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感謝祭前半!


 1年前と同じ日、同じ時間帯。天から見て2つの『0』が連なった形状をしたビルの中。そこに設けられた会場に、多くの人々が集まっていた。また宴が始まろうとしているのだ。


「皆様、本日は2周年記念パーティーにお集まりいただきありがとうございます。今年も司会進行を務めさせていただく、アデリーン・クラリティアナです。もうご存知かもしれませんが、本日で【アデリーン・ザ・アブソリュートゼロ】が連載開始から2周年を迎えました。その特別な1日を祝して、皆様と……かんぱぁぁ~~い!」


 青いドレスの眉目秀麗で豊満なスタイルの女性がスピーチをした後、グラスを持って祝杯の合図を送った。背景のスクリーンには、アデリーンが述べた作品のタイトルロゴと金色で2ND ANNIVERSARYと書かれた字体が並べられている。つまりそういうことだ。しゃべっている途中で適当に切り上げたようにも見受けられたが、その点は気にしたら負けなのだ。


「ここまでやって来られたのも、応援してくださった皆様のおかげです。ここからは、このパーティーを皆さんで楽しんでいってください。プロトタイプ版の皆様もどうぞ!」


 会場の扉を開けて、アデリーンたちとよく似た者たちが入ってくる。いずれも【初期案】の世界からやってきたのだ。登壇してからのスピーチを終えたアデリーンは、舞台を降りて親友である蜜月や虎姫、妹のエリスにロザリアが待っていた席へと移動する。


「無理にかしこまらなくてもよかったんじゃねーかぁ? 正直ネタも切れてきて困ってたろー」


「こらミヅキッ!」


「悪かったって!」


 金色のドレスをバッチリ着こなしてきていた黒髪に蜂蜜色の瞳の――蜜月(みづき)の軽口を叱りつつも、その顔は笑っており、アデリーンは親しき者たちと飲む前に談笑し合う。


「わたしもこうしてまたみんなに会えて嬉しい」


「私もよ。カタリナお姉ちゃん!」


 この記念すべき日に特別に蘇った義理の姉・瑠璃色の瞳をした金髪にワンピース姿のカタリナと言葉を交わすと、青髪で青い瞳の葵、赤い髪に紫の瞳の綾女(あやめ)や銀髪の虎姫(とらひめ)、その秘書で黒髪の磯村、紫がかった黒い髪の女医・彩姫(さき)、そしてメガネをかけた大学生くらいの少女らとも相席して、アデリーンは満面の笑みでグラスを掲げた。みんなドレスなどでおめかしをしていて、とても見映えがよかった。


「改めましてかんぱーい」


「今日は送迎してもらうから、飲め飲めぇ~」


「ところでその子は」


 蜜月が話の途中でメガネの少女のことを気にしてそちらを向く。前髪も後ろ髪も切り揃えてあり、髪自体は腰の下くらいまで伸ばしていたようだ。


「ああ! 実はね、かつては四聖獣……青龍に白虎に玄武に朱雀をモチーフとするアイデアがあったみたいなの。この子は玄武がモチーフのヒーローに変身する予定だったの」


「だいたいアデリーン様がおっしゃった通りなのですよ。エッヘンてっぺん!」


 アデリーンから紹介されたので胸を張って、メガネの彼女が微笑む。彼女やロザリアに葵はまだ酒は飲めないゆえ、ジュースやお茶をもらっていた。


「それでこのわたし、虎姫がブレイキングタイガーになろうとしてたわけだな」


「あたしが不死鳥と天使を足した感じに変身するのって、その名残りだった……ってことぉ!?」


「そうなのよーロザリア、ヒメちゃん」


 少しカッコつけた虎姫と、察しがついたロザリアがそれぞれリアクションする。アデリーンは、メガネの女学生の肩をそっとなでた。


「そんでメガネちゃんのお名前は……」


「それが名付けられる前に、プロトタイプ版はお蔵入りをしてしまって。蜜月様には申し訳ないのだけど、自分にはお名前などありません!」


「なん……だと……」


 蜜月も知らされていなかった衝撃の事実がそこにあった。


「【現行版】の世界のみんなの中には、あなたらしき人はいないみたい……。妙な話よね、世の中に自分にそっくりな人が2人、3人くらいは〜って迷信もあるのに」


 ざっくりとアデリーンが見渡した範囲内ではあるが、メガネの彼女にあたる存在は、その中にはいなかった。皆もどうしたものか悩んでいたが、蜜月はひらめいた。


「思いついたぞ。ちょっと中二の妄想くさいお名前だけど」


「それってどんな?」


 彩姫に訊ねられて、蜜月は少しわざとらしく考え込んでからこう答える。その前に葵にも上目遣いで見られて緊張したが、何とか振り切った。


「メガネちゃんよ。今日からあんたの名は……【水鏡(みかがみ)蘭珠(らんじゅ)】! 蘭の宝珠と書いて【らんじゅ】、これでどーだー」


 周囲の反応が薄い。スベってしまったか、と、蜜月が焦った次の瞬間だ。名付けられた少女が興味津々になったのは。


「蘭珠ですか……悪くない。むしろ100点満点……!」


 この喜びようは心からのものだ。もし、構想が途中で打ち止めにならなければ、蘭珠も両親から今とはまた異なる名前がもらえていたのでは? 彼女たちはそういった闇に触れてしまったことになる。


「よっしゃ! それじゃー、あっちでメソメソ泣いてる2人のデリンジャーくんにもあいさつしに行こう」


 かくして、現行版とプロトタイプ版のどちらにも出ていた(かたき)役――ドリュー・デリンジャーが仲間たちと飲んでいる席まで移動することに決まった。

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