第13話 迷子の迷子のアルフィー探し②
「案の定一人で薄暗い路地裏に入って来ちゃったけど、今になって引き返したい気持ちが溢れてきた。考え無しに入った結果がこれか~、でも分かってた事だし、例の金髪ちゃんを見つけたら暫く様子見しよう。そうしよう。別に怖いとかじゃなくて単に隙を窺うために・・・」ブツブツ
一人路地裏でブツブツ呟いている俺は客観的に見たら完全に変人であった。
歳を取るにつれて独り言が増えて行くかの如く、ブツブツと呟く。
その場の勢いで来てしまった事に若干の後悔と焦りを胸に抱きながら、更に奥へと進む。
すると、陽光が建物の影響で遮られて影の面積が増えていく。
それと同時に人々の声も遠くなってきて、静寂の世界へ、
道端にはネズミやらゴミが一塊になっている物体、チラシやそこら辺にある屋台の食いかけであろう食べ物などが色々散漫していた。
不衛生の道だ。
「少年の話によればこの路地と言う話だったが、特に何もないんだよな~。もしかして俺嘘つかれた?」
中々金髪ちゃんが見つかるどころかおじさん一人見つかってないので本当に居るのかどうか心配になってきた俺は「一回戻ろうかな。」と一言小さく呟いて足を止め、回れ右をして来た道を引き返そうとしたその時!!
「おいおい、大丈夫なのか?ボス」と声が聞こえてきた。
まだ若い男性ボイスだ。
何だ?
声が聞こえてくるぞ・・・
俺は耳を澄ます。
「あ?何だよお前。何か不満でもあるのか?」
「い、いえ。決してそのような事は、」
「だったら黙ってとっととずらかるぞ。お前らもそれでいいな野郎ども。」
「押忍!了解でありますボス!」
「馬鹿野郎!大きな声出すな!見つかるだろ!!」
「ボス、あなたが一番大きな声出してます。」
「・・・・・・・・馬鹿野郎。」ボソッ
なんだあの集団。
チンピラ?の集まりみたいな、
とにかくあいつらが例の金髪ちゃんを攫った奴らに間違いなさそうだな。
なんか悪い感じするし。
路地裏の更に奥。
全く日が射さない壁と影に覆われた小さな広場みたいな所に如何にもって感じの悪そうな集団がいた。
直径10m、幅6mの長方形をしている。
ボスと言われているその人は、何かをぎゅうぎゅうに縄で縛ってマンホールみたいな所に突き落とした。
集団もそれに続く。
何やらヤバイ光景を目にしてしまった予感、
これは知らせるべきか否か。
暫く考えたところ、俺の頭の中に二つの選択肢が現れた。
一つ目は、大人たちに俺の助けの声を聴いてもらい、あの集団を捕まえてもらうこと。
二つ目は、自力であの集団を追いかけて尾行すること。
もし、あそこにアルフィーがいたならばバレずに回収する案だ。
結果、俺が選んだ方としては二つ目だ。
理由は単純明快。
ここで行かないと見失ってしまうからだ。
それに、応援を呼んでも子供一人の助けの声も聞いてくれない可能性もあるし、助けを呼びに行っている間に見失ってしまうからだ。
人間みんな親切と言うわけじゃないし、ここは行くに限るであろうと、
主な理由としてはこれらだ。
だから俺はこっそりと怪しい集団がマンホールらしき所に入って行った事を確認した後、足音を立てずに忍び足で近づいた。
「全くアルフィーめ、いったいどこまで行ってるんだ。見つけ出したらルイ達に注意してもらわないとな。まぁその前に俺が怒られそうだけど。」
え~と、確かこの辺りから下に入ったんだよな。
じゃあこの蓋を開けてっ、ふんっっっっっっっと!重っ!
よくこんな思い物を一人で開けられたものだな。
自分の非力さに苦労するよ。
とにかく中身は、う~~~~~わキタナっ!
随分と汚れた所だけどホントにこの中に入ったのか・・・
マジか、この中に入るの俺!?
決めたのは自分だけどさすがに抵抗あるぞ・・・
愚痴をべらべらと言いながらも微かに臭うものが俺の鼻腔を刺激する。
まだマンホールの中に入っていないとはいえ、此処は地上だ。
だが、鼻の機能を敏感に反応させるという事はそれだけ刺激臭がプンプンするという証明に他ならない。
全くどれだけ臭いんだよ。
ここ地上だよ?
