酔いどれガンズ
ガンズの下へ向かい声を掛けてみる。
「あの、鍛冶師のガンズさんですか?」
ガンズは酔いが回っているせいか目が座っている。こちらを睨むように上から下まで視線を動かし観察してくる。手に持っていたジョッキを一気に飲み干し問いに答えてきた。
「なんじゃキサン!ワシャ今酒飲んでて忙しいんじゃ。消えろボケが」
相馬に攻撃的な態度で追い払おうとしてきた。ボルクの伝言もあるので引き下がるわけにもいかず、そのまま話を勝手に続けさせてもらう。
「突然申し訳ない。自分はソーマという冒険者志望です。ガンズさんにお話がありまして」
「うっさいわボケが!!ワシャキサンに用ないわ。逝ね!」
ガンズは相当酒癖が悪いようだ。全く相手にならない。既にガンズは相馬をいない者として扱い、ジョッキに酒を足して飲み始めていた。どうしたら話せるか考えた相馬はボルクからもらった『エルバトラム』を見せてみることにした。同じ鍛冶師ならば何か反応してくれるかもしれないと考え、逆にこれでダメなら諦めようと思った。
『エルバトラム』腰から抜き取りガンズの前に見せるように差し出す。
薄っすら青い光を放つ。さすがにガンズも元名工と呼ばれる男だけあり、このナイフの凄さが一目でわかったようだ。先程までの対応と打って変わりソーマに詰め寄ってきた。
「おいキサン!!このナイフは何じゃ!?どこで手に入れた!?誰の作じゃ!?」
矢継ぎ早に質問してくるガンズに戸惑ったが一つ一つ説明する事にした。
「落ち着てください。このナイフはある方に頂いたんです。その方がガンズさんの事を話していたので…」
「なんじゃと、ワシの事をか?…この名品を作れる鍛冶師…そうかアイツか。ボルクじゃな??」
「そうです。ボルク爺さんから自分に託すと言われ受け取りました。ボルク爺さんが鍛冶師として作った最後の作品で名を『エルバトラム』といいます。ボルク爺さんの全てを込めて作ったと言われました」
ガンズは『エルバトラム』をよく見たいから渡してくれというので快く承諾した。
手に取ったガンズは『エルバトラム』を穴が開く程じっくり丁寧に見てそっと天井を見上げ涙を一筋流した。
「そうかそうか。奴は願いを叶えたんじゃな。その点ワシは何やってるんじゃ…日々飲んだくれて…自信を失ってしまってな。それで酒に逃げちまったんじゃ。情けない話じゃよ。かつてボルクの野郎と誓った事をすっかり忘れちまってた。ボルクは元気にやってるのか?」
「はい。王都ヒューエンスという街で武器屋を営んでます。鍛冶はもうやってないそうです」
それからボルクについて知っている事を事細かにガンズに伝えた。ガンズも空いている椅子に座るように促したので、腰を据えて話を続けた。ガンズは途中何度も無言で頷きながら話に集中していた。
一通り話し終えた相馬は持っていたエールを飲み干し、空のジョッキをテーブルに置いた。
「ワシはよぉ。受け入れられなかったんじゃよ。ボルクはワシに言ってたんじゃ。老いには勝てんとな。それを認めたくなくてがむしゃらに鎚を振るったんじゃ。だがな、日々衰えていく自分の体に思うような作品が打てなくなってきたんじゃ。認めたくなくて酒に逃げちまった。馬鹿な奴だと笑うがええわい」
相馬は神妙な面持ちで何かを考えていた。話を聞く限りガンズもやはり名工なのだ。
職人が行き当たる壁。ボルクは受け入れガンズは受け入れられなかった。
どちらも間違っていない。
「…ガンズさん。自分には分からない境地のお話です。ですがガンズさんもボルク爺さんも素晴らしい人だと分かります。そんな最高の腕を持った対照的な二人に会えたことは財産です。実は自分は明日、冒険者試験を受けます。まだまだスタートラインにも立ててませんが、でもいつか立派な冒険者になって、引退を考えなきゃいけなくなった時、そこまで悩めるほど立派な冒険者になると今ここで誓います」
クサイ台詞になってしまったが本気でそう思えたのだ。
「ブ、、、ぶはっがはっはっはっは。面白いガキじゃの何言ってるのか全く分からんわい。だが思いはなんとなく伝わったわい。ボルクの野郎が気に入るわけだ。お前は面白いやつじゃ。そうじゃな。ワシャ確かに認めたくなくて自分をだまして鎚を振るった。だから諦めちゃダメなんじゃ。死ぬまで現役でいなきゃいけねーな。お前さんにそういう道もあるんだって教えてやらにゃいかん。ボルクの決意はこの『エルバトラム』にしっかり現れてる。ワシだって負けてられんわい。今日から鍛冶師ガンズの復活じゃ!!」
持っていた酒を地面に叩きつける。グラスは砕け散り、酒は飛び散り床に染み込む。
ガンズなりの決意表明だろうがマスターは迷惑そうにこちらを見ていたが気づかないふりをした。
「おい!お前!冒険者試験受かれ!落ちるのは許さん!そして受かってワシの店に来い!男同士の約束じゃ!反故にしたら許さんぞ!」
そう言うとガンズは握った拳を相馬の胸に軽く当てて満面の笑みを浮かべた。
相馬の飲んだ分もガンズが前祝といって奢るから、とっとと帰って早く寝ろというので甘えて酒場を出る事にしたのだった。
マスターにもお礼を言いつつボルクとの約束も果たせ明日は心置きなく試験に挑める。
(よっしゃ!絶対受かるぞ!!!)
相馬は無言で拳を天高く掲げ、冒険者ギルドを遠目から見つめたのだった…
☆現在の相馬情報☆
{残金46,421リーン}
{預金348,000リーン}




