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第32話 祭り

 ドンドンドン♪ドンドンドン♪


 十個以上ある大太鼓がリズムに乗ってエルフ達のテンションを上げる。

 ヴァイオリンやコントラバス、チェロなんて物もある。

 それそれの楽器が全く違う音色を出して祭りを盛り上げる。

 そんな楽器の演奏会の中で俺達はデカい炎を囲みながら飲み物片手に楽しく会話している。


 そして、俺も。


「お疲れじゃの~人間の子よ、」


 長が陽気な態度で話しかけてくる。


「どうも、それから俺の名前はエマです。」


「お~そうかそうか、ならエマよ。お主その歳で上級魔法を扱る技量と知識、まっこと感無量じゃ、素晴らしかった。」


「ありがとうございます長様。」


「それからワシにもちゃんと名がある。長様ではない。お主には特別に()()()()()()()と、呼ばせてやろう。」


「か、かーちぇ・・・ちゃん!?」


「そうじゃ、はっはっはっはっはっは!それからお主には感謝もしておる。本当はワシの手でルーファスの闇を祓わねばならんかった事をお主が代わり全うしてくれた。心から感謝を、」


「いえいえいえ、そんな。元はと言えば俺がこの地に迷い込んだのが原因で喧嘩になったわけですし、ルーファスの闇を祓おうなんて微塵も思ってなかったですよ。偶然ですよ。」


「それでも、感謝する。全力でぶつかってくれた事に、」


 俺に対して頭を下げて感謝するカーチェ。

 自分で犯してしまった過ちであるからして、あの事件を前に心に深い傷とトラウマを負ったルーファスの事を気にかけているのだろう。


「それとな、エマ。」


「はい、」


「ルーファスは底抜けな努力家で人一倍優しい男なのじゃ。小さい頃はワシに向かって「この里は俺が守る」とか言い出してな。魔法学校にも通い、実力も伸ばして、立派な正義感溢れる優しい子だったのじゃ。だが、あの事件以降その優しさが仇になった結果、変わってしまった。エルフの為にお主の命を奪おうともした。じゃが、どうか許してやってくれぬだろうか。お主には多大な迷惑をかけた。重々承知しとる。それでもあの子は里の為に必死だったのじゃ・・・」


 命を奪う事に関して言えばカーチェが『しきたり』の話を持ち出さなければよかっただけな気がするけど、ここは空気を読んで納得しておこう。


「そうですね。」


「お主には迷惑かけてばかりじゃな、」


 パチーン!!!


 カーチェが両手で力強く合唱する。


「はい、この話は此処で終わりじゃ!せっかくの祭りだからのぉ、気分を上げて行かなくてどうするのじゃ。お主もテンション上げて行くが良いぞ!!」


「お、おう。」


 カーチェは立ち上がり、祭りを更に盛り上げるために一際目立つ舞台の中心部分で声を張り上げる。


「もっと祭りを盛り上げていくぞおおおおおおおお!!」


 うおおおおおおおお!!!


