第35話 着々と整う戦闘準備
緊急会議が終わってその五日後、
今や、エルフの里を囲むように壮観で立派なバリケードが建てられている最中だ。(進捗具合は大体72%)
モンスターが本格的に迫って来てるという要因もあるからか、作業スピードが格段に上がってる。
効率的かつ能率的だ。
それに、遠くの方までクリアに見渡せるように見張り台を作り、木柵と良い感じに隣接している。
だがまだ完成はしておらず、残り一日。
明日までには95%くらいまで進めておきたいというのが建設部門の本音らしい。
建設に関わっている多くのエルフは戦闘面では役に立たない一般エルフ達。
しかし、その分建設に関してはお手の物だ。
せっせと必要器具を準備して、組み立て作業に取り掛かって行く。
魔法で木材や丈夫なロープを浮かせつつ、建設作業員の所まで持っていく。
木柵は丁寧に並べられている。
穴を掘って、丸太のように太くてブレない釘を差し、地面に突き刺してはロープでグルグル巻きにして固定する。
寝る間も惜しんで作業をしている為、人数が多いという要素を含めて当初予定していた時刻よりも早く事が運びそうである。
しかし働いた分の疲れが一気に全身を巡る。
体のあちこちが痛みを主張して筋肉が震える。
たがそんな時は、剣を携えているエルフや杖を持っている魔導部隊の人達が食料を支給して回復時間を与えてくれる。
支給している食料はやっぱり野菜。
そしてフルーツと天然水。
親の顔より見た食材たち、
ここ最近俺はお肉と魚を見ていない。
エルフがベジタリアンだから仕方ない事だけど、一人間である俺からすれば肉が食べたい!!!
それからしばらく時間が経過すると、区切りがついたのか一部分の木柵が完成した。
高さ30mに聳えているエルフ特性の木柵バリケード。
見事なものだ。
すると、魔導隊の人達が木柵の方へと近づいては手を翳していく。
「何かやるつもりなのだろうか?」
ちょっとした疑問を持ちながらも俺は正面を見る。
そしたら緑色の優しい光が幅30mの距離を静かに優しく包み込んでいった。
「なんだ?何してるのあの人達・・・一般エルフの作業を邪魔しちゃ駄目でしょ。」
いや、これは邪魔をしているのではない。
魔導部隊のエルフ達は更に壁を強固なものとする為に【強化】の魔法を掛けたのだ。
防御力と耐久力が上がる。
どうやら徹底して里を守り抜くつもりらしい。
ログバリケードに木柵、見張り台、建設が終わった個所全てに【強化】の魔法を掛けた。
これも一仕事の内なのであろう。
建設に関わっていた周りのエルフ達が身体を休めながら【強化】されていく光景を瞳孔に取り込む。
そして【強化】の魔法を付与した後は、来た方向から別のルートへと歩いていった。
帰るのかな?それとも訓練に戻るのかな?
それとも全てに【強化】を施すつもりなのだろうか?
だとしたら骨折り損のくたびれ儲けだ。
何にしてもご苦労なこった。
エルフってそんなに体力ないイメージだからすぐばてそう。
それから、エルフの数が数だけに建設に関わるエルフの人数は各方角で約10,000人以上。
確かにそんだけの人数がいれば数日で形にはなる。
出来たてほやほやの見張り台に早速立っているエルフが一人。
上から指示を出して的確にエルフを動かして、無駄なく作業を進めている。
それ以外にも戦いの役に立つ武器武具の製作も欠かさない。
しかし、エルフはあまり鉄製品は使わない。(戦うための剣や弓矢などの武器は例外として、)
自然と共に共生する種族であるが故のコンプライアンス的な奴なのであろうか?
だがしかし、やはり身を守る為には鉄製品の武具は欲しい。
頑丈でダメージも反動も軽減してくれる装甲鎧。
あるのと無いとでは雲泥の差。
生死に関わる頑丈武具。
そこで太古の昔、この地に住んでいたエルフ達は悩んだ。
「どう身を守ろうかと、幾ら魔力があっても防御力は紙装甲。身体が頑丈で構成されていない種だからこそ鎧が必要であると、俊敏性を失わせず、身軽で頑丈な装備を、」
そうした考えの末に辿り着いた答えが"アボン"という四足歩行の生物から作られた革装備だ。
分厚い革ながら非常に軽い、そして防御性は抜群!
