メメント・モリ
今回は初めて訪れた山なのでまずは山頂まで登り、そこからスキル【探知】で探って行こうと考えていた。
3時間かけて山を登る。登っている最中に手の数字は1→0に変化した。
負債額が55061から71579に増える。
負債額はこれ以上利息がかかる事は無い。
なぜなら24時間後には命を取り立てられるからだ。山頂部から辺りを見渡す。当然目に見える場所に獲物は居るわけがない。
視界右上に赤字で時間が表示されている23:42:29。カウントダウンだ。
残りの時間を改めて見せられると胸が痛くなり脈が上がる。胃酸が逆流して食道を焼く。余命宣告をひたすらに見せられているのだから当然だろう。
ここからは0か100かだ。スキルを出し惜しみしている場合ではない。
「ナビ子さん!【探知】をお願いします!」
・・・スキル【探知】を購入並びに即使用しますか?
「もちろんYESだ!」
思わず声に力が入る。
・・・スキル【探知】を発動します。制限時間は5分です。
出来ればこの【購入】で終わらせたかったが厳しいだろう。鹿なら3頭。猪なら2頭。熊なら1頭で完済だ。
(熊!!いてくれ)
力を込めて意識を集中する。
コレットさんのお陰なのか、自らの願いが届いたからなのか【探知】に今まで捉えた事の無い姿を確認する事が出来た。
「マジか!? 熊だっ!!!ナビ子さん。【無音】も頼む!」
・・・スキル【無音】を購入並びに即使用しますか?
「もちろんだ!急ぎで頼む!!」
気持ちが焦る。
・・・スキル【無音】を発動します。制限時間は60分です。
探知で捉えた熊めがけて全力で走る。斜面に足を取られるも、木々を支えにバランスをとる。
そして熊のいる場所にたどり着いた。
しかし姿が見えない。
「おかしいな?この辺だったはず」
再び目を閉じて【探知】を使う。熊の居場所が分かった瞬間、相馬は瞬時に後ろに飛んだ。
熊は木の上に登っていた。相馬を木の上から確認した為、襲い掛かろうとしてる瞬間を【探知】で捉えたのだ。
「あぶねーもう少しで上から飛び乗られて死んでた」
間一髪で避けれたが想定外の事で心臓のが爆発しそうな程鼓動が早まっていた。
体長2メートルはある熊と10メートルの距離で向き合う。
相手の命を奪おうとしてるのに自分の命は保障されるなど都合の良いことは有り得ない。
まさに弱肉強食だ。
熊は立ち上がり両手を上げ唸り声をあげる。
正直ゴブリンよりも怖い。
熊は大きく開けた口からぼたぼたと涎を垂らしている。完全に餌として見られているのだろう。
(一瞬でも視線を逸らしたら殺られる)
クロスボウの照準を熊の心臓付近に定める。
お互い動かない。いや動けないのだ。時間だけが過ぎていく。
しかし膠着状態も長くは続かなかった。野生の動物に理性なんて物はない。堪えきれなくなった熊が先制攻撃を仕掛けてきた。
その瞬間引き金を引いた。矢は熊の心臓付近を目指して一直線に飛んでいく。
「よっしゃ!」
矢が熊の体に刺さり動きを止めた。
勝ちを確信した次の瞬間、熊が大きく振りかぶった手を振り下ろしてきた。
完全に油断していた相馬は避ける事が出来ず、熊の攻撃が当たる。持っていたクロスボウで咄嗟にガードをしたが、クロスボウは一撃で破壊され、相馬は吹き飛ばされてしまった。
熊の皮膚と脂肪は鎧の様に硬く矢が刺さりきっていなかったのだ。
相馬が購入したクロスボウは中威力の物。
熊を狙うなら高威力クロスボウで戦うべきだった。
忠告を受けていたのにも関わらず目先の対価の多さに踊らされてしまった。
相馬が吹き飛ばされた場所は断崖絶壁になっていた。そのまま崖から転落してしまった。
何とか岩肌を掴んで落下の勢いを止めようと試みるが、激しく岩肌にぶつかりみるみるうちに体が切り刻まれる。
100メーター程転がり落ちた時には意識を失っていた。何時間気を失っていたのだろう。激痛で目が覚める。この状況で死ななかったのは運が良かったとも言える。落ちた場所は木の下で枝がクッションになった事と湿地帯になっていて地面が泥濘んでいた事が幸運だったのだろう。
「いっ、、、つ。何が起きたんだ」
どうやら激痛は足から発生している。
確認しようと身体を動かそうとしたが全く動けない。胸の辺りを強打した為か肋骨は折れている様で呼吸するたびに痛みが走る。
虫の様に地を這いつくばりながら何とか体勢を入れ替えて右足を目視する。足は有り得ない方向に曲がっていた。折れた骨が皮膚を突き破っている。
自分の目で認識した瞬間、さらに強い痛みが相馬を地獄へと誘う。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。いてぇぇぇぇぇ。」
脈打つような痛みが絶え間なく押し寄せる。
思考が出来ない。痛い。怖い。辛い。何より絶望的なのがもう歩く事が出来ない事だ。猟を継続する事が出来ないどころか、街に戻る事すら不可能になってしまったのだ。
一縷の望みを賭けて朦朧とした意識の中ナビ子さんに願いをかける。
(な、、、ナビ子さんんんん!何か状況を打破できるのだしてくれぇぇぇ)
痛みと死を目前に恐怖で涙が溢れ出る。
・・・オススメ一覧を表示致します。
購入リストのオススメ一覧が目の前に現れる。
――無痛
効果:痛みを完全に遮断する事が出来る。効果が切れた時には全ての痛みは復活する
回数:一回(60分間継続)
金額:6000リーン
――小級回復
効果:切り傷程度の回復が可能。火傷や打撲などの怪我にも効果有
回数:1回
金額:1,000リーン
――中級回復
効果:深い傷、中度の怪我などに効果有
回数:1回
金額:15,000リーン
――上級回復
効果:骨折などの重度な傷や怪我に効果有
回数:1回
金額:200,000リーン
――最上級回復
効果:死を除く全ての状態を回復可能。
回数:1回
金額:10,000,000リーン
――命の祝福≪ロック中≫
効果:死すらも無かったことに出来る。
回数:1回
金額:1,000,000,000リーン
――クロノスの守護≪ロック中≫
効果:時間に干渉し、全ての事象は起こる前の状態へと帰属する。
回数:1回
金額:10,000,000,000リーン
(骨折も直す…これしかない…でも金額が…うぐぁ...いてぇよぉ…ダメだ意識が飛びそうだ...金じゃない。やるしかない。…痛い…痛い…痛い…痛いのはダメだ耐えれない…悩んでる場合じゃない…ナビ子さん。【上級回復】をお願いします!!)
