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第29話 俺VSルーファス

『しきたり』

 それは、太古の昔から受け継がれてきた由緒正しきエルフの決闘。

 物事を決める際や己の力を皆に証明するための手段として用いられてきた伝統ある行事である。

 そして、この決闘では互いに賭けをし、勝った者は全てが正しく正義である。

 逆に負けた方は、プライドを失い、次の『しきたり』があるまで敗北者と言う汚名を背負って生を全うしなければならない。

 そういう掟。


 ということで、俺とルーファスは太古からのルールに沿って決闘する事になった。


 意味が分からん。

 何で決闘に参加することになってんだよ!

 俺は了承してねぇぞ!!

 ・・・いや細い声でしたけど、

 でもあの場の空気で断る選択肢なんて取れなかったんだよ。


「おい人間。俺はあの二年前の事件からの恨み故に、決して子供とはいえ手は抜かん。全力で叩き潰す所存だ。覚悟しろ。」


「いやいや、そこは手加減して欲しいんだけど・・・」


 両者、試合前に適当なセリフを吐いては緊張を解す。

 外野から入るギャラリーの声は全員ルーファスを熱烈に応援している。

 特に女性側からの応援が多い。


 しかし一方で、過去の事件の所為で俺は完全に嫌われていた。

 四方八方を囲む観客たちは、口数揃えて俺に罵詈雑言の罵声の限りを腹の底から吐いて、精神的ダメージを負わせてくる。


 酷い!!!!


 クソッ、俺は豆腐メンタルなんだ。

 そんなに言葉の暴力を浴びせるというのなら泣くぞ。

 そろそろ泣くぞ。お涙ポロリするぞ!


 それに加えて、この決闘の引き立て役であり端役と成り下がっている。

 こんな事があっていいのだろうか。

 今作の主人公が端役に成り下がるなんて前代未聞の展開に!!


「全く、シャキッとせんか人間の子。罵声を浴びせられとるぞ。何か言い返してやれ。」


 どの口が言うんだ!

 そもそも長様が俺の命と奴の思惑を天秤に懸けてあっさり承諾したのが原因でしょうが!

 なに澄ました顔で喋ってんのよ。


 長はどこか楽しそうな笑みを浮かべつつ、この戦いの行く末を風魔法の恩恵で胡坐を掻きながら浮遊して眺めている。


 呑気だな!

 自分自身が戦わないからって!!


 そして周りの一万以上は居るであろうエルフの傍観者たち共は、地上、樹木の上、長の様に浮遊したり家の中から視聴している奴も居る。


 つまりは!


 皆の冷たい視線と熱い視線が集中した状況の中で戦わなければならないという事である。

 あがり症の俺にはキツイ舞台だぜ。


 周りの観客たちは悦楽と愉楽の為に舞台の真ん中へと集中線を誇張する。

 そんな、極度に高められた緊張状態の中『しきたり』が始まる合図が今・・・下された!!


「初見でこれが躱せるかな?【稲光・蛇射鎚!!】」


 先手を取ってきたのは顔面凶器ことルーファス。

 音速を超える程のスピードを持つ雷轟の蛇で攻撃してくる。


「いきなり!?だけど俺も毎日しっかりと成長してるんだよ。そう簡単にやられはせぬ!【ロックウォール・ヘビーセカンド】!!」


 すると!


 一枚一枚の厚さが、幅5mはある岩の壁を合計3枚ほど横一列に迫り上げる。


「ほぉ、少しはやるようだな。」


 雷轟の蛇は一枚の分厚い壁に阻まれ消滅した。

 いとも簡単に、


「こっちだって散々言われっぱなしで負けてられん!」


 危なかった!!

 常に周囲の空気と俺の魔力を一体化させておいたお陰か、あんなに速い攻撃を偶然にも防ぐことが出来た。奇跡だ!!!


「あまり調子には乗らぬ事よ。」


「お、お前こそな、」


 震えた声で言葉を返す。

 まずはデモンストレーションという事なのか、初手の魔法で相手の力量を確かめる双方。

 周りのギャラリーはそれを見て心を熱くさせ、更にこのステージを盛り上げる。

 大歓声の嵐だ!


