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冒険者1次試験

緊張しているはずなのに不思議と心は穏やかだ。窓を開け新鮮な空気を肺いっぱいに取り込む。

身体の隅々まで酸素が行きわたる。体温が徐々に上がり動く準備が整う。

少しストレッチをして柔軟性も取り戻す。


時間はまだ猶予がある。少しゆっくり支度を整える。

一階に降りて朝食を注文する。

目玉焼きに、パン。簡単なサラダにジャガイモのスープだ。

お腹を8分目くらいに満たし宿を後にした。


大人になっても試験は緊張する。だが、ワクワクもする。試験会場に近づくにつれて鼓動が速度を上げる。遠くから見ていてもかなりの高さだったが、近くで見るとさらに高い。

首を後ろに折り曲げないと天辺まで見えないほどだ。


そんな建物の周りには1000人ほどの冒険者志望の強者が集まっていた。

辺りを見渡してニックとマルクを探す。だが人数が多すぎて簡単には見つけられない。


「2人も集中してるだろうし今はいいか。俺も他人に構ってる場合じゃないよな。とにかく集中集中!!」


頬を両手で”ピシャ”と叩き気合を入れる。頬に伝わる痺れが意識を試験だけに集中させてくれた。30分程瞑想したりストレッチをしたりしていると城壁の門が閉じられた。そしてギルドの扉が開き3人の人物が中から現れた。


そして真ん中にいる中年の男性が大きな声を上げて冒険者候補の注目を集めた。

「試験に挑む者達よ。我が名はエルバラン。この地を管理しギルドを統べる者なり!」


その声に冒険者たちは静まり、自然とエルバランの周りに集まった。

英雄の子孫だというのは肩書であり、本人の実力を表すものではない。

だが、本人を前にして実力を疑う物は間違いなく居ないだろう。

それほどに威厳と風格がにじみ出ていた。船で見た冒険者よりも数段実力が上だと分かる。

今この場にいる1000人近い受験者が一斉に襲い掛かっても返り討ちにされるだろう。

エルバランは受験者が集まったのを確認して再び話を始めた。


「今日は良く集まってくれた。先に伝える事がある。この試験では死ぬこともある。死にたくない者は城壁の門へ行け。今なら辞退を認める。30秒待つ」


受験者は誰一人動くことは無い。死ぬのが怖い奴に冒険者は務まらない。


「ふむ。それではこの場の全員が同意したとみなし早々に試験を始める。この中の1人でも試験を通過する事を願う。ではこの2人の指示に従え。また最終試験で会おう」


エルバランはマントを翻し再びギルドの中へ戻っていった。

エルバランの横に居た二人の女性が話を始めた。


「私たちが1次試験の会場をお知らせします。場所はこのギルドの裏手側から街の外に出て頂き山の頂上に見える建物です。なお4時間以内に到着できなかった場合は失格とします。それでは向かってください」


2人はその場で深くお辞儀をした。それを合図に受験者は一斉に走り出した。


「これ、一斉に行ったらやばいよね?」


後ろを振り返ると門が開いていた。

「急がば回れだな。こっちから行くか」


相馬は皆が進んでいる方向と逆に走り出した。

街の一番外側の門は4つある。指示された方角は北。西か東の門から出ればさほどタイムロスにならずに向かう事が出来る。

相馬は道が分かる東門から目的地を目指すことにした。


相馬はどれだけ走っても疲れを感じることは無い。蓄積はされるがここ数日は休養をしっかり取り試験に備えていた。

東門から街の外へ向かい城壁に沿って北門を目指した。


だが北門の方から山に登っても渋滞している可能性は高いと考え、少し離れた場所から山に入ることにした。相馬と同じ作戦を考えている冒険者も少なからずいた様で、ちらほら相馬の前や後ろを走る人影を捉えた。


山はどこから登っても山頂に行ける。但し歩きやすい場所とそうでない場所は明確だ。

ワーカーの経験を活かし、獣道を探して登り始めた。

獣は適当に歩いているようだがちゃんと歩きやすい場所を選んでいる。獣が通る為、草は踏まれ、枝は折れ、結果歩きやすい道が出来上がるのだ。


2週間くらいの経験値だがそれでも知っているのと知らないのでは雲泥の差だ。

そのまま登り続け半分くらいまで来た時に、第一の難問にぶつかった。


岩場で出来た崖だ。ワーカー時代にを思い出す。


「この絶壁を登るのか…他の道を探すか?いやでも、探してる時間が勿体ない。仕方ない、ナビ子さん!『スティック』を頼む」


・・・スキル『スティック』を購入並びに発動します。制限時間は30分です。


すかさず壁に張り付き巧みに岩場を登っていく。後ろからついてきた冒険者は登れず四苦八苦していた。相馬はみるみる崖を登っていく。100メートルは登っただろう。だがまだ5分程『スティック』の効果時間は残っていた。昔は100メートル登るにも1時間は掛かった。成長を喜ぶ間もなく相馬は再び走り出す。


