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終わりの瞬間

壁を登り始めて10メートル位だろうか。既に10分経過してしまった。

だが少しコツを掴んできた。


手に頼りすぎてはダメだ。足を使って登るのがコツだと気づいた。足をなるべく高い位置まで持ち上げて一気に膝を伸ばす。手はバランスを取る為に使う。このコツを掴んでからは早い。次の10分では20メートル程登り、合計で30メートルを20分で登ることが出来た。


テンポよく登ってきたが流石にメンタルにくる。運よく休憩できそうな場所を見つけたので腰を下ろす。

スキル【スティック】はあと数分で使用限界だ。再び上る為にはもう一度購入する必要がある。


そして返済期限は05:26:33と表示されていた。

今いる地点から商会ギルドまで2時間は走ってもかかる。

つまり3時間26分しか時間がない。崖の残りも50メートルくらいある。30分は確実に掛かるだろう。

3時間弱で300,000リーンを稼がなくてはいけないのだ。


今この時点で詰みなのは言うまでもない。

相馬の余命は残り5時間半。だが諦めてはそこで試合終了だ。

どうせ死ぬなら最後まで抗う。そう心に決めていた。再び壁を登ろうと手を当てる。

スキルを購入しようと思いナビ子に問いかける。


「ナビ子さん、【スティック】を…!?」


手を掛けた斜面が崩れ落ち洞窟が現れた。


「うぉ!? びっくりした。何だこれは!? 」


突然現れた洞窟は奥に続いているようだ。

相馬はもしかしたら宝物とかあるかもと思い、中に入ってみる事にした。

洞窟と言えば魔物が出る印象が強い。

最初にこの世界に来た時にゴブリンと遭遇したからだ。

中は真っ暗で何も見えない。持ってきた松明を取り出す。


「ナビ子さん、【火球】を松明に頼む」


・・・スキル【火球】を購入使用します。なお、使用許可は省略致します。


松明の先に火が出て辺りを照らす。


洞窟は直径2メートル程の幅でかなり奥まで続いている。しばらく誰かが入った形跡もない。だが、人の手が入っている痕跡がそこかしこに見える。

もしかしたら鉱山だったのかもしれない。

だが入り口の場所が不自然だ。


(もしかしたら俺が落ちた場所は崩落してしまって、その際坑道も巻き込まれたのかもしれないな)


この洞窟がどこに出るのか不安になる。この先が元々の入り口だとするなら崖を登らないで済む。

だが違う場所だったなら戻って崖を登る必要が出てしまう。

残り時間も注意しながら行ける所まで行こうとしていた。


(これが最後の冒険かもな…山で一人気付かれず死ぬのは流石に寂しいなぁ。やっぱり死ぬにしても誰かに看取られたい。誰が良いかな。いろんな人と出会ったからなぁ。こればっかりは決められないかぁ)


迫りくる死に対して少しでもストレスを感じないように脳内で楽しかった思い出を再生する。

自分の心の中が上がったり下がったりを繰り返している。


(死刑囚ってこんな気持ちなのかもしれないなぁ…)


一本道の坑道を30分程歩くと突然開けた場所に出た。天井には穴が開いていて太陽光が差しこんでいる。もう朝日が昇ってきているのだ。

洞窟の中に大きな水辺があり覗き込んでみる。透明度はかなり高くそしてかなり深い。

飲み食いを一切していなかったので手で掬い口に運ぶ。


洞窟内は薄っすら寒く天然の冷蔵庫のような場所だ。そのおかげか水も冷えていて格別だ。

太陽の光が大きく天井まで伸びた一本の岩に当る。

よく見るとその岩場はキラキラと黄金色の輝きを放っていた。


(なんだあの輝きは?ここは金山だったのか??)


