無計画返済のツケ
ボルク爺さんに頂いた『エルバトラム』を腰に携え、意気揚々と狩りに出る。最初はスキルに頼らず見つけてみようと思い、必死に自らの足を動かす。特に疲れは溜まっている感じはしない。だが昨日までと違いやけに躓く。足が上手く動いていない感じがしたのだ。
特に気にする事無く森の中を散策するが一向に獲物と会うことがない。【探知】を使ったときには結構な数を捉えることができた。
だが相馬のスキルは対価を必要とする。
纏まった金を持っていれば本当に世界最強のスキルとも言えるのだが、その反対に金がない場合は最凶の性質も持つ。
怖いから使わないというのも選択肢としてはアリだろう。
だが相馬は有用性も理解している為、使用前に金額を計算しながら計画的に使うという選択をしている。
だが相馬の計算には幾つもの盲点がある事を今回の猟で気付かされる羽目になるとは思っても見なかっただろう。
2時間ほど歩いていると空から少し大きめな水滴が相馬の頭頂部にぶつかる。2粒3粒と勢いを増して降り注ぐ。
残念ながら突如雨が降り出してしまった。
雨の日の山登りは危険だ。日の出後は山を登って寝屋に攻め入ろうと計画していたのだが、このまま森を探索する事に決めた。日の出前のため気温が低く、さらには雨が体温を奪い続けていく。
ーー時間を遡る事2時間前ーー
「そういえばお金を返さないとなぁ。残金全額入れても返済は難しいか。どうしよう?いくら入れておこうかな?」
昼を過ぎれば4→3に数字は変化して負債額は110711リーンに増えてしまう。流石にこの金額は致命的になりかねない。一旦残金を充てることにした。
「まぁ、昨日と同じ作戦で鹿は取れるし、2日で4頭取れば完済だな。むしろお釣りが出るし、持ち金全額返済に充てちゃおう」
相馬は今日もスキルを使えば簡単に獲れるとたかを括っていた。
(ナビ子さん〜!借金返済するよ!)
・・・返済用魔法陣を展開します。魔法陣の中に返済予定額をおいてください。
すると目の前の床に赤紫に光る魔法陣が現れた。
「ここに置けばいいのか。なんか生贄捧げる気分だよ…」
相馬は残金41643リーン全てを魔法陣の中に置いた。
・・・貨幣を回収致します。返済額41643リーンを確認。現在のお借入額85163リーンは43520リーンになりました。以上返済モードを終了いたします。
「よし、これで昼までに2頭獲れたら完済だな。まぁ昼過ぎちゃっても3頭獲れれば完済だし、とりあえず気軽に行くか」
出発の準備を終えて宿を出た。昨日服も泥と血に塗れてしまったので洗っていたのだが完全に乾き切らず、少し湿っていて少し不快だったが、文句を言ってる場合では無い。
返済を終えたら洋服も買わなくてはいけないと思った。
ーー現在に戻るーー
「まさか雨降ってくるなんてなぁ。作戦が台無しだよ。とりあえず【探知】を使うか。ナビ子さん頼みます」
・・・スキル【探知】を購入並びに即使用します。
スキル【探知】を発動します。制限時間は5分です。
すぐに目を閉じて集中する。
残念な事に探知に引っかからない。
すぐに場所を変えて探る。
だが何度やっても探知の範囲に獲物を捉える事ができなかった。
時間だけが無常に過ぎていく。
・・・スキル【探知】の使用限界を迎えました。スキルを終了いたします。
「マジかよ。まさか雨のせいでもう森から寝屋に戻っちゃってるのか?」
雨に打たれ呆然と立ち尽くす相馬。
無駄にスキルを使用してしまい、負債を増やすだけになってしまった。
「ま、まぁ相手も生き物だしこんな時もある。もう少し歩いたら何かしら見つかるかもしれないよな。まだ始まったばかりだしな」
自らを鼓舞して落ちた心を立て直す。
しかし昼過ぎまで森の中を雨に濡れて探索したが、結局この日は獲物と遭遇する事はなかった。
手の数字は4→3に変わり、負債額は59930リーンに増えてしまった。
部屋に戻り、濡れた身体をタオルで拭く。
洋服も絞れるだけ絞って部屋に干した。
着る服が無いので仕方なくスーツを着用した。下着もないので股間の違和感が酷い。
相馬の最大のミスは、獲物を“獲れる”と根拠の無い自信によって全額返済してしまった事だ。
これがどれだけ愚策だったかを味わう事になる。
「腹減ったなぁ。全額返済しちゃったから飯食うお金ないよ。ってか寒い。ちょっと布団に入って暖まろう」
震える身体をまずは暖めるため布団に包まる。
だが寒い。震えが止まらない。
空腹の所為でお腹が鳴る。
そのまま布団に包まりいつの間にか寝てしまった。
目が覚めると体に異変を感じる。
目が霞んで寒気が酷い。頭は熱っぽく意識がぼーっとする。
額に右手を当てる。
最悪な事に発熱してしまった。
突然雨に降られ、そのまま探索を続けてしまったツケが回って来た。
どんなにスキルが最強でもそれは健康あっての話。
相馬は功を焦って大事な事を忘れてしまっていたのだ。
(とにかく今日はこのまま寝るしかない。
明日になったら下がるかもしれないし、薬を買う金もない。とにかく寝て治そう)
そのまま再び眠りに着く。何度も汗で寝苦しさを感じて起きる。
一向に下がる気配は無くむしろどんどん体温は上がっていく。
そして翌日の窓から差し込む日光で目を覚ます。
おでこに手を当てて熱の有無を確認する。
まだ高い。
ベットから起き上がり狩りに行こうと試みる。
だが体が言う事を聞かない。
もつれた足が相馬を豪快に転ばせる。
体が狩りに行く事を拒絶しているようだ。
そのまま床に転がったまま意識を失ってしまった。
疲労、ストレス、栄養失調、高熱。
相馬は理解していなかった。
〈疲れを感じない〉のと〈疲れない〉のでは全く意味が変わるという事を。
相馬の能力は前者だった。
疲れを感じない事を良い事に動き続ければ、気がつかないうちに体力を奪われる。それは命を削って動いているのと同じことなのだ。
異世界に送られる際に神が言っていた事。
ーー「ほら、これでお主は最強じゃ。だが最強には相応の困難があると知れ。それでは健闘を祈る」ー
今置かれている全ての状況は相馬が最強に至る為の試練なのかもしれない...
☆現在の相馬情報☆
{残金0リーン}
{借金59930リーン}