とても汎用性も高く使い勝手の良い素材である。
遠征や狩りに出るエルフ達の殆どはこの"アボン"から取れた革装備を来て外へと出る。
しかし、その中でも非常に優れている装備がある。
"アボン"装備とはまた一味も二味も違う圧倒的A級装備。
それは、"魔鉱繭虫"と言われる魔力が凝縮した特殊で丈夫な糸を出す虫から作られた服だ。
その糸は初級魔法が直撃しても無傷で耐えられる程の防御性を誇る魔鋼糸といわれる鋼の糸。
魔力の伝導率も良く魔法との相性もばっちり、
そんな"魔鉱繭虫"が出す魔鋼糸を使ってエルフ達は特殊な絹を作り、服を作る。
高密度に収束した一本一本の細い糸は魔力を帯び、鎧とか着ずとも魔法耐性、ダメージ軽減、動きやすさ、そのどれをとってもA級装備。
エルフの樹海に住むトップレベルの位に居る人達は全員この服を着ている。
約25,000名と言ったところだろうか、
それだけ実力があり、経験もあって優秀な人達という事なのだろう。
ルーファスや各隊長たち、カーチェもこの服を着ている。
だから生半可な攻撃ではダメージは一切通らない。
そしてなんと、この糸はエルフの樹海だけでなく外の世界、人間たちが住む世界でも使われており、高級服屋に展示されている商品は全てこの"魔鉱繭虫"の魔鋼糸が使用されている。
俺も人間の街へ赴けたら欲しいものだ。
それから建設を始めて四時間が経った。
進み具合は順調。
トラブルも無しに着実と建設を進めている。
しかし、このバリケードが作られたからってモンスターが侵入してこないわけではない。
だから安心するのは早計である。
やる事はまだある。
例えば、このバリケードに最強の二つの対モンスター用迎撃防衛システムを用意するとかだ。
その迎撃防衛システムというのはエルフの里に危機的状況が迫って来ている時にこそ使う最終二大兵器。
その兵器さえ実践投入してしまえば、モンスターから里を守ることが出来る。というか投入する事は100%確定している。
なので、もう既に最終兵器とやらは裏でこっそりと整備に取り掛かってくれている。
大掛かりで、
ドワーフの一人や二人程いればちょちょいのちょいだっただろうが、生憎と此処はエルフの樹海。
こんな密林の中にドワーフがいるはずもない。
因みに二大兵器の一つ目は三点バースト式の"上級魔砲・宝魔"である。
それは、8000年以上生きる長寿の樹木の素材を用いて作り出した20m程度はある極上の杖を魔力砲台と見立てたもの。
エルフ達は揃って「宝杖」という。
更にこの兵器に使われている燃料は此処から南側、約10Km先にある洞窟の中にある。
それは"魔鉱石"。
濃密度の魔力が固まった神秘の鉱石。
この兵器は、その中から抽出した"魔液"と呼ばれる液体をエネルギー源としており、高密度、高威力の砲撃をバンバン放って敵を散らすことが出来る程に強いエネルギー密度を保持している。
最強の迎撃兵器である所以でもある。
「宝杖」から出るその威力は上級魔法の3倍の威力。
モンスターは当たっただけで即死だろう。
二つ目は"全方位魔力遮断バリア・魔乱消邪"である。
10分間という戦闘中の時間間隔で言うと極短い時の中ではあるが、外敵魔法攻撃を全て無力化する最強の結界を発生させる。
しかしデメリットとして内側に居る我々エルフ側にもその影響が届き、魔法が一切使えなくなるというまさに諸刃の剣状態になってしまう。
つまり結界発動中は魔導隊が機能しなくなるという事で、戦力が激減してしまうのだ。
使いどころを見極めなければならない非常に使い勝手の困るもの。
だがその二つのシステムを補う余りある沢山のトラップがあちらこちらに散りばめられている。
勿論バリケード外の方でだ。
古典的なトラップ落とし穴から剣の雨、煙幕、モーションセンサー型自動攻撃魔法陣など、足止めをするカテゴリーは多岐にわたる。
俺も一回だけ罠に引っかかる瞬間を見たのだが、エグイくらい連鎖的に発動していた。
適切な感覚を開けたまま仕掛けるのが肝である。
それと一番大事な偵察隊からの情報報告だ。
偵察隊に所属するエルフが言うには以前変わりなく予定通りのルートを進んでいるとの事、
それに前の報告よりモンスターの数は多い模様だ。
万は超えて来そうな予感と雰囲気がある。
それと、相も変わらず六体の上級モンスターは健在のようだ。
見ただけで体中に緊張が走るんだと、
俺はそのモンスター達の姿を知らないから分からない間隔だけど、エルフの皆なら勝てると信じている。
東側と北側からはモンスターの影は確認できない。
「このまま平和な里の中で過ごしたいものだ。」
そうやって、俺は着実に要塞化しつつあるエルフの里を見ながら呟き、子供たちの遊び相手をしている。
鬼ごっこだ。
だからといって全力で捕まえようものなら泣かせてしまうので手加減しながら追い掛ける。
だが、そんな所にルルイヤと名乗る「巨影の樹木」の隊長さんがお出ましに来た。
短いローブを首元に身に着けて赤いバッチがアクセントになっている。
片耳にピアスを着け、全体的に青い衣装で身を包んでいる真面目そうで気丈って感じがする風変りな少年エルフ。
一体何の用だろうか?
