第25話 心優しきエルフ
足に力が入らず、座り込んでいる状態で俺は二人のエルフを眼に映す。
「お前、人間の子供の傷を治すなんて、正気か?」
「そっちこそ、傷だらけのこの子の姿が見えなかったんですか!すごい痛そうにしてたじゃないですか!そんな子に多勢に無勢で矢なんて構えちゃってかっこ悪いです。弱い者いじめだなんて我が誇り高きエルフ族の風上にも置けません!!」
「貴様、その言葉を我らに・・・」
弓を構えているロングの金髪エルフは女エルフの言葉に反応し、静かに怒りを燃やす。
怒りの感情が内側で迸り、鋭い眼光で俺たち二人を睨み付ける。
まるで親の仇と言わんばかりの人を殺せるくらいの闇深き瞳孔で、
だがそんなエルフの事など気にも留めずに感情を露にして言葉を飛ばし続ける。
「大体こんな子供を殺して何になるというのですか、昔の出来事を未だに引きづっているのだというのならその器の大きさは底が知れますね。」
ロングヘアーのエルフは反論する。
「ふん、昔の出来事を引きづっているだと?それは貴様も同じではないか。昔、この地に来た野蛮で薄汚い人間どもに自分の子を攫われて、家の隅でめそめそ泣いているのは何処のどいつだっけか?」
腕から太い血管が浮き出る程に女性エルフは力強く握り拳を両手に作っていた。
対する俺は何をすればいいのか分からないでいた。
いきなり火山に飛ばされたと思ったらモンスターに襲われて、満身創痍になりながらも自分の命を守るために抵抗して此処まで来たというのにまた命を狙われているのだから、頭が混乱するのは仕方ない事であった。
一体どうすればいいのだ??
それに話を聞いている限りだと、俺を殺そうとした長髪のエルフは人間を強く恨んでいる様だ。
子供を攫われた、と長髪エルフが言ってたけど、目の前にいる優しいエルフもそうなのであろうか?
しかし、見ず知らずの俺の事を助けてくれて傷まで癒してくれた。
彼女はそうでないと信じた。
だけど、これ以上彼女の厄介になるわけには、
プルプルと震える足を両腕で抑えながら立ち上がろうと、少しずつ腰を上げていく。
傷が少し癒えたお陰で立ち上がる所までギリギリ届いたのだ。
思えば、結構な距離を走って来たので体力的にも物理的にも既に限界が来ていた。
そんな身体を癒してくれた彼女には感謝だな。
「あなたは無理しないでいいのよ。」
「でも、」
「いいの、あなたはここで殺されるべきではないわ。こんなしょうもない事で殺させてたまるものですか、」
「で、でも・・・」
守ってくれるのは嬉しいし、俺の為に反抗してくれるのも嬉しい。
だが、そんな事をしたら彼女がこの地で今後生きづらくなる。
50m位ある巨大な樹木の広葉樹林の中で討論し合う二人のエルフ。
周りの太い枝に乗っている大勢のエルフは今も尚俺に矢を向けて発射体勢ばっちりの姿勢と構えでロックオンしている。
どうする!どうする!どうする!
考えろ!今俺に出来ることは何だ!
