"肉"が食べれることに歓喜した!
震え上がった!!
期待に胸を膨らませ、今の俺の心の色は情熱の赤である!
燃えるぞ。
この狩り、燃える展開だぞ!!!
そうしている間に"コウテイ"達は足場の不安定な道を通っており、周りには巨大で凸凹な岩場がある。
俺達二人の現状は、今その高場の岩場で見下ろし観察中。
"コウテイ"を見張る感じでスタンバイしている。
「なるべく群れから離れた個体を狙いたいかな。エマはそこで私の玄人な動きを篤とご覧になれ~~、」
「あぁ!期待してるぞ!!」
拳をツララに見せつける様にして応援する。
隙あらばツララは良いタイミングを見つけ出し、群に近づいては自然な形で紛れ込む。
ペンギンの被り物をしているから冷耐人間だとバレることはない。
"コウテイ"の皮を使って作り、模倣した被り物だ。
俺は岩場から引き続き見守る。
1時間後・・・
時間は掛かったが集合体がバラけて来た。
上から俯瞰した時の生物の蠢く姿が崩れていく。
能力値に差がある個体が自然と前後に間引きされ、分かりやすく分断してきたのだ。
「これは狙い目だ」そう思ったツララは、ある一つのグループに目を付けた。
それは小さい一匹の子供ペンギンとその周りにいる三匹の取り巻きたち、
ツララは空気に紛れる様にして背後へ回り、同じ移動速度、歩幅で歩き、隙を伺う。
「おおお、行けるぞ!・・・でも心なしか何だか心が痛むような・・・家族かもしれない。」
あれ?ちょっと待ってツララさん。
もしかして・・・殺るの?
狩りというのは狙いを着けられたら終わりである。
必死に逃げて抵抗しなきゃ死ぬのである。
即ち・・・
「(今だ!!)」サッ
ツララは取り巻き達を懐にしまっていた睡眠爆弾で眠らせ、子供だけを誘拐しては安全な所まで持って行く。
そして苦しませない様に背後から心臓を一突き。
素早く殺めた。
氷の魔法で氷柱を作り、刺したのだ。
ここまで見てると、やっていることは完全に犯罪者のそれである。
一突きされた子供の個体は力なくダラーンと垂れ下がり、生気を失った。
ツララはそんな個体を自慢の氷魔法で冷凍保存し、鮮度を保たせる。
「どうだった?私の編み出した北の狩り戦法は、」はぁはぁ
ツララは子供"コウテイ"を大事そうに抱えながらダッシュで戻って来た。
「罪悪感が・・・ね?」
「仕方ない事なのよエマ。」
「そうか、で、もしかして俺もやればいいのか?」
「いやいや、エマは着ぐるみを着てないから別の方法で行こう。"コウテイ"を甘く見ていると痛い目に合うから。」
「ペンギンだよ?奴らが一体何をしてくるというのか?」
「視線の集中砲火を受けて四方から襲ってくる。私が知ってる限りでは肉食動物を一分も経たない内に血祭りに上げてたよ。狩る側が狩られる側に一瞬の内に立場逆転してたよ。あれは恐ろしかったね。」
「何それ怖っ!」
その後も"コウテイ"の内なる生態を知り、恐怖して戦慄した。
聞かなかったことにしたいが、脳内で繰り返しリピートされてしまう。
聞きたくなかった事実ほど脳内に残るものだ。
そんな俺は委縮気味にツララの言うポイントへ連れていかれる。
話によると、俺とツララが初めて会った場所らしい。
それは直径60mの大きさがある穴場で、絶好の魚釣りポイント。
本来は昨日釣るはずだったが、俺の登場により断念した。
しかし、今日は俺を含めての釣りという事で、何故かツララが先輩風吹かして高い声で話しかけてきた。
「エマって釣はしたことあるの?」
「いや、無いけど。」
前世を含めても釣なんてしたことがない。
動画とかテレビで見たことはあるが、実際難しいのかな?
