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同調

 俺は今、映画館に来ている。学生割引ってなんか良いな。と、チケットを見ながら思っている。まぁ、私立の大学だし学費から引かれてるって思ったら負けか。

 いや、逆に考えろ。美術館や博物館などの施設が無料や半額で利用できるのは、すごく得じゃないか?


「上映は4番スクリーンにて行われます。足元にお気を付けてください」

「はい」


 考えているうちに、チケットを切って貰っていた。A席のど真ん中に座る。正直この映画は、観たいと強く思って観に来たわけではない。


 ただの暇つぶしだ。


 どうして俺が一番前の席に座るかと言うと、誰ともすれ違わなくていいからだ。首は上を向きすぎて少し痛くなる。だが、なぜか人というものは、前の席に座るときは礼儀正しくある傾向がある。俺調べだ。


 実は一番観客を俯瞰できる席は一番前の席だったりする。実際、横に居るカップルは大人しい。俺の前を通るときも、丁寧に会釈をしていたからな――


 長い映画の予告が終わり、いよいよ本編が始まろうとしていた。劇場が暗転する。この瞬間が結構好きだったりする。今から違う世界に入る準備。


(む、ポップコーンの音がする……)


 一人がポップコーンを食べたら、パリポリと乾いた音が連続して続いた。後ろの席からだ。まるでキャベツを食べている小動物のようだと思った。


(なんだかなぁ)


 ちょっと気になった俺は、わざと緊張のシーンで小さく咳をして見る。すると、今まで静かだったのに、コンコンと、どこからか咳がこだまして聴こえてきた。


 正直言うと、ちょっと楽しい。これが、同調ってやつか。


(ここで大笑いしたらみんな笑うのか?)


 いや、しないが。気になる。

 誰か……、子どもでもいいからキスシーンで指さして、「あれなぁにー?」って言ってくれ……。というかこれ恋愛映画だったのか! タイトルからしたら歴史ものだと思っていたのに。やられた。


(気まずい)


 今度は何だか劇場の雰囲気がピンクというか、そういう色に染まっていく感じがする。頼む、俺をここから抜け出させてくれ! 横のカップルの男。彼女と手を繋いだままこっちを見るな!


(なんだ! 俺が一人で恋愛映画観るのがそんなに変かよ)


 威嚇するように腕を組んだら、カップルに笑われた。気がする。あぁ、マジで無理。終わったら速攻で家帰って寝る!


(俺も彼女欲しいなぁ……)


 あ、あれ、俺も同調してるくね? あぶねっ!

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