 余裕の態度を崩さないルーファスは、背中に背負っている和弓を手に装備して構える。

 対する俺も、魔力探知の範囲を拡大させて、何処からどの攻撃が来てもいいように気を張っては直ぐ動けるように構える。


 二人の間には今、静寂の空間が場を支配している。

 そんな空間の中、脳内で戦闘シミュレーションやどの魔法を使うか考えていた。

 長いようで短い時間の中を何度も繰り返して動きのプロセスを行っていく。

 そして今度は俺が仕掛ける。


 脚力強化で大外右回りで距離を詰めて行くようにしながら【炎弾】を撃つ。

 ルイと戦った時にやった戦法で、その強化版だ。

 燃える無数の弾が機関銃(マシンガン)のように限りなく標的に向かって行く。


 しかし、ルーファスには効かない。

 俺と同じように【ロックウォール】で攻撃を防ぐ。


 やはり防がれるか。

 まぁ、分かっていた事だがな。


「まさかこれで終わりだなんて思わないよな。」


「??」


 ルーファスは指パッチンをする。

 すると、【ロックウォール】からなんと!!【岩人形(ロックゴーレム)】に変形したのだ!!


「何ですとー--!」


 極太の力強い剛腕、頑丈そうな体、その二つの要素を併せ持つ【岩人形(ロックゴーレム)】はこちらを見据えている。

 目をギラッと輝かせる。

 そして、全長3mはある岩の巨人が腕を交差させて【炎弾】をガードする。

 流石は【岩人形(ロックゴーレム)】。

 耐久度は【ロックウォール】より上だ。

 しかし、俺の魔法も成長している。

 時間が経てば経つほど【岩人形(ロックゴーレム)】の身体が銃痕だらけになって行き、崩れかかる所まで持って行く。

 ボロボロだ。


「限界か・・・だが、」


 ルーファスは崩れかける【岩人形(ロックゴーレム)】を盾代わりに、その後ろで静かに弓を構える。そして次の瞬間、風の魔力を乗せた弓矢を放つ!!


白風の翔貫鏃(エア・アクファ)


 白く吹き纏う風の矢は【岩人形(ロックゴーレム)】ごと背中から射貫き、俺を攻撃してきた。

 その貫通力は抜群だ。


岩人形(ロックゴーレム)】を盾に陰から俺ごと狙うだと!?

 なんとクレイジーな戦い方をっ!

 だけど、そう簡単にやられないって言ったよな!


 魔力探知範囲を拡大していた為にいち早くその存在に気付き、走りながらスライディングして危なげにその攻撃をギリギリ躱す。

 からの、その勢いを殺さずに流れるような動作でクルッと一回ほど前転してからの【炎帝奔龍】という上級魔法を放つ。


「!?」


 炎漲る一匹の龍がルーファスを焼き尽くさんとする勢いで周りの大気を燃やし、大口を開けながら一直線に突っ込んでいく。

 まさしく上級魔法のステージだ。


「その歳でこれ程の魔法を放てるというのか、才器の塊だな。」


 両膝を曲げて後方へ下がり、樹木の枝分かれしている太い枝に跳び移って俺の攻撃を躱す。


「避けられたか、もし当たっていたら勝ちの目が合ったのに、」


 苦渋の表情を浮かべながら俺はルーファスの後を追うように視点という名のレンズを合わせに行く。

 そしたら枝の上で俺を見下ろし、弓を構えてこちら側を捉えているルーファスの姿があった。

 その姿は森の狩人。

 ハンターだ。

 ルーファスは弓に魔力を込める。

 その弓には光の属性を、玲瓏(れいろう)な粒子が一点に収束しては閃光を放ち、無数の【光矢】を地上へと乱れ撃ってくる。


光雨の弾矢(ライト・オブ・フォン)


 一矢一矢が初級魔法【ボルト】より何倍も速い速度で狙い撃ってくるので、見る見る地面がゴツゴツのガタガタになって行く。


「くっ、近づけん!だけど、」


 俺は意外性のある行動をした。

 その光の雨に真正面から突撃する。

 地面に俺の足跡がしっかりと残るくらいに力強く踏み切って、

 脚力を強化しているからか、その跳躍力は半端じゃない。

 向かい側からは、大量の光る矢が俺に向かって飛んでくる。


 正直死んだと思った。

 跳んだことを後悔した。

 絶体絶命のピンチで万事休す。


 しかし、


 俺は魔力でそこら辺に垂れ下がっている長い(つた)を手繰り寄せて、某アマゾンの戦士みたく綺麗な逆放物線を描きながら移動する。


 だけど、流石は自然の戦士と呼ばれることだけはある。

 俺の姿を見失わずにロックオン。

 ルーファスは追うようにして光る矢のコースを変更してくる。

 幻想的な樹海の中を蔦一本で光る矢と鬼ごっこ。

 命の危機を感じる危ないリアル鬼ごっこだ。


 俺は身を素早く翻し、後方から降り注ぐ【光矢】から逃げながら別の蔦へ飛び移り、進行方向を変える。

 そして、別の樹木へとスタッと着地する。


 今回のはマジで死ぬかと思った。

 一瞬走馬灯らしき回想が俺の頭に流れて来たもの。


 危うく命を失う結果になるところだったが、休んでいる暇はない。

 着地と同時に俺はルーファスの目と交差する。

 風の魔法を使う。


 今の互いの位置関係は丁度正面だ。

 なので、互いの姿をハッキリと確認出来ている上で堂々と魔法を放つ。


【風貫・一点突破】


白風の翔貫鏃(エア・アクファ)