・・・スキル【上級回復】を購入並びに即使用しますか?
(いってぇぇぇ...YESYESYES!早く…し…て…)
意識が朦朧としてきた。
・・・スキル【上級回復】を発動します。
次の瞬間、体中が輝きを放つ。みるみる傷が消えていく。あり得ぬ方向を向いていた足も正しい向きへ戻った。先ほどまでの激痛が嘘の様に体中の痛みが消えた。
立ち上がり屈伸をする。怪我をする前同様スムーズに動く。
そして手の平を開閉してスムーズに動く事を確認する。だが手の震えだけは止まらなかった。
身体の傷は癒えても、心の傷は直ぐには癒えない。
だが泣き言を言っている時間など残されてはいない。
怪我による死は回避出来たが、それでも数時間命を伸ばしただけ。スキルで命を拾い、スキルに命を刈られる。
非現実的なこの状況は紛れもない現実なのだ。
震える手の平をグッと力を込めて握りしめる。
(もうこうなったら失うものなんてない。最後の1秒まで悪あがきしてやる)
落下した際に荷物が周囲に散乱してしまった。
全てを拾い集めリュックに入れる。
無常にもクロスボウを拾い上げて絶句した。
頼みの綱であるクロスボウは完全に破壊されてしまっていたのだ。熊の一撃を受けた際、咄嗟にクロスボウで受けてしまったのが原因だ。
「・・・・・・・もう・・・・ダメだ。。。」
残りの時間を確認すると06:03:48になっている。
今所持している武器は『エルバトラム』だけだ。
しかしナイフでは狩ができない。
驚異的な身体スキルを持っていれば別だが。
もちろんスキル【購入】で手に入れることは出来るが費用対効果が悪すぎる。
現在の負債額は275359リーン。熊を3頭倒さなくてはいけない。
だが、トラウマを植え付けられた相手に戦えるのかは自信がない。
思い出すだけでも身体中が震えてしまう。
それがまして接近戦となれば尚更だ。
そしてあの巨体を担いで残り時間で山と街を3往復はしなくてはいけない。
正直もう完済は不可能なのだ。
(はぁ...倒すだけなら可能だけど、換金する為に街まで運ぶ事を考えると...数日前までは余裕だと思ってたのに。雨に濡れて風邪ひいた事か。後先考えず金を全て換金して飯すら食えなくなった事か。後先考えず熊に戦いを挑んだ事か。はぁ...いや、もうやめよう。結局全部悪いんだ。因果応報かってやつなのかもな)
無理な事はわかったがジッとしてるよりマシだと思い、ナビ子さんに頼んで【探知】使った。
これで負債額は277939リーン。
意識を集中する。
しかし獲物を探すどころの状況ではなかった。熊に落とされた場所が最悪だった。
今いる場所は山の中にできた大きな陥没地帯だった。つまり、崖を登らないといけないのだ。
周囲は全て絶壁になっている。
当然ながら今いる場所に獣はいない。
優先すべきは脱出だ。
しかしロッククライミング素人の相馬に100メートルの崖を身体一つで登り切る事はできない。
(ナビ子さん。この崖を登れるようなスキルをお願い)
・・・オススメ一覧を表示します。
――飛行
効果:発動すると1分間飛行ができる
回数:1回(1分継続)
金額:298000
――スティック
効果:体の任意の部分を好きな場所に貼り付けたり剥がしたりできる。
回数:1回(30分継続)
金額:6780リーン
――筋力強化
効果;筋力を50%強化する。見た目の変化はない。
回数:1回(5分継続)
金額:49000リーン
「飛行は流石になぁ。【スティック】が現実的だな。ナビ子さん【スティック】をお願い」
・・・スキル【スティック】を購入並びに即使用しますか?
「というか、ナビ子さん。使用確認いらないからお願いした時は使っちゃって」
丁寧なサービスは時として利用者をイラつかせる事がある。
時間に追われてる今は1秒でもやり取りを短くしたい。
・・・スキル【スティック】を発動します。制限時間は30分です。
身体の変化は何もない。爬虫類みたいな手の構造とかに変わるのかと思っていたのだが、本当に意識するだけでいいようだ。
壁に手を当ててみる。確かに張り付いた。毎回”くっ付け”とか”剥がれろ”なんて念じる必要はないみたいだ。手足を動かすのと同じような感じでコントロールできる。不思議な感覚だ。
少し助走をつけて全力で飛び跳ねる。カエルが壁に張り付くような格好でくっついた。
某テレビ番組を思い出した。そのまま少しずつ壁に張り付き登っていく。100メーター近い壁は本当の意味で高い壁だった…
☆現在の相馬情報☆
{残金0リーン}
{借金284719リーン}




