表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/17

抜歯

 ボクは、ゆういち。5歳。下の前歯が一本、グラグラしてる。触ると抜けそうで痛い乳歯。今日それを抜くんだって。ママが笑いながら言ってた。「記念に取っておかなきゃ」とか言ってる。怖い。


「ねぇママー。どうやってとるの? 血とかでない?」

「ひもでくるくるして、ひゅって取るの。一瞬よ。死なないから大丈夫」

「ひぇ……」


 怖い怖い怖い。絶対痛いやつじゃんそれ! テレビでもやってた。そのあと泣いてたもん。絶対痛いんだ。嫌になったボクは、家出を決意する。大好きなおもちゃとお菓子。そしてお年玉の残りをリュックに詰めて、外に出ようと玄関へ行った。


 ――でも、


「ゆういち。どうして玄関に居るのかなー?」

「ギクッ」


 すぐママにバレちゃったよ。うぅ。受け入れるしかないのか、この残酷な運命を。


「キレイな歯並びになりたいでしょ。そのためには抜く必要があるの。初めての抜歯だから怖いだけで、慣れたら大丈夫。上手く抜いてあげるから♪」

「ノリノリじゃん……」


 確かに歯並びが悪いのは格好悪い。嫌だ。でも痛いのも嫌だなー。転んで出来た、擦り傷より痛いのかな。紙で手を切った時より痛いのかな。うぅ、想像するだけで背筋がぞくぞくしてきた。


 そして、遂にその時がやって来る。


 パパが仕事から帰って来て、一緒にご飯を食べた後。ママがビデオカメラの用意をしている。ボクは痛い目に遭う上に、カメラに自分の泣き顔を収められてしまうのか……。酷いや!


「さぁ、ゆういち、こっちに来なさい♪」

「やだ!」


 ボクは、ビデオカメラを回しているママの声に抵抗する。でも、リビングの机の上には、大好きな麩菓子が置いてあった。た、食べたい……!


「抜歯が成功したら食べて良いぞ」


 パパがそう言うものだから、ついつい釣られてしまった。下の前歯に括り付けられるヒモ。ガシッと掴まれる両肩。もういいや。どうにでもなれ!


「いくぞ。5・4・3……えい!」

「!?」


 フライングー! まだ心の準備がぁああ! ってあれ、全然痛くない。どっちかというと、グラグラしてた時の方がシクシク痛かったな。ちょっとだけ血の味がするけど。


「なぁにそのマヌケな顔~」

「もうママ、カメラ止めてよー」

「はっはっは、とりあえず口をゆすいで来なさい」


 泣かなかったのは良かったけど、ボクのポカーンとした顔はしっかりとカメラに収められている。ママとパパは「思い出だ」って言うけれど、ボクにとっては少し恥ずかしい経験だ。


 早く歯が生えてこないかなー。前歯が無いと格好悪いからさ。生えてくるまでマスクして居よう。歯の矯正してた子も、口元を隠してたもん。


 大好きな麩菓子を食べながらそう思ったよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 心の準備・・・ こういうときの母親は必ず裏切るんですよ、うんうん。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