この場を切り抜ける良い作戦を、
極限の剣呑な雰囲気の中で思考を巡らす。
だがどんなに考えたって答えが出ないまま時が流れていく。
そんな時、俺を守ってくれている女性エルフがこの場の空気にそぐはぬ踏み込んだ発言をする。というか、その発言は俺への提案だった。
「あなた、私の家に来ない?」
「なっ!貴様そんなふざけた事が罷り通るとでも思っているのか!」
周りのエルフが激しく抗論してくる。
罵声を浴びせる者も居れば、怪訝な態度を取るエルフも居る。
しかし、このエルフは俺一人を助けるために無理矢理にでも押し通すつもりだ。
どうしてそこまで赤の他人の俺に優しくしてくれるのか、
「ね?どうかな。」
「確かにこの地の事は分からないし住む家が無いのが現状だけど、周りがこんなにも反対している中で住まわせてもらうのはさすがに厳しいんじゃ・・・」
「これは私の勝手な我儘。だから幾ら周りが抗論したとしても罵詈雑言を浴びせて来ても関係ない。これは私がやりたい事だから、」
俺は自分の目と耳を疑った。
こんなにもニッコリとした美しく可愛らしい笑顔でナチュラルにこんなことを言えるのだから、疑うのも当然であろう。
「・・・」
俺は悩む。
俺は考える。
俺は葛藤する。
命を救ってくれる、一時的にではあるが居場所を提供してくれる。
しかし、エルフ達は俺のことを殺そうとしてくる。
理由は不明だが、
俺の助かりたい気持ちと眼の前のエルフに迷惑を掛けてしまう思いが対立する。
このまま断っても多分このエルフさんは俺の事を諦めない。
迷わず手を差し伸べて来るであろう。
何度でも何度でも、
そんな感じがする。
俺は結論が出せないまま唸る。
答えが出ないまま時間だけが過ぎていく。
そして、長い長い思考の末に出た答えとは、
「・・・お邪魔してもいいんですか?」
「勿論。」
俺は笑顔が素敵な女性エルフの厄介になる事にした。
当然迷惑になってしまうのは分かってる。
最悪血を流す事にまで発展してしまうかもしれない
でもセラフィーたちと会うまで俺は死ぬわけには行かない。
それに、ここがスンの故郷なら聞きたい事もあるし興味もある。
だから俺は生きる。
生きるよ!!!
どれだけ醜く泥にまみれたって這い進む覚悟を決めて生き抜いてやるよ!
「ふん!まぁ今回は俺も狩りとかで疲れた。だから今回は大目に見てやるがこんなことがいつまでも続くと思わない方が良い。」
長髪エルフは皆を引き上げさせて撤退していく。
それから俺は庇ってくれた心優しく勇敢な女性エルフの後を雛のように着けて行き、彼女の家にご招待された。
エルフの家は皆デカい樹木の中に住処を作る。
これは外敵が襲ってくるのを減らす為であり、身を守る為にする行為。
実際、樹の上で生活すれば安全である。
「さぁ此処よエマ。入って入って!」
「はい、、、」
俺は扉を開ける。
すると内装は樹木と一体化しているからか、植物などが俺の視界いっぱいに派手に映ってくる。
緑の要素も合わせれば家の中に草原があると思わせるくらいの驚きがあった。
「おおお!凄い!こんな家初めてだ。へぇ~~~~。床が畳やフロアタイルみたいに人間が構築するような作りじゃなくて草原みたいに草がふさふさしている足場なのか。部屋の中が緑でいっぱいだ!!それから・・・・・」
俺は素直に感心した。
始めて見る異種の家と内装。
この独特の異世界感醸し出す要素と構築思考が俺の心を高揚させる。
さっきまでのアワアワしていた態度が嘘のようだ。
「お腹減ったでしょ?急いで作るから待っていてね。」
「はい、」
いや~~、いい所だなそれにしても。
彼女の回復魔法のお陰か傷は全て塞がり表面上の痛みが止まった。
筋肉の痛みや疲労と言った傷は消せない様だが、大分楽になった。
完全に回復したらお礼しないとな、
料理が出来るまで待つこと10分。
ダークオークで作られたのか、暗い色をしたテーブルの前に料理が運ばれてくる。
それぞれ、スープ、サラダ、木の実。この三つだ。
「あれ?これだけ・・・」
「えぇ、驚いたでしょ。エルフはみんなベジタリアンなのよ。お肉とか魚を食べないのよ。別に食べられないわけじゃないんだけどね、」
「そうなんですか、」
料理が運ばれてきたので席に座りフォークをもって早速実食する事に、
うん!美味しいなこのサラダ!