 涸れるほどの大声を腹から出して、盛大に祭りを騒がせる。

 熱が入った大声だ。

 夜に響くエルフ達の声は外から見たらそれはそれは今日一で盛り上がっていた。


 一方、俺はルーファスの事を心のどこかで思いながらも、テーブルに並べられている沢山の料理を見る。

 そこには、色鮮やかで俺の見たこともない野菜の数々が皿の上に盛り付けられ、異世界感を醸し出す。


 だが、


「野菜ばっかだな!!!!」


「仕方ないですよエマさん。」


「ケーラさん。」


「だけど、此処辺りで取れる野菜ってすごい美味しいのよ!私も自分の農園を樹木の上に作ってみたいな~て考える時があるもの。」


「そ、それはどうかと思うけど、でもケーラさんの家で食べたサラダはすごい美味しかったです!」


「でっしょ~~~!だ・か・ら・お肉やお魚は無いけどいっぱい食べてってね。この祭りはエマさんの為でもあるもの。主役の一人であるエマさんは存分に楽しんでね☆」


 やっぱりこの人天使だわ~~。

 将来はこういうお嫁さんが欲しいな。

 はぁ、とことんスンが羨ましい。


「どうしたのエマさん。」


「え!?いや、なんでもないよ。」ハハッ


 肩を落としながらも並べられた大量のサラダを目に通していく。


「どれ食べようかな?」


 野菜しか出されていない異色で変わり種なご馳走だが、俺は文句の一つも言わずに自分の皿に乗っけていく。


 その中には、芯の部分まで真っ赤なキノコ、青紫がかったレタス、カブトムシの幼虫みたいな生き物が混ぜ込んであるポテトサラダ、


 見れば見るほど拒絶反応が出るゲテモノ料理ばかりだ。

 信じられん!!


「さぁ!召し上がれ!!」


 聖母のような優しい顔を浮かべて、美味しい、の一言が貰えることを心待ちにしているケーラ。

 そんな表情されたらどれだけ見た目がグロテスクだろうと受け入れなければならないのが男の性。


 畜生、その笑顔には逆らえない。


 甘んじで受け入れる俺。

 既にフォークは握っている。

 後は口に運んで歯で噛み砕くだけだ!


 いざっ!新世界(ニューワールド)ヘ!!


 パクっ!


 俺は震える手で異色のサラダを食べた。

 そして、口の中で転がすように味わってみる。


「あれ?旨い!!」


 何だこの味は、卵焼き?

 いや、どっちかと言うとこのクリーミーな味わいは・・・シチューの方が的確かな?


 俺が食べたのは青紫がかったレタスに毒々しいキノコとサボテンを合わせたサラダだ。


 意外に優しい味がしてて予想の垂直上がり。


「美味しいわよね、そのサラダ。私も好きだわ。ねぇねぇ、こっちも食べてみてよ。」


 そういってケーラはスープに指を差して俺に食べろと促してくる。


「うん、わかった。」


 俺は特に抵抗もせずに素直に受け入れる。

 だってここまで来たんだし折角だからこの際、色んな味を体験しておくのもいいかな?って思っちゃったんだよね。


「では、スープいただきます!」


「おっ!良いね!!スプーンなんて使わずに直飲み、」


 新しい味を体験した俺は気分が上がっていた。

 なので、木製の皿を口元まで持っていき、飲み干す。


「甘い!」


「うふふ、そうでしょ。これは”アルメタカラス”と”バージンリスク”と”エテボラリエギグルス”という食材を使っているから甘くて美味しい酸味が効いた味わいになるのよ。」


 何言ってるのか全くわからないけどOK。

 理解した。


 それからと言うもの俺は、片っ端から料理を腹いっぱい食べた。

 その喰いっぷりは周りのエルフを歓喜の渦へと導く光景。

 主役の一人である俺が美味しく食べているのが嬉しいのだろう。


「うまうま、」


 それにしても、見た目は最低のゲテモノ料理って感じがするのに食べてみたら美味しいって、変わってるな。


 俺は引き続き野菜を食う。


 このシャキッとした歯ごたえはケーラさん家で食べたサラダと同じ感じがする。

 水分が乗っているのが新鮮度を引き立てて、何回でも食べられる。


 シャキシャキシャキシャキ!!!

 モぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ!!!!


「いい食いっぷりですなエマさん。」


「ん?あじゃだわ(あなたは)まりょんざん(マロンさん)。」もぐもぐ


「飲み込んでからで大丈夫ですよ。」


 リスみたいに両頬が膨れている俺は、会話をする為に喉の奥へとサラダを流し込む。


 ゴクリッ


「それで何の用ですか?」


「一緒にエルフ特性極上赤ワインで乾杯でもしようかなと、」


 ワインで乾杯ってことは、やっぱり中身は大人だったんだ。

 一体歳いくつだ?

