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反抗期

 娘が反抗期になった。辛い。俺の下着や靴下を一緒に洗ってくれないし、お風呂にも入ってくれない。いやらしい意味ではなく、娘の志保(しほ)と沢山のアヒルさんで遊んでいる時間が楽しかったんだ。うぅ……。涙が止まらん。


「もう、いい加減諦めなさいな」

千陽(ちよ)。俺嫌われたかなぁ」


 千陽というのは俺の妻。とても厳しい。最近小遣いも減らされた。口が立つ上にしっかり者だから、隙が無い。寂しくなった俺は、駄目もとで訊いてみる。

 時計の針は10時30分をさしていた。


「千陽。一緒にお風呂に入ってくれないか」

「何を言ってるのよ。私は家事で忙しいの。解るでしょ?」

「うぅ……」


 拗ねた俺は、何気なくテレビをつけた。キャスターがニュースを読み上げている。テーマは離婚についてだった。その場が一瞬で気まずくなる。洗濯物を畳んでいた千陽が、俺からリモコンを取り上げて、テレビを消した。


「めそめそしないの。志保の成長を見守るのが親の役目でしょ」

「そうは言っても、やっぱり寂しいんだ」

「あなたって人は……」


 俺のいじけた顔を見た千陽は、そう言うと「ふふ」っと笑い風呂場へ向かう。追い炊きの音声がする。それと同時に、ラベンダーの入浴剤の香りもしてきた。千陽の好きな匂いだ。これはもしかして、駄々こね成功か……?


「なぁ千陽。一緒にお風呂に」

「入るからお座りして待ってなさいな」

「……うぅ」


 俺は、犬のように瞳を輝かせて千陽が用事を終えるのを待った。楽しみだ! 楽しみすぎる! ひゃっほーう! 喜びのあまりに謎のダンスを踊っていたら、娘が扉ごしからそれをこそっと見ていたらしい。


「きも……」


 うわああ! 実の娘に言われるときつい。悲しい。でもなぁ、俺は憶えてるぞ。反抗期になる前は、「志保、お父さんと結婚する!」って言ってくれたことを。いつかきっと思い出してくれる。その時はまた風呂に入ろうな。いや、さすがにそれは無いか。


「母さんとお風呂入るんだが、志保も入らないか?」


 駄目もとで訊いてみる。


「何を言っているのよ。もうそういう歳じゃないの。解るでしょ」


 千陽とよく似た答え方。さすが親子だ。俺に似ているところはないかな。なんて思っていたところで、千陽が俺を呼んできた。


「お母さんと入るの?」

「羨ましいか」

「……別に」


 ん? 今確かに拗ねたような言い方をしたような。ラベンダーの入浴剤の香りが部屋いっぱいに広がる。俺は3日ぶりに家族と風呂に入る。一人で入る風呂は寂しかった。


「ワンちゃんみたい」

「そうだぞー、俺は犬だ、ワン!」

「きもいー」


 なんとでも言え。お前がいつか結婚式を挙げるとき、風呂の中で熱唱していたことをバラしてやるからな。ふふふ。

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