瑞々しくてシャキシャキしてる。
歯ごたえもいい感じだし筋肉酷使し過ぎた体に染み渡るわ~~~。それ以外の野菜も新鮮な野菜と思わせるくらいに美味しいし、
スープだってあの孤児院で出された質素なスープと比べたら全然美味しい。
具に歯ごたえの良い野菜やキノコを入れているからしっかりと旨味が凝縮されてて喉に流し込むほど口が幸せな気分になる。
最後にこの深紅の木の実を食べれば、
「あ~~ん。」ぱく
あま~~~~~~~~い!!!
あまおうに練乳でもかけたのかってくらい甘い!
これは市場で売ったら利益がウナギ登りになる事間違いなしだ。
まさに究極の実。
疲れが全部吹っ飛ぶくらいのインパクト!
俺は全部残さず綺麗に平らげた。
ドレッシングとか一切かけずにこの美味しさ。素晴らしい。
「美味しかったようね。嬉しいわ!」
何かさっきまでの暗い雰囲気が晴れてよかった。
主に俺が核だったんだけどな。
「じゃあ今夜はもう寝なさい。そして明日はしっかりと元気な姿を見せてね。」
「はい!あと、」
「何かしら、」
「あなたのお名前聞いていいですか。俺はエマって言います。」
「私はケーラ。ケーラ・アレイヤよ。」
ん?アレイヤだと?
どこかで聞いた名だな。
確かその名は・・・・・・・あ!もしかして!!
俺はとんでもないことを想起した。
なので勇気を振り絞って聞いてみることに。
もし違ったら違ったらでいいが、これがホントに事実だというのなら何という運命のいたずら。
乱数の神様に感謝だな。
もし神社があるのらな札束をお賽銭箱に入れてお礼をしてあげたい気分だ。
「あの、つかぬことをお聞きしますが・・・」
「???」
「もしかして、スン・アレイヤさんのお母様だったり?します。」
俺は引き攣った顔でそう問うた。
そして一番気になる美人エルフの反応はと言うと、、、
「し、知ってるんですか?家の子の事を・・・」
「えぇ、ここに来る前に普通に喋ってましたから。」
どうやら反応を見るにビンゴだったようだ。
いや~まさかこんな奇跡の出会いがあるんだな。
するとケーラの顔色が希望で満ちた顔をしていた。
両手で口元を覆い隠し、瞳をウルっとさせながら涙を流す。
その表情を見るに、あの顔面凶器エルフとの会話の合間に出てきた、攫われた、という単語と醜い人間が襲ってきたというのはどうやら事実らしい。
攫われた娘はスン・アレイヤで間違いないようだ。
親の顔をしている。
「あの、娘は何処に居るんですか!今どこに!!」
息つく暇もない疾風怒濤の懇願をしてくるケーラ。
どの位の期間離れ離れであったのかは知らないが、相当心配している事が伺える反応だ。
「それが俺にも分からなくて、俺が前いた場所はこんな巨大な樹木が無い比較的安全な町だったんですけど、どういう分けかモンスターが現れて、そして戦った末にビーム攻撃を食い気付いたら見知らぬ場所に居たんです。
周りを見ても誰も居なくて、正直自分でもどうしてこんな所に居るのか分からないんです。
でも、俺が今無事に生きてるって事はスンも必ず生きているという証拠になると思います!」
「そう・・・・・・ですか。」
ケーラは肩の力を落としてしょんぼりとさせた。
余計な事を言ったかな?という罪悪感はあるものの、ケーラは穏やかな顔で「娘をよろしくお願いします」と言ってきた。
何をお願いされるのか分からないが、ここは丁寧に返しておこう。
「えぇ、任せてください。絶対に俺が生きているってことはスンも生きてるはず、世界中を回ってでも必ず見つけてはここに連れて来るのでドッシリと構えていてください!・・・そして皆も、」
俺は自信満々にケーラを安心させる言葉を言ってあげた。
するとケーラは今の言葉を聞いてずっと抑えていた、娘が殺されたんじゃないのか?という可能性から解き放たれて感涙の涙を流した。
安心したのだろう。
そして今夜はこの家のふかふかベットでぐっすりと熟睡した。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
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これからも頑張っていきます。