近くまで寄っていくとそこには予想に反してありえない物が生えていたのだ。

それは金色に輝くキノコだ。


「あっ。あ、あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!これはまさか!!?」


思わず目を白黒させる。

慌ててポケットに折りたたんでしまっていた1枚の紙を取り出し広げる。

そこには幻のキノコ『金色香茸』の絵が描かれていた。

生えているキノコと照らし合わせる。


「まっまっ間違いない!!これは『金色香茸』!!」


香茸と言うだけあり強い香りが鼻に抜ける。松茸なんて非じゃないほどの香りだ。

ほんのり甘く、少し埃っぽいような表現の難しい独特な香り。

黄金色に輝く姿は金細工なのか!?と思わせるほどだ。

松茸とは形が違い、サルノコシカケを小さくしたような姿だ。


命の取り立てまで04:25:16と表示されている。

ここから急いで戻ればギリギリ間に合うかもしれない。

生えているキノコの数は5本。

全てを採取させてもらった。


リュックに丁寧にしまって全力で走る。松明の火が音を立てて揺れる。

途中何度も躓き転びそうになりながらも無事入り口まで戻ることが出来た。


残り時間は04:01:54


「ナビ子さん!【スティック】を大急ぎで!!」


・・・スキル【スティック】を購入します。なお、使用許可は省略致します。


急いで壁に張り付き崖を登る。

生きる希望を掴んだ相馬は火事場の馬鹿力ともいうべき運動能力を発揮する。

勢いよく崖を登っていく様は爬虫類の様だ。


崖をついに登り切り街までの道のりを急ぐ

残り時間03:35:33

全力で坂を下る。【スティック】の効果がまだ残っている為、山の斜面を飛び降りる速度で駆け抜けるが、木に触り勢いを巧みに殺す。


・・・スキル【スティック】の使用限界を迎えました。スキルを終了いたします。


ナビ子さんの終了案内を受けたので少し降りる速度を落とす。

現在地は山の7合目くらいだ。死ぬ気で下れば2時間程で下山できる。

無心で山を降る。そして無事下山をすることが出来た。


残り時間は01:15:55


街からここまで来るときは1時間半程かかっている。だが来る際は歩いていた。全力で走ればさらに早い時間で着くだろう。

街を目指して一直線に走る。

すると近くで獣が唸る声が聞こえた。


最悪な事に熊がこちら目掛けて走ってくる。胸に矢が刺さっているのが見えた。

山の上で戦った熊だ。どうやら怪我を負ったことで怒り狂っている為、人里に降りてきてしまったようだ。そして匂いのせいで見つかってしまったのだ。


熊は勢いを落とすことなく突っ込んで来る。

腰に付けた【エルバトラム】を抜き取り戦闘体制をとる。

距離にして50メートル。熊の走る速度は時速60キロ近い。

およそ3秒後に熊の攻撃射程に入る。


3秒・・・「ナビ子さん。【縮地】を頼む」


2秒・・・スキル【縮地】を購入並びに使用します。制限時間は10秒です。


1秒・・・足が光るのと同時に一歩踏み出し【エルバトラム】を振り抜く。


着地後すぐさま熊の方に向き直す。熊は血しぶきを上げて倒れる。

再び一歩を踏み出す。熊の背後に移動して頸椎めがけてナイフを振り下ろす。

熊は大きな泣き声を上げて、痙攣をはじめた。【エルバトラム】の切れ味は凄まじく、熊の太い骨も抵抗を一切感じる事なく切断してしまった。

骨ごと神経を切断された熊はその場で息絶えた。


・・・スキル【縮地】の使用限界を迎えました。スキルを終了いたします。


残り時間は01:15:25


ここまでのやり取りは30秒程で決着がついた。

相馬は手を合わせ冥福を祈り、すぐさま内臓だけを素早く取り出す。

今は持ち運ぶ時間はない。無事生きていたら後で獲りに来ようと思っていたのだ。

命を粗末にすることは出来ない。殺したら必ず持ち帰ると決めていた。


なので内臓が入っていれば臭みが肉に移る為取り出しておく必要がある。

処理を済ませ、【エルバトラム】に付いた血を拭い、腰に収める。

再び街を目指して全力で走り出す。


残り時間00:56:19


熊の遭遇で時間をだいぶロスしてしまった。買取査定の時間も考えるならギリギリすぎる。

考えても無駄だと思い、今は前だけを見てひたすら足を動かした。

疲れを感じない体が最後の最後で役に立ったのだ。


残り時間00:13:03


ギリギリ間に合った。商会ギルドに駆け込み入り口でコレットさんと叫ぶ。

突然名前を呼ばれたコレットはビクッと体を小さく跳ねさせて驚いた顔をしていた。


「どっどうしたんですか~!?」


「ごめん!急ぎだ!買取の査定頼む!!」


リュックから『金色香茸』を取り出しカウンターに無造作に置く。

幻のキノコを出されたコレットは鳩が豆鉄砲くらったような顔をしていたが時間がない。

相馬はコレットに査定を急かす。


「詳しい話は後で!本当に急ぎなんだ!お願いします」


相馬の鬼気迫る表情からおっとりしたコレットも、ただならぬ気配を感じ取り早急に査定をする。

そして査定見積を素早く作成して出してくれた。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


――クエスト案件

内容:『金色香茸』採取依頼

結果:達成

納品:5本

金額:130,000リーン/1本

合計:650,000リーン

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「ありがとうコレットさん!!受け取り完了のサインしたから確認頼む!」


「はい確認しました~これが報酬です~」


「ごめん急ぐから!後で来るね!!」


報酬を奪い取るように受け取ると、急いで宿屋まで走った。

お金を返済する瞬間を見られるのも良くない気がしたのだ。


残り時間00:03:25


宿屋に入ると女将さんが声を掛けてきた。


「ソーマ様!?いったいどこに…」


女将さんの話を聞いている暇はない部屋まで一気に向かい鍵を開けて中に入る


残り時間00:00:11


「ナビ子さん!!返済だ!!早く!!!!!!」


9秒・・・返済用魔法陣を展開します。魔法陣の中に繊細予定額を置いてください。


8秒・・・相馬は袋に入ったまま返済用魔法陣に投げ入れる。


7秒・・・貨幣を回収致します。返済額650000リーンを確認。現在のお借入れ額313499リーンです。


6秒・・・お借入れ額よりも返済額超えております。


5秒・・・デポジットしますか?


4秒・・・丁度の返済に致しますか?


3秒・・・丁度の場合は入金額の中から返済分だけを回収致します。


2秒・・・「おそいわ!!!丁度で!!早くしろっ!!」


思わず相馬は目を瞑り手を合わせる。


1秒・・・丁度で承りました。336501リーンをお返しいたします。


0秒・・・以上で返済は完了です。またのご利用お待ちしております。


・・・レベルが5に上がりました。以上返済モードを終了いたします。


「・・・・・・・・よっしゃぁぁぁぁ!生き残ったぞ!!どうだ!!!ざまーみろクソジジイが!!はっは!最後まで諦めが悪いんだ俺は!生きてるぞ!!!」


・・・


相馬は大きな声で笑った。しかし止めどなく涙が流れ続けていた。


達成感。命が繋がった安堵。恐怖からの解放。今までの苦労が走馬灯のように頭の中を流れる。

異世界に来て1週間。言葉では言い表せないほどの経験を積んだ。

嗚咽を漏らし泣き崩れた。涙が枯れるまでその場で涙を流し続けたのだった…




☆現在の相馬情報☆

{残金336501リーン}

{借金0リーン}


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