ビバキャンプ飯
馬車はラクアまで半分位の場所まで来ていた。
日が傾き始め1時間もしないうちに辺りは暗くなるだろう。馭者が乗客に声を掛ける。
「お客様本日の野営地はこちらになります。明朝は日の出とともに出発致します。馬車からあまり離れないようお願いいたします」
馭者の掛け声が終わるとともに乗客は各々馬車を降り始め、野営の準備を始めた。
相馬も待ってましたと言わんばかりに意気揚々とリュックを担ぎ馬車を降りた。
両手を空高く掲げ背中をこれでもかと言わんばかりに伸ばし、凝り固まった筋肉をほぐす。
そしてお尻を擦って肛門の無事を確認する。
(次から馬車に乗る時はクッションを絶対用意しよ)
体験に勝る経験はない。こうやって一つ一つ学んでいくのだ。
異世界に来て約1ヶ月弱。
徐々にだが生活にも慣れてきて新たな生活を楽しむ余裕が出てきた。
「さて…どこに野営しようかなぁ~」
辺りには建物一つない草原が広がる場所だった。木すらも殆ど生えていない。平地でありながら水平線まで見えそうなほど広大な草原。少し離れた場所に巨大なビルのように天高くそびえたつ木を一本見つけた。近くまで見学かねて行ってみるとそれは立派な巨木だった。10人が手を繋いでも1週出来ないほどの胴回り。ドーム型に伸びた枝に葉が生い茂り天然の傘の様だった。
「おぉ、いい感じの場所じゃん!いいね!よし早速テントを張るか!」
あまりに雄大なその木に一目惚れしてしまった
少し馬車から離れているが、それでも目の届く範囲だし問題ないと思い、その木の下で野営をすることに決めた。
テントと言っても地球に居た時にキャンプなどで使う高機能な物ではない。
タープの様な防水性の布を使ってそれっぽく作るだけだ。
まずは長めの木の枝が落ちていないか周囲を探した。
大木の足下だけあって木の枝は豊富に落ちていたので、良さそうな枝を数本見繕った。
1メートル位の長さの枝を手に取り先端を『エルバトラム』でYの字型に切れ込みを作る。
木を紙切れのように切ることが出来るこのナイフには毎度のことながら驚きを隠せない。
Y字の切れ込みを入れた反対側を地面に突き刺す。2メートル程離れた場所に同じように加工した木を突き刺し、切れ込みにロープを通し、その上に布を掛けてみた。
干された布団のように奇麗に二つ折りになる。完全にイメージと違ってしまった。
ロープに布の端2点を結んで固定して反対側の2点を布が斜めになるように引っ張り、端を枝に結んで地面に突き刺した。ようやく簡易テントが出来上がった。
他の乗客はどういう野営をするのか気になり見て回る。
殆どが下にシートを引いて毛布に包まり焚火を目の前で焚いておく簡易的なスタイルだった。
本格的なキャンプ仕様を目指した自分が恥ずかしくなってしまった。
地球で行われているキャンプは所詮レジャーなのだ。
この世界での野営はサバイバルに近いのだと思う。
「とりあえず今回はキャンプを楽しむよ。次回から装備軽くしよ…」
今回は食器やら調理器具やら寝具やら買い揃えてしまったので、悔しいから意地でも使い切ろうとムキになってしまった。
「まずは焚火だ!!」
幸い周辺には巻木になりそうな枝が大量に落ちていたので、抱えられるだけ抱えるとテントの前に投げおいた。
適当に山の形になるように並べその中央に火をつけようと試みた。
マッチやライターなどは無く、売っていた火打石を取り出し叩き合わせて火花を起こす。
”カチカチ”と何度も擦り火花を飛ばすが着火しない。
相馬は知らなかった。まずは麻縄をほぐしたクズの塊などを火種とすることを。
30分近く根性出してチャレンジし続けたが、ついに火は着くことは無かった。
「がぁーーー!もうやってらんない。ナビ子さん!!火球お願い!」
・・・スキル『火球』購入並びに使用します。なおスキル『火球』は4回分ストックされます。次回使用する際は購入せずに使う事が出来ます。
焚火に一瞬で火が付く。30分の苦労が1秒で解決できてしまう。