 でも、先にお断りの言葉を入れなければ、

 今の俺は未成年だからな、


「悪いけど俺ってほら、まだ子供じゃん。だからお酒飲めないんだよね。だからせめてこっちの天然水の方で・・・」


「なるほど、思い出しました。人間は確か我々とは違い長寿の種ではなかったですね。てっきり僕と同じように数百年は生きている者とばかり、」


 エルフ基準で考えないで欲しいけど、数百年って普通に言ってるけどヤバいな。

 どんだけ生きてんのよ。

 俺なんて数か月前にこの世界に転生してきたんだぜ。

 前世の歳と足し算しても百年なんて到底届かないよ。


「天然水なら乾杯できますから、露骨にガッカリしないで、」


「そうですね。」


 銀色のコップに注いである透き通るような水が入ったグラスをお互い手に取り、軽くガラス同士をぶつける。


「「かんぱーい!!」」


 ゴクゴクゴク


 うまっ!何この水!?

 冷たくて美味しい!

 俺こんなに水が美味しいって思ったこと人生で一度もないよ!?

 水を喉に通す度に身体がひんやり涼しくなって爽やかな気分にしてくれる。

 これが異世界の天然水。

 恐ろしい味だ。


「他にもあるからどんどん楽しんでよエマ。」


「うん!」


 それからというもの俺は大いに祭りを楽しんだ。

 癖になる程の不思議なサラダと清らかで優しい喉越しの天然水、一口頬張れば魅惑の世界へ誘われる程の甘美なフルーツ。

 そのどれもが俺の身体にエネルギーを与えて、脳に活性を促し、戦闘で疲弊した身体を内側から元気にする。


 それと、俺の美味しそうに食べる姿に感化されて他のエルフ達が意味もなく爆食いをし始めた。

 テーブルの上に乗っている料理が瞬く間にキレイに完食されて行く。


 そして、そこから派生して大食い大会みたいにもなった。


 みんな風船みたいなお腹になりながらも無理矢理喉に通して腹に溜めてく。

 破裂寸前まで行った。


 無理すんな。


 で、勝ったのはこのエルフの樹海で一番の胃袋を持つ女性のエルフ。

 名はアミラと言うらしい。

 華奢な体で何故あれだけの山盛りサラダ&フルーツ盛り合わせが食えるのか、


 いや、まさか!!

 奴の胃袋は四次元ポケットの様な感じなのか!?!?


 その他にも、


 樹海全体に響き渡る美女の歌声。

 楽器の独特なリズムと共に踊るフリフリの服を着た可愛い踊り子たち。

 蝶のように美しく舞っている。

 この地で生まれた踊りだろうか?

 優雅な動きとフィギュアスケートに出場するアスリートの様な回転技を数多く取り入れており、腰の捻りとジャンプ力は人間より秀でている。

 美しいフォームだ。


 勿論注目すべき点はそこだけでなく、ソプラノ、ビブラート、音の起伏をうまい具合に組み合わせたオーケストラを思わせるその美声な歌声は壮観で心を癒せる程に素晴らしい!!


 感動する!!!


 それに魔法を使ったパフォーマンスも所々で披露されていた。

 この場に居るエルフが一万人を超えるという事でパフォーマンスだけはより力強く、よりど派手で目を見張るものがあった。


 紅蓮に染まる猛々しく燃えている烈火の炎は、ブルーダイアモンドの様に深い青に包まれた凍える氷に凍結され、"情熱的に燃ゆる氷の氷像"という作品を作り出した。

 次に、雷魔法を器用に使って【雷龍夜天水漁】という魔法を行使し、月夜の空に閃光の様に眩く光り輝く神々しい一匹の龍が夜の世界を泳ぎ出す。

 その光は樹海の半分を占める程のデカさと光源を齎す龍だ。


 綺麗だ!!!


 その他にも虹色に撃ち上がる色鮮やかな花火、水と氷の合体魔法、土魔法で他人の彫像を作って動かしたりと、遊び心や感動を覚えるものばかり。

 魔法の撃ち合い大会や腕相撲大会なんて催し物も開催していた。


 愉快な奴等だよ。


 俺も試しに腕相撲大会に出場したのだが、自分の非力さを完全に忘却していたので勝負が開始したのと同時に俺はキリモミしながら地に倒れた。


 一体何が起きたんだ!?!?!?