「それならこの釣り名人ことツララさんに任せて!"コウテイ"狩りより魚を釣る経験の方が豊富だし、色々とアドバイス出来るから大船に乗ったつもりで期待してよ。大物を釣り上げて御覧に入れましょう~~」
「おおおおおお!」
釣の経験が全く無い俺は、ツララの発言を鵜呑みにして期待する。
さぞ大きな個体が釣れるんだろうなと、
自信過剰な発言をその場に残し、早速針に餌を着け、釣り糸を投げ入れて釣りをする。
此処からは待ちの時間だ。
獲物が間抜けにも近づいて来ては竿を引っ張って来るのを待つ時間。
俺も釣りをするため、同じ手順をこなした上で投げ入れた。
そして反応が来る!
ツララの方だ。
力強いいい引きだ!
「おおおおおお!来たぞツララちゃん!」
「任せて!狙った獲物は逃がしたことの無い私の力を見せつけてやる!!」
腕を力いっぱいに引いては獲物を引き寄せる。
段々と引っ張る度に海面にその姿を見せつけて来る。
「後もうちょっとだ!」
「おらあああああ!」
ザバン!!!
「「釣れた!!!」」
結果・・・海藻。
「ツララちゃん?どゆこと?」
「・・・・・・・・・・」
ツララは目を点にして黙秘権を行使したまま釣り糸を投げ入れ再度チャレンジ。
俺も経験豊富らしいツララちゃんにアドバイスを何個か貰い、ヒットはしたものの結局全てに逃げられてしまった。
二人とも坊主だ。
期待をし、右肩上がりだった俺の好感度メーターがガクッと下がって言葉に詰まる。
だがツララはこのシーンとした空気に耐えられなかったらしく、
「今日は偶々取れなかったみたいだね。さぁ帰ろう。"冬嵐"が来る前に、」キリッ!
行動とは裏腹に、見事なまでの手のひら返しをして希望的観測で前を見る。
「流すな!!」
両者、最終結果発表!
釣れた数、二人合わせて0匹。
何とも言えない沈黙空気を維持したまま今回はこの辺りでお暇し、また次回リベンジしに来ようと二人は固く誓った。
そして夜になり、ツララの言う通り"冬嵐"になった。
"冬嵐"とは、異常な魔素の塊が乱れに乱れて大寒波と共に流れて来る現象そのものである。
この地に不思議と乱れる魔力の流れが渦を巻くようにして働き、その所為で魔素が異常な程に遺伝子レベルで結合を繰り返しては元々の寒い気候を大躍進させている。
朝、昼、夜問わず、渦の薄い部分と濃い部分が交互に来るようにして来る。
そんな現在"冬嵐"が来ている真っ最中、俺とツララは家の中で楽しく夜食の準備をしていた。
レッツクッキングタイム!!
