それぞれの課題
体にかかる20キロの負荷が身体の自由を奪う。
シャクナゲに支給された服には付与魔法がかけられている。
服を着ているだけで自分を取り巻く重力が20キロプラスされるのだ。
さらにスキルと魔法を使ってはいけない、武器を携帯してはいけないとの条件付きなのだから気が滅入る。
普段ならば簡単に登り切れる山にもピピナとニックは苦戦していた。
何時間掛っただろうか。やっとの思いで山頂の小屋に着いた頃には太陽は頂点に昇り掛けていた。
「はぁはぁはぁ。マジで地獄じゃんね。はぁはぁこれは辛すぎじゃんよ。もう魔法使ってよくね?」
「馬鹿者。シャクナゲの事だ。スキルや魔法を使えば必ずペナルティーがかかるに決まっている。今は従い課題をこなすしか無い。少しはその軽い頭を使え馬鹿者」
「ピピナっち毒舌すぎるっしょ!! とりあえず小屋の中に入るじゃん!」
2人は息も絶え絶えになりながら小屋の扉を開けて中に入る。
中には二枚の折りたたまれた紙がテーブルに置いてある。それぞれの名前が書かれており、開いて中を見る。
――ニック
これより3日間小屋の前で飲む事、食う事、寝る事を禁止する。小屋の裏に魔法陣がある。そこの中で座禅を組み瞑想を続ける事。尚、失敗は冒険者ライセンス剥奪とする。
――ピピナ
ここより北の方角にある標高2000メーターの岩山頂上に巣くう、絹鳥の卵をギルドに持ち帰る事。
場所は地図を参考に。尚、失敗は冒険者ライセンス剥奪とする。期間はこれより5日とする。
「なんて悪質な課題じゃん!! 動くなって俺っち一番苦手じゃんね!!!」
「絹鳥の卵…確か泡のように割れやすい卵。この試練それぞれの苦手をしっかり捉えているな。多分先に出たソーマにも同じような試練が与えられているのだろう。悔しいがシャクナゲの目は本物だな。まぁいい、私は早速向かう。ニックもしっかりこなせ」
ピピナは小屋を出て行った。
ニックも小屋を出て裏手に回る。小さな魔法陣を見つけた。
「動くな…俺っちには地獄じゃんね…はぁ…冒険者って過酷すぎじゃんね…」
渋々魔法陣の上に座り座禅を組む。
すると魔法陣が光だす。そして次の瞬間、ニックは違う場所に飛ばされていた。
「転移魔法陣じゃんね!? ここは!? 」
周りを見て愕然とした。自分が今座っている場所は平らな岩の上。だが微妙に揺れている。ギリギリバランスが取れた1人が座っていられる岩に移動させられたのだ。しかも周りを見ると空中に居るように見える。多分この座ってる岩は現在バランスを絶妙に取っているだけで少しでも動けば谷底に落下する仕組みだろう。岩の下でわずかに何かに引っ掛かっている、そんな状況だと推測できる。最悪な事にこの岩にはアンチ魔法が付与されている。体に流れる魔力が乱されている感覚がある。つまり岩が落ちても魔法を使って脱出する事が出来ない。
多分時間になれば元の場所に移動できる仕組みなのだろう。
「おいおいおい、冒険者ライセンスどころか命剥奪されるじゃんね!! あの性悪女!!」
声を発するだけでも岩がぐらぐら揺れる。呼吸も整えなければ簡単に落ちてしまうだろう。
恐怖が身体を硬直させる。静かに深呼吸して落ち着きを取り戻す。
(絶対生き残ってやるじゃん!)
ニックの長い3日が始まる。
そのころピピナは岩山を登る。標高が上がるにつれ酸素が薄くなり呼吸が辛くなる。
脆い足場は雑に登ると崩れピピナを転落させようとする。
低酸素、最悪な足場、圧し掛かる重力魔法。三重苦がピピナの心を痛めつけていく。
「くっ、なんだこの足場は。木々が生えていない分楽だと思ったが逆じゃないか! 早く歩く事すらままならないとは。体力の消耗も激しい。クソ。水分を確保するべきだった」
草木が無いため太陽が直に照り付ける。もう少し時間が経てば日も沈み多少はマシになるだろう。
滝のように流れる汗が身体の水分を抜いていく。
「ダメだ。このままでは脱水症状で死ぬ。一旦山を下りて水分を確保するしかない。くそ! 魔法さえ使えれば…」
諦めて下山するピピナ。その判断こそが正解なのだ。無理をすれば死ぬだろう。この試練でピピナは猪突猛進の性格を自らの意志で自制する事が出来た。だが本当の課題はこの先にあるのだ…
相馬はニックとピピナの苦労など知る由もない。淡々と日輪草の捜索を続けていたが、日輪草は簡単に見つける事が出来た。
「よしよし、後は帰って終わりだ。まだ1日半猶予がある。のんびり帰ろう」
冒険者ギルドを目指して山を下る。今いる場所は山脈のかなり奥に居る。ゆっくり帰れば24時間程度で着くだろう。
山を降り谷間を下っていると突然上流から”ゴゴゴ”という激しい地鳴りが聞こえてきた。
慌てて音の方を見ると土砂崩れが相馬めがけて襲ってきていた。
「おいおいおいおい! 雨も降ってないのに土砂崩れかよ!!! 」
慌てて走り出すが土砂崩れの速度は速い躱すにも逃げ道がない。もうダメかと思ったその時山の中に洞窟を見つけ慌てて飛び込んだ。
次の瞬間入り口の前を土砂が轟音を立てて通過していく。
その過程で洞窟の入り口も塞がれてしまった。
そのころ山の上では怪しい人影が相馬の動向を観察していた。
「とりあえずは第一段階は終了だねぇ。対象は無事僕らの作った洞窟に入り込んだねぇ」
「ちょっと土砂崩れはやりすぎな気もするけどぉ。シャクナゲ様に怒られないかな?」
「大丈夫大丈夫! 殺す気でやっていいって言われてるし!」
「意味が違うと思うよぉ~もう黒はやりすぎだよ~」
「うるさいぞ白。上手く行ったんだから次行くぞぉ!」
黒装束の2人は登っていた木々を軽快に降り、相馬が逃げ込んだ洞窟の入り口に移動した。
「それじゃ行くぞ! 白、俺に触れてろ!」
「我らが神よ。行くてを阻む大地を抜ける力をお与えください【大地を泳ぐ】」
2人の体が地面に”ドボン”と沈む。地面の中を水中を泳ぐように進みだした。
洞窟の入り口を悠々と泳いで通過し、洞窟内へと侵入した。
「解除するぞ! 魔法解除!!」
白と黒の体が地上に浮き出る。
「白、今度は【透明化】の魔法を掛けるからね! 我らが神よ。光を嫌い闇を好む。姿を消し去り闇に溶かせ【透明化】」
2人の姿は完全に消え去った。
「白! 無音かけておいて!」
「おっけ~! 【無音】発動! 黒~3メートル以上離れないでね~ 」
2人は相馬の後を追いかけて行った…
☆☆☆現在の相馬情報☆☆☆
{残金46,421リーン}
{預金36,420リーン}




