親友
俺の親友、田中。最近失恋したらしい。もう俺ら30過ぎたオッサンだ。こんな年齢なんで、そろそろ結婚も考えていたという。どう声をかけて良いかわからなかったから、コイツの家で戦闘ゲームをして遊んでいる。
遊んでいるというか、コントローラーを握りしめているだけの田中を俺が、ゲーム上でボコボコにしている状態だ。
休日を田中のために潰すことは苦ではない。むしろコイツが居ないと面白くないからな。だから今回、田中が振られたと聞いたときは、内心ガッツポーズをしていた。
「なぁ、天野。俺のどこがいかんかったと思う」
「うーん……」
落ち込んだ顔でこっちを見るな。とか思いつつ、掛ける言葉が無い俺は、
「なんやろなー」
そう返した。
「ホンマ。なんやろな……」
田中も、ボーっとした顔で全てを失ったかのように呟く。落ち込んでいる時に、「めそめそするな」とか「次がある」とか言ってしまうのは、何だか違う気がする。
落ち込んでいるのなら、ただ話を聞いてやろうじゃないか。それだけでいい。今の俺の役割はそれだ。
昔、俺が大学生の頃、両親の不和のときに相談に乗ってくれた田中だ。荒れていた時に唯一コイツだけは俺の側から離れなかった。
「なぁ、天野。人間って何なんやろうな」
「確かに。何なんやろうな」
俺の答えに田中は、怒るでもなく呆れるでもなく、泣き出す。正直俺も動揺しているが顔には出さない。人間とは何なのだろう。そんなこと知るか。
放心状態の田中を見ながら、
「そうや。近くに美味しいカツ屋できてんて」
そんなことを言ってみる。
「マジかー。すげぇな」
何がすごいのかは分からないが、田中の中ではすごいのだろう。「食べに行こう」と誘った。田中は、「そうやな」と答えた。
「今日は俺の失恋日や。奢ってくれへんか」
「マジかー。今月ピンチやねんて」
「ええやろ、それに言い出しっぺはお前や」
「都合のエエ奴やな」
二人でダウンジャケットを羽織って外に出た。チャリンコに乗って、坂道を上がる。家で鬱屈としているよりかは幾分マシだ。何より、親友と食べるカツは、料亭の味よりも旨いからな。
知らんけど。