マンホールの奥は路地裏より更に深くて暗い深淵の世界が辺りを支配する闇の世界だ。
正直行きたくない。
入りたくない。
でも、ここまで俺が頑張っているのは全て、アルフィーを見つけ出す、というただ一つの目的の為である。
それに今更引き返しても後悔が残るだけ、
だから俺は進む決心をした。
だが、何も見えない。
異世界のマンホールは底が深すぎる。
俺、前世でもマンホールの中に入ったことないのにまさかまさかの異世界で初めてマンホールの中に入る事になるなんて誰が予想できようか。
なんか複雑な気分なんだけど。
・・・とにかく入るか、
「よっと、」
覚悟を決めて穴に入る。
その中身は予想通り昏々としており、何も見えない。
なので俺は、簡単な火魔法を使って掌に火を灯し、暗闇の世界に明かりを着ける。
左手で梯子をしっかりと掴んでは落ちない様にズルズルとゆっくり降りていく。
そして降り立った。
梯子を降りた先にはもちろん下水道があった。
予想通りである。
泥水より更に濃いドブ色の汚水が渓流の様に優しく流れている。
「分かっていたけど臭い。鼻つまんでも臭いが奥まで来やがる。あんまり喋らないようにしよう。」
分かっていた事だとしても下水道の中をこれから進まなければならないと思うと、身を引きたい感情で盛り沢山だ。
言葉では言い表せないような臭いが俺の全身に纏わり着く。
喋るだけで口臭がするような感覚や、嗅覚がバグるレベルのキツイ刺激臭が鼻から入り、そこから俺の肺いっぱいにワインの様に注ぎ込まれる。
俺の体内まで侵される!!
服に臭いが纏わり着いたら後でルイ達になんて説明しよう。
「下水道に行っていました」なんて絶対おかしいし・・・なんかおかしい!
とにかく!あのおじさんたちを尾行しなければ、
でもそしたらこの火は目立つな。
・・・・・・後でいいかそんなこと、
俺は黙っておじさん達の後を着けていく。
もっとも、俺が下水道に入った頃にはおじさんたちの姿は俺の視界から消えていたけど、
ったく、どこ行ったんだ?
早く用事済ませてこの臭い空間から一刻も早く逃げたいというのに、
カツカツ、と歩行音が響く。
ここはコンクリート?の壁で囲まれた下水道空間だから音が反射して俺の足音がよく聞こえる。
これ大丈夫だよな?
この足音で敵にバレたらたまったもんじゃないけど、
でももし、この足音でバレたらダサすぎるぞ。
ちゃんと歩き方にも気を付けないと、
ということで、辺りに歩行音が届かない様に歩き方を変える。
歩く際に、流れる様な滑らかな動きで踵から地に着け、そこからつま先までゆっくりと足の裏を地面へと接触させて行く。
すると、カツカツ音が消えて無音の状態で歩くことに成功した。
それからは、不安要素を抱え込みながらも刺激臭と戦っては順調に道を歩く。
そして、
「おい、此処にぶち込んどけ。」
「了解であります。ボス。」
ん?ボスだと。
さっきの奴らがこの辺りに居るのか。
俺がおじさん達の後を追っている最中に遠く方から声が聞こえてきた。
どうやら声を聴く限り、あの時逃げたおじさん達であっているようだ。
「きゃー--!やめてー--!」
「いやー------!」
「うっせいぇぞこのガキ!」
「おいそこのガキを黙らせておけ。」
「了解でありますボス。」
ガキだと?なら尚更アルフィーである可能性は高い。
しかし、あの叫び声からするとアルフィーじゃなさそうなんだよな。
でも子供の悲鳴が二人?位あったし、他にも子供たちがいそうだな。
そしてもし、その中の内の一人がアルフィーならば尚のこと行かなければ、
しかし、この声がする方に進んでいけばまず奴らと八合う事になるだろうが、今の俺では到底真正面からじゃ勝ち目が薄そうなんだよな。
だって向こう複数だし、
このまま馬鹿正直に突っ込んだと仮定して、その後の事を皆で予想して見ろ、
魔法を使って痛めつけられ、殴る蹴るの暴行で俺の意識はこの世からおさらばすることになるかもしれないだろ。
まだこの世界の住人の平均的な強さを知らない。
だからまずはおじさん達がいない時を狙い、そこから助けだして脱出するしかない。
大体頭の中で考えられる事を思い付いてはその情報を整理して、やるべきことを明確にしていく。
いざという時の為に備えて損はないからだ。
「よし、俺は此処でこのガキどもを見張っているからお前らは外の様子を見てこい。もし後を着けられでもしたら重大だからな。」
「了解ですボス。」
ガシャアアアアアアン!
