爆弾おにぎり
孫の真子はおにぎりが好きなのよ。だからいつも娘が我が家に孫を連れてきたときには、大きな大きな塩おにぎりを作ってあげるの。真子の顔くらいあるおにぎり。
ちょっと大きすぎたかしら? 自分で作っておきながら言うのも変だけれど、爆弾級ね。お腹壊さないかちょっと心配……。
「おっきーね!」
「おおきいねぇ」
あらあら、すっごく喜んでくれている。嬉しいわ。
娘はシングルマザーになって大変そう。手伝ってあげたいけれど、この歳じゃあね。働く事は出来ない。夫は、こんなにかわいい真子を放って、古くからの友人と釣りに出掛けるているわ。やーねぇー。
「いったきまーす!」
「どうぞどうぞ。ゆっくり食べるんだよ」
あらま、真子ったら一口が大きいわ。喉を詰めたら大変。麦茶をたくさん用意しとかないと。それにしても、リスのようなほっぺた。かわいらしいわ。冷蔵庫から見ても、ふくれほっぺがモゴモゴしているのがわかる。
(あらあら、もうこんなに食べて……)
わかっているのよ。日に日におにぎりが大きくなっていることが。真子のことを思うとだんだん大きくなっていっちゃうの。ちょっと他の子よりもふっくらしているのは私のせいかもしれないわ。
(でもかわいいのよねぇ)
私の祖母は、むかし食べ物に困ったそうな。それもあって、娘や孫にひもじい思いはしてほしくない。美味しいものを食べてすくすく育って欲しい。そんな私の気持ちは、最近だと虐待になっちゃうのかしら……。寂しいわね。
「ごちそぉさまー」
「あらあら、もう食べたの。凄いわね、真子ちゃん」
「むぎちゃのむー」
「どうぞどうぞ。いっぱい飲みなさいな」
真子がゴクゴク音を鳴らして麦茶を飲んでいるわ。指や頬に米粒を沢山つけながら。この光景を見るのが生きがいみたいなものなの。私の存在意義を感じるのよねぇ。
娘からは、
「あまり甘やかさないでね」
と言われているけれど、
「おばっちゃだーいすき!」
この一言が有ったら、ついつい忘れちゃう! もう、かわいいんだから。
「だから、もういっこ。ダメ?」
あらあら!
あの爆弾おにぎりをもう1個食べるですって!? さすがに娘に怒られてしまうわ。でもどう言えばいいかしら。嫌われたくないわ……。どうしましょう。
「えっと、あのね、真子ちゃん。お米には神様が宿っていて、おにぎりを結ぶのには、たくさんの祈りを込めないといけないの。お米だけにね。でもさっき大きなおにぎり作っちゃったから、おばっちゃの力が足りないの。ごめんなさいね……」
思いついたことをとっさに話してしまったわ。孫は不思議そうに首を傾げて、綺麗なまなざしで、
「じゃあ、まこのちからもあげるー!」
と言ってきたの。そんな目で見られたら、もう……!
「わかったわ! 真子ちゃんの力で、おばっちゃあと少し頑張る!」
「がんあれー」
両腕を振り上げて満面の笑みを浮かべる真子がかわいい。かわいいんだから仕方がない。これはどうしようもないのよ!
娘へ。
ごめんなさいね。孫には敵いません。母より。