 右側から三発の風の弾丸、左からは白い風を纏わせた矢が三発、合計六発の風の魔法が激しい風圧を辺りに吹き放ちながら相殺する。


 その威力と衝撃風は周りのギャラリーにも余裕で届く。

 それくらい広範囲にまで影響を及ぼしているのだ。


 デカい樹木の緑葉がカサカサ音を鳴り響かせ共鳴している。

 周りの動植物たちは吹き飛ばされない様に樹木の陰に隠れたり、抵抗したりして各々自分の身を守る術を最大限発揮している。


「ほぉ!!これ程までにやるか人間の子よ。よもやルーファスと、うちのNo.4と対峙してここまで生き残るとは、ホントに人間の子なのかいのぅ。」


 興味津々と言った感じに二人の戦いをワクワクしながら見守る長は、周りから罵声だの応援などが聞こえるエリアで、他のエルフ達と同様に心に熱い炎を灯して見守っていた。

 結末が楽しみ、と言った感じだ。


「中々やるな。人間の子。」


「どうも、」


 幾ら手は抜かんと言ってんもこれだけの実力。

 このエルフは子供相手に本気なのか?

 大人げなさすぎる。

 必死すぎだぜ。


 暁闇(あかときやみ)玉蜻(たまかぎる)世界の中で二人は互いに見つめ合う。

 怪しく辺りを仄かに照らす光虫が外野と俺たち二人の周りを飛び回る。

 その中でルーファスは思い出す。

 過去の出来事の事、

 俺が長から聞いた例の事件の事を、


 月影と星彩が上から差し込み、下からは熱が込み上げる炎の光に挟まれるエルフの樹海の中で、悲鳴を上げながら逃げ行く女子供の姿、血を流しながら戦うエルフ、斬殺された同胞、攫われる子供たち、

 忘れたくても忘れることが出来ない記憶が濁流の如く流れ込み、ルーファスの熱と意思に力を与える。


 思い出す度に頭に血が上り、俺を憎悪の目で睨む。


 完全に八つ当たりな戦いではあるが、それでもルーファスには意味のある戦いなのかもしれない。

 そんな事を沸々と思いながら、ルーファスを視界に映し、力む。


 何て目付きしてやがるんだよルーファス。

 これはちょっとやばいかな?


「俺は・・・」


「?」


 突然ルーファスが喋り出す。

 長文で、


「俺は、我が同胞たちの事を思って長年努力してNo.4という位にまで上り詰めた。異種が混じる魔法学校にも通い、首席で卒業した。だけど、どれだけ実力を伸ばしてもあの時、あの事件の現場に居た俺は恐怖で動けなかった。

 脳裏に蘇るあの人間の顔と声と無惨な記憶が俺にトラウマを植え付けてくるんだ。

 何度も何度も何度も!それでも頑張んなきゃって、前へ進まなければならないって分かっていた。

 だけど出来なかった。

 しかし、あの時お前がこの樹海に迷い込んでくれたお陰で閃いたんだ。

 同じ人間であるお前を殺せば、過去の情けない俺を払拭できるんじゃないかって、だから俺は負けない。

 自分の正義と努力が無駄になったなんて言わせない。

 だから俺は此処でお前を倒して過去の自分を乗り越えてみせる!!今ここで!!!」


「・・・・」


 何も言えなかった。

 嫌味な奴、ウザい奴、何かと人間を恨んでいるムカつく奴、俺の彼への認識は大体こんな感じだ。

 自分でも酷いとは思うが、これが現実だ。


 だからこそ、


 そんな辛い過去と自分に立ち向かっているなんて誰が思うか、

 彼は自分で乗り越えようと必死になっているのだ。

 足掻いているのだ。

 ならば、俺にしてやれることは何もない。

 だけど一つだけ出来ることがある。

 彼の意思と気持ちを真正面から受け止めて、俺も全力で立ち向かってやること!


 だから俺は魔力を放出する。

 今まで放出したことの無い全力の魔力を、


「そうだ、それでいい。それでこそ、俺が倒すべき人間の姿だ!!」


「全力で行くぞ、ルーファス!」


 俺たち二人は勢いよく魔法を衝突させ合い、辺り一面を吹き飛ばした!!




ここまで読んでくれてありがとうございます。

面白かった、続きが読みたいと思った人は評価をお願いします。


これからもよろしくお願いします。

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