『スティック』の残り時間を有効に使うため斜面に生えた木々に巧みに張り付き飛ぶように登っていく。結局1000メートルクラスの山を2時間足らずで登り切ってしまった。

試験会場に到着した時には誰もいなかった。結局一番乗りで1次試験会場にたどり着いたのだ。


会場の前には大きな砂時計が設置してあり、中で砂が流れ落ちていた。多分4時間を計っているのだろう。だが一番驚いたのは砂時計の横に先程の女性二人が立っていたのだ。


だが驚いたのは向こうも同じだったようだ。

「なんと!?もうたどり着いたのですか!?」


「あっはい。なんか無我夢中で走ったら着いてました」


「無我夢中でって…まぁいいです。1次通過です」


「えっ!?これ試験なんですか?さっき1次試験会場まで行くって?」


「あれは嘘です。ここは2次試験会場です」


「なんの意味があって!?」


「意味はないです。ただの趣味です」


「というかもう一人は全然話さないんですね?」


「あぁこれは話しませんよ。私の人形ですから」


「えっ!?」


「話は以上です。その辺で待機していてください」


女性冒険者はそういうと再び無言で遠くを見始めた。

なぜメイド服なのだろうという疑問は聞くことが出来なかった。

年齢もまだ10代後半だろう。肌の感じが若い。ショートカットで前髪は目を隠すか隠さないか位まである。髪の色は緑色でとても奇麗だ。目の色も深緑。耳や肌の色から見ても人間なのだろう。


そしてもう一人は人形だという。

話てても無感情な感じが逆に可愛いと思った相馬だった…


それから30分程してチラホラ受験者たちは到着し始めた。皆たどり着くと倒れるように寝ころび息も絶え絶えといった感じだ。


それでも息を乱していない冒険者もちらほら見かけた。それらは実力者なのだろうすぐ分かった。

一番でたどり着いたおかげで他の冒険者の実力を見ることが出来たのは、今後の試験いかんでは役に立つ。


相馬は制限時間まで到着者をよく観察した。

あと30分位で制限時間という所でニックとマルクの姿を確認できた。

2人とも息も全く上がっていない。というか疲れを一切感じさせない。

その姿を見て少しほっとし、早速声を掛けに向かった。


「ニック!マルク!」


「おーソーマっち!早いじゃんね!」


「ソーマさんも無事にクリアーですね!」


「俺、トップ到着だし」


相馬は2人にドヤ顔で自慢した。

この発言は2人の冒険者魂に火を点けた様で少しムッとした感じで相馬に提案してきた。

「よっしゃソーマっち!いい度胸じゃんね!!次の試験で勝負じゃん!」


「ソーマさん絶対絶対に後悔させてやりますからね!!」


3人は目を見合わせそして大声で笑った。

それぞれの1次試験クリアーが分かり安心したのだろう。


「はい。それではここで締め切りです。以降の到着は全て失格者となります」


周りを見ると100人くらいになっていた。つまりこの試験で10分の1まで削られたのだ。

ニックに何気なく質問したが、どうやら街から真っすぐここを目指した時に魔法トラップがかなり仕掛けてあったそうだ。


確かに違うルートから来た場合は自然が作ったトラップがあった為、魔法トラップは仕掛けてなかったのだろう。相馬の判断は正しかったようだ。


女性冒険者に誘導され建物の中に入っていく。

中には地下に降りる階段があるだけで何もなかった。

そのまま皆無言で階段を下っていく。1000段くらい下った頃だろうようやく終わりが見えた。

凄まじく広い空間にでた。そこには扉が10枚並んで設置してある。


「大体同じ人数になるように各々で調整しながら扉の前に並んでください。どこに並んでも試験内容は同じです」


指示に従い速やかに並ぶ。


「はい、先程これから1次試験といいましたがジョークです。ここからは2次試験です。張り切ってクリアーしてください。あと私はシャルムです。何かありましたら呼んでください」


シャルムは少しズレている感じがした。

まぁ往々にして強者はズレてるもんだと自分を納得させ試験に再び集中した。

そして扉の前に並ぶ受験者にシャルムは指示をだす。


「それじゃー1人ずつ扉の中に入って下さい。他の方は指示あるまで待機です。なおこの試験はクリアーするかギブアップするか死ぬかのどれかで終了です。遠慮なくギブアップしてくださいね。それではどうぞ」


1番先頭に並んでいる受験者の10名が扉を開けて中に入っていった…


☆現在の相馬情報☆

{残金46,421リーン}

{預金341,220リーン}


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