ん?何の音だ?甲高い音が聞こえたぞ。
それも音からすると結構近い距離だな。
もうすぐか目的地か?
う~む、それにしてもあの音を聞く限り金属的な何かかな?
・・・・・大方牢屋とかだな。
向こうには子供が居るし、
ならば子供たちは今囚われていて、さらにさっきボスと呼ばれていた人が見張っているとか言っていたから十中八九子供たちの傍にいるはず。
子供たちを助けるにはボスをどうにかしなければならいのか・・・・・。
厄介と言うか、面倒くさいというか。
なんかアルフィー一人を探すために何故こんな事件の臭いがプンプンする事に首を突っ込まなければならないのか。
俺は深い溜息を吐き、引き続き前へと進む。
すると足音が聞こえて来た。
複数の足音だ。
俺の足音ではない。
此方に向かって来ている。
多分ボスの部下らしき人達の足音で間違いないだろう。
マズいぞ、ここはT字路だ。
音がする方角的に俺の真正面から来ることは分かっている。
だが、隠れるとなると一回戻って脇道に逸れなきゃな、
部下たちが来るであろう通路から脇道へと移動して身を隠す。
掌に灯った火を消して静かにやり過ごす。
心臓の鼓動音がすごいんだけど。
めっちゃドクドク言ってるんだけど。
大丈夫かなこれ。
聞こえてないよね。
気を張り詰めている俺は、鼓動音が他方に聞こえているんじゃないかという可能性を捨てきれない程に心臓が爆発しそうなレベルで高鳴り、左手で心臓がある場所をギュッ!強く握る。
タッタッタという音が下水道の中に響き渡る。
距離が近づくなって行く度に緊張感と身が引き締まって行く。
明らかにその音を聞くと複数、10人はいそうな雰囲気だ。
暗い空間の中で鳴り響く靴音。
一人で耐え忍ばねば、戻ることも助けることも出来ない。
此処で見つかったら即ゲームオーバー。
捕まって連行されるか、殺されるかの二つの選択肢の内一つ。
俺は今T字路の右側に居る。
もし部下たちが右側に来たならば俺は終わりだ。
身体を丸くして、闇と一体になり、無駄な音を一切立てない様に息も殺す。
念のために、
それだけ俺も見つからない様にするため必死だったのだ。
ドクドク ドクドク ドクドク
カツカツカツ カツカツカツ
ドクドク ドクドク ドクドク
カツカツカツ カツカツカツ
ドクドク ドクドク
カツカツカツカツカツカツカツカツ・・・・・・
ドクドク ドクドク ドクドク
カツカツカツ カツカツカツカツカツカツ
ドクドク ドクドク ドクドク ドクドク
カツカツカツカツカツ・・・・・
それから、足音が通り過ぎるまで数秒が経った。
次第に足音が遠のいて危機が通り過ぎていく。
見事耐え忍ぶことが出来たのだ!!
肺の中にはもう酸素の残量が0%になっており、本当に命ギリギリの状態で一人静かに戦っていたのだ。
死ぬかと思った!!
俺は臭い空気を肺いっぱいに取り込んで静かに息を整える。
それにしても、あんなに人数が居たのか、
俺の予想では6人くらいなのかな?と思っていたが、思ったよりも人数がいた。
一時的な危機は去った後はボスが居る所まで行くわけだから、これまで以上に慎重に慎重に行動しなければ、
ミスが無いようにな、
それに、ボスと言われてるくらいだから強いのは当たり前だよな。
一対一で勝てるほど甘くない世界だという事は十二分に理解している。
王道のファンタジー系主人公のワールドみたいにご都合主義が発生する事は滅多にないし、そもそもそれが現実なのだ。
魔法がある世界でも無い世界でも、
俺の中で気持ちが整理出来てやるべきことが明確になった以上俺は迷わないが、それでもまだ心臓の鼓動音が高鳴る。
緊張しているのだ。
だが、緊張しているから敵さんが手加減してくれるわけではない。
なので俺は腹を括って立ち上がり、更に奥へと進む。
全てはアルフィーを助けるために、
ここまで読んでくれてありがとうございます。
面白かった、続きが読みたいと思った人は評価をお願いします。
これからもよろしくお願いします。