スキルの恩恵に感謝する。だが、その反面リスクも高い。
金があると財布の紐が緩くなる。それと同じようにスキルに預入金はあればリスクが無いと錯覚してしまう。『火球』は5回で2000リーン。つまり一回の単価は400リーンだ。
普通、火を点けるだけで400リーンも払うだろうか?答えは否だ。
つまり相馬は残金があるという満身からスキルを使用しているので、これは大変危険な事なのだ。
これに気付くのはまだまだ先の話。
相馬は焚火に満悦しながら調理道具と食材を取り出し、夕食の準備を始めた。
まずは鉄製の鍋。地球風で言うならスキレットと言うべきだろう。焚火の木を少し崩してその上にスキレットを置く。油も少し持ってきたので、軽く引いてよく加熱する。
買っておいたジャガイモを輪切りにしてスキレットの底に並べる。
その上にひき肉を敷き詰める。
ひき肉の中にはきつね色になるまで炒めた玉ねぎとニンニク、パン粉、牛乳と卵をさらに加えて粘りが出るまで混ぜ合わせてある。(宿屋のコックに頼んだのは内緒だ…)
敷き詰めたひき肉の上に溢れ出る程のチーズをのせる。
蓋をしてよく蒸し焼き状態にしてあげるのだ。
もちろん蓋もしっかり加熱済みである。
出来上がるのを楽しみにしつつ、『旅パン』と呼ばれる長くて少し硬いパンを2センチサイズに切り、火の回りに少し離しておいていく。
15分程蒸し焼きにしたスキレットを火の中から取り出し蓋を開けてみる。
蓋に付いたチーズがこれでもかというほど伸びてくる。枝で作った箸で絡めとる。
そのまま口に運び味を見る。
(うん、チーズだ!)
当然の結果だが場所が外だというだけでテンションが上がる。
スキレットの中で溶けて広がったチーズを切割いて中の肉を確認する。
”ジュワァー”という肉汁が溢れ出て焼けたスキレットに当り、旨味を香りに変えて相馬の鼻孔を刺激する。
肉の下にひいたジャガイモもホクホクだ。
ジャガイモとチーズに守られたひき肉は完璧な状態でハンバーグに仕上がっていた。
「よし!!食うぞ!命に感謝を込めて!いただきます!!」
まずはそのままチーズとハンバーグだけを食べる。
チーズの濃厚な旨味、塩味がハンバーグの甘みと混ざる。玉ねぎの甘みだ。時折見せるニンニクの香りが食欲を増進する。
一気に食べきってしまいそうになるが、気持ちを落ち着けて、次は下に敷いたジャガイモを食べてみる。
箸で持つとすっかり柔らかくなっており、崩れそうになってしまう。
そーっと持ち上げて口に入れる。チーズから出た油分、肉から出た旨味の全てはスキレットの下へと進み、ジャガイモが受け止めている。これが旨くないはずは無い。
時折パンに乗せて食べることで小麦粉の甘みも足され、口の中が香りと旨味のオーケストラ会場になっていた。
残すことなく全てを平らげ、準備していたお湯でお茶を作る。
流れていくお茶は口に残るコッテリ感を一掃して爽やかな口へと戻してくれた。
「大満足だ…」
その場で寝そべり空を見ると枝葉の間から星のきらめきを見ることが出来た。
まるで木に付けたイルミネーションの様だった。
それほど空には満点の星空が広がっているのだ。
元いた世界では科学が発展した為に大気汚染も進んでしまった。
しかしこの世界では大気汚染など無いのだろう。
「空気が澄んでいるとこんなに奇麗なのか…本当に何度見てもすげぇなぁ」
相馬はゆっくりと起き上がり、調理器具などの片付けを早々に済ませて簡易テントの中に入った。
「明日も早いし寝るか。おやすみ!!」
大木に向かっておやすみと言う。
木にも命は宿る。この世界に来て命と触れ合う機会が多い相馬は、いつしか全ての物に命が宿ると考えるようになっていた。こういった精神面の変化は相馬にとって良い方向に働く事だろう。
そんな自身の変化に気付くこともなく、相馬は眠りに付いた…
☆現在の相馬情報☆
{残金118,501リーン}
{預金348,000リーン}