遊びに来たのかな?
「君が噂に聞くエマ君、だね。」
「はいそうですけど、」
ルルイヤは首を少し傾けながらそう告げた。
俺は話の邪魔になるといけないから子供たちを一旦遠ざける。
片目を吊り上げながら不思議そうな面持ちでルルイヤに言葉を返した。
「子供達とは戯れていてくれたんだね。」
「遊んでほしそうだったので、」
「優しいんだね。」
「そうかな?」
「朝ごはんは何を食べたの?」
朝ごはん?
これはまた唐突な質問だな。
ていうかサラダ以外に選択肢はないんだよ。
「サラダだよ。」
「子供は好きかい?」
「まぁ、人間に限らずどんな種の子供でも好きですよ。」
「それは非常に好感が持てる意見だね。ところでエマ君は僕たちが二日後に衝突するモンスター戦の事についてどう思う?」
「いきなり何なんですか!?」
「いいから答えて、」
「えっと、勝って欲しい・・・ですけど、」
「他には、」
何だコイツ、
いきなり現れて質問ばかりして、
初対面でこんなにも質問攻めされたことなんて前世の俺でも経験がないぞ。
でも六つある内の一隊長だっていうじゃん。
こんなちんちくりんで真面目そうな子が隊長ね、
「幾ら戦ってくれるからと言って里の中が安全だってわけじゃないから怖いですね。あとはもし侵入した時に子供たちを俺の力で守れたらな、なんちゃって、」
「ふむ、なるほど、」
・・・ホントに何がしたいのかさっぱりだわ。
「本当はこんな事態になることはなかったんだけどね。先に誤っておくよ。ごめん。」
「なんで謝るんですか!?そ、そそそそんな隊長さんが頭を下げるなんて、」
いきなりの展開で頭がパニック状態になってしまい、慌てふためく。
「エマ君、僕はこの提案には反対していたのだが、その作戦にエマ君、君の参戦が決定した。どうやら君がいないと本作戦は上手く行かない様だ。」
「・・・・・・・・・え?マジ。」
「僕は元々あの時の出来事から人間なんか信じていない派なんだけど、その場のテンションに任せて多数決で決められたから参加確定になってしまってね。その辺は悪いね。」
「え、あぁ、はい・・・」
「フッ、それと少しの間話してみて分かったよ。エマ君は悪い人間じゃない。その事だけは信じて上げてもいい。子供の相手をしてくれているのだ。さっきの子供達の楽しそうな笑顔を見て確信したよ。」
「あの、ホントに参加するんですか、この樹海に住んで一か月も経ってないんですけど、人間ですけど、」
「さっき言っただろ。参加は確定、これは決定事項だ。それと何よりも決定打になった判断材料が君が能力者で、あの『しきたり』でルーファスに勝った実力。それを見込んでの事だろう。拒否したいのというなら長様に直談判するしかないだろうね、」
予想外!!
まさか俺がモンスターと戦う戦に参戦することになろうとは、
でも何でだ?
何で俺が参加するのだ?
幾ら能力を持っているからと言って参加を決められる要因になりえるのか?
「それと決戦の地は南と西の間にある山、"サンニュー山"だ。覚えておけ、」
「はい、」
「気を落とすな。過ぎてしまったことを考えていても意味はない。大人しく覚悟を決めて我々と共に戦おう。心配なはい。我が同胞の力である程度お前を守ってやる。だからいつも通り過ごしたまえ、」
ナチュラルに飛んで来た発言から現実逃避したい気持ちでいっぱいになってしまっが、逃げるわけには行かない。
子供たちが危険に晒されるのだ。
仲良くなったエルフ達の命に危険が迫って来ているのだ。
守らないわけには行かないじゃないの。
腹を括り、弱々しい覚悟と共に俺は立ち上がり、虚勢の心を表に出す。
や、やってやるよ!!
ここまで読んでくれてありがとうございます。
面白かった、続きが読みたいと思った人は評価をお願いします。
これからもよろしくおねがいします。