~食材~
・"コウテイ"の肉(子供)
・甲殻類、コイガニの味噌
・アロハスハ(雪山の中に生えてある寒さに強い野菜。)
・カロン(レンコンの様に食感が良い野菜。)
・マール(貝、沢山ある。)
・カンカエビ
「久々のお肉!」
「久々なの?」
「あぁ!それはモチのロン!樹海に居た時は野菜か果物。たんぱく質が取れず、歯ごたえが全部シャキシャキ音の瑞々しい食事をしていたわけですよ。」
「なら私が挽回の念も込めて美味しい食事をクッキングしちゃいますよ!」
「よろしくお願いしますツララさん!!」
~♪~
ツララは囲炉裏の中心部分に薪をくべ、金網を張り、火をつける。
その上に水を入れたデカい鍋を置き、沸点に行く前に早速"コウテイ"のお肉様を投入する。
じっくり熱を通す為だ。
そして、その中に"コイガニ"と呼ばれるカニの味噌を入れて濃い目の味付けをする。
更にマールと呼ばれる白い色をした貝を入れて出汁を取ると共に旨味を上げる。
貝を入れた後は蓋を被せて待つ。
蓋越しでも分かる程に芳しい匂いが部屋の中に充満する。
収まる事を知らない立ち上る旨味を含んだ湯気は俺たち二人の食欲を掻き立てる。
「良い匂いだ~」
「当然だよ。私が取ってきた食材たちだもん。感謝して食べてよね。」
「当然さ!」
沸点に到達してもコツコツと煮て、10分程が経過した。
蓋をオープンする。
「「な~~~~~!」」
モクモクと迫る湯気が俺とツララの顔面に直撃し、空腹感を煽る。
だがまだ完成ではない。
ツララは更に用意していた"アロンアスハ"、"カロン"、"カンカエビ"を加え、再び煮る作業に入る。
中身を見ると、味噌と貝の旨味成分がたっぷりと沁み込んでいる"コウテイ"のお肉が良い色に変色し、先程加えた野菜類が鍋の中を彩りよく飾っている。
"カンカエビ"は短時間で真っ赤になり、身がぷりぷりしてそうで歯ごたえが期待できるレベルに進化。
そして時が来て、食べ時になった。
「エマ遂にできたよ!名付けて!ツララさん特性"北のスペシャル"!」
「早く食べようよ、」
「うん・・・」
"北のスペシャル"の流れを華麗に無視され、落ち込み気味にお玉と先割れスプーンを用意する。
俺達は出来たてほやほやの鍋の具材をお玉でお椀に入れいざ実食!
待ちにまで待ったお肉の味!!
まずはスープから頂く。
「ずずずずず~」
うん、上手い!
この味噌と貝とお肉から取れた出汁が良い具合にマッチしていて味の津波が口の中に押し寄せて来る。
「濃厚なスープだ。」
「どうかな?美味しい?」
「うん!めちゃめちゃ美味しいよ!この寒さに効果の良い温かいスープが体全体に染み渡るのよ~~」
ツララは満足いく顔で俺の方を見ては鍋を食べ始めた。
スープのお次は"肉"だ!
やっと、やっと漕ぎ着けた肉!
食べれるんだ。そして、ありがとう!
今までよく異世界を生き抜いてきたな。
ゲームのステージで言うとまだ序盤だろうけど、
肉を掬い、口元まで持って行く。
「」ぱく!
う、うううううううう、美味い!!!
この弾力と舌で味わう度に濃厚なスープが染み渡ってきて噛む度に生きている実感を得られる幸福度。
間違いなくお☆肉☆だ!
「美味しそうに食べるねエマ。」
「うんうん、満足満足!!」
想定していたよりも満足してもらえて良かったと思っているツララは、食べる速度を上げていき、鍋の中身を空にしていく。
そして俺も負けず劣らずといった形で次々と具材を口の中へと頬張って行く。
野菜も口に入れ、カリカリとした食感や味わったことの無い未知の味まで多種多様で面白い食卓になった。
エビも余すことなく外殻ごと噛み砕き、そのまま胃袋の中へボッシュートしていく。
がつがつがつがつがつがつがつ!
がつがつがつがつがつがつがつ!
それから二人は食べ進め、お腹を擦ってぽんぽんと腹を叩いて終了の合図を露にする。
あっという間に食べ終わった鍋は既に空。
久々に食べれた美味しい食事が取れたことにより今まで欠けていたタンパク質が補充され、活力が漲って来るのを内側で感じる。
あれだけ寒かった体温もポカポカと上着を脱ぎ捨てる程に滾っていた。
今回の食事は大成功。
初日、いや、二日目にして大満足いく食事を満喫した俺は明日を元気に生きる為に早寝する事に、
こうして"グレイスダイアモンド"生活二日目は幕を閉じた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
面白かった、続きが読みたいと思った人は評価をお願いします。
これからもよろしくお願いします。