 そんな楽しい一時を過ごした、という記憶をしっかりと俺の脳内にダウンロードする。

 そして、あっという間に一夜が明けた。


 朝。

 俺は目が覚める。


 するとそこには、寝転がっている大量のエルフ達がいた。

 俺以外の殆どはお酒の飲み過ぎで地べたへ倒れ込み、酷い有様になっている。

 前を見ても、右を見ても、左を見ても、上を見てもエルフが鼻提灯を作りながら爆睡をかましていた。

 祭りに使っていただろう楽器やテーブル、料理、皿やフォークやスプーンなんてものも地面へ転がっており、散々な光景だ。

 散らかってる。


「こりゃひでぇな。この祭りって遠征組が帰って来た時に毎回行われるんでしょ。大丈夫なの?後片付けとか誰がやってるの?」


 と、早朝から俺は心底心配する。


「お、早起きじゃな。」


「長さん・・・」


 どうやら俺より先にカーチェが目覚めていたらしい。


「長さんじゃなくて、カーチェちゃんだぞ、」


「か、カーチェさん・・・で許してください。」


「良いじゃろ。」


 朝日が樹海の奥から除き出て、灯火が世界を今日も温かく見守る。

 小鳥の囀り声、動植物の目覚め、それぞれがそれぞれの役割を果たそうとする時間。

 例え人間であろうと、エルフであろうと、どんな生き物であろうと、


 そんな中、一人黄昏れているような表情と声色でカーチェが口を開く。


「ワシはこの朝日を見るといつも思う。いつまでもこんな平和な世界が続けばよいのにって、お主はどう思う。」


「俺もそうですよ。世界は平和の方が良いですし、それ以上の事なんて無いです。」


「真面目な答えじゃのぉ、つまらん。じゃが、この世界にはそれを良く思わない奴らが沢山おる。例の事件を起こした人間、悪さを企む悪人共。ワシはいつかこの世界から邪悪な心が無くなる事をいつまでも祈っておる。それがワシの願いじゃ。」


「そうですか、」


「うむ、」


「俺も賛成だ。」


「「!?」」


 朝日が昇る方向を背景(バック)に姿を現したのは、短髪になったルーファスだ。


「な、ルーファス!」


「お主どうしたんじゃ、その髪は!?」


「反省・・・と言った方が良いかな。」


「「反省?」」


「俺はエルフの為を思って今まで努力してきた。だが、そこの人間と全力で戦って気付かされた。思いが吹っ切れたんだ。俺が今までしてきた事は只の私怨だ。

 情けない自分を払拭するという名目でこの二年間、周りのエルフ達を動かしていた。

 恨んでいた。

 その恨みの対象があの時動けなかった自分自身を指すものだという事を分かっていながら、

 だからこそ、俺はもう過去を振り返らない。これからは本当の意味でエルフ達の為を思い、前進すると決めた!!髪を切ったのはその誓いであり覚悟だ!もう俺は迷わない!!」


 立派な覚悟だな・・・

 俺には到底真似出来ないよ。


 どこまでも遠くを見つめるその眼差しは、俺たちでも沸々と伝わってくる意思の入った覇気を感じ取った。


「覚悟、か。お主はどこまでも真面目じゃな。」


「昔から言われてることです。そして、そこの人間。いや、エマ・・・だったか?」


「はい、」


「すまなかったな。この個人的な恨みとエルフ族としての恨みはあいつらに倍返しでぶつける為に取っておく。それまでは仲良くしてくれると嬉しい。暫くここに居るんだろ?」


 ルーファスの顔は太陽の様に眩しい晴れ晴れとした表情になっていた。

 目の濁りが無くなり、美しいサファイアの様な瞳孔が姿を現す。

 曇っていた表情が露になった瞬間だ。


「ふっ、当たり前じゃない!暫くお世話になるよ。」


 太陽の紅炎が俺達を熱く照らす絶景の映える場面、そこで俺達は互いに握手を交わした。

 仲直りの握手だ。


 カーチェは二人の握手を一歩離れた所で見守り、母親の様な温かい目で見守った。















「グルルルルルルルル」

ここまで読んでくれてありがとうございます。

面白かった、続きが読みたいと思った人は評価をお願いします。


これからもよろしくお願いします。

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