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命の値段

リュックから血が滴り落ちる

前もゴブリンの内臓を入れて持ち運んでいたが、これはもう完全に匂いがついてしまい使い物にならなくなりそうだと思った。


「そういえば、昔テレビか何かで見た時血抜きがなんちゃらとか言ってたな。やり方分からないし商会ギルドに納品した時に聞いてみよ。換金したらすぐ返済しないと、昼過ぎには負債額が上がっちゃうしな。とりあえずもう暫くうろついてみて、街にもどるかなぁ。しかし、地球にいた頃にはこうやって自然の中で狩をするなんて思いもしなかったな」


歩きながら独り言を声に出す。まだ【無音】の効果は20分近く残ってる。

発した声で獲物が逃げることは無い。

地球にいた頃よく聞いていた米酢玄氏のMeronを大声で歌う。

大自然の中、大きな声で熱唱するのはストレス発散になる。

会社で疲れた時よく1人カラオケで叫んで嫌な事を忘れていた。


異世界に突然送り込まれ、魔物との闘いで使ったスキルに今度は命を狙われる。

対処すべく生き物の命を奪い金を稼ぐ。

全てが今までの生活とかけ離れすぎていて精神の限界を迎えていたのだ。


狩猟の為に【無音】のスキルを購入して使用したが、結果的に言えばストレス発散に絶大な効果を発揮してくれた。このスキルは値段も高くないのでこれからも定期的に購入しようと決めた。


その後も森を探索し続けたが、やがて日が昇って来た。漆黒の雑木林に日が差し込む。太陽の光を受けた木々草花の表面に付いた水滴が気温の上昇と共に水蒸気に還元され辺りを薄い霧で包み込んだ。


霧の中に差し込む光は幻想的な光景を作り出していた。

大きく深呼吸して森の空気を肺いっぱいに取り込む。

森の匂いに癒される。フィトンチッドには癒し効果などもあるらしい。心を侵食していた恐怖や不安など、負の感情が洗い流されていく清々しい気分を味わえた。


何気なく山の方を見る。霧の向こうに鹿のシルエットを見る事が出来た。

ラストチャンス。鹿が寝屋(ねや)に戻ろうとしていたのだ。何かを待っているのか立ち止まってキョロキョロしていた。距離的には200メートル。


多分鹿の位置から相馬は逆光になり見え難いはずと思い駆け足で近づく。矢を装填する。弓を足で踏んで両手で弦を引っ張ると、カチンという金属音とともに弦が固定されて発射準備が整う。かなり背筋力が必要だ。このように装填に多少難がある為に連射が出来ないのがデメリットだ。


だいぶ近づいたので木の陰に隠れながら徐々に近寄る。少し太めの木の背後に陣取りしゃがみ込む。体とクロスボウを必要なだけ出して狙いを定める。

不思議と脈も呼吸も正常だ。いやむしろ落ち着き払っている。フィトンチッドのおかげなのか、一度仕留めた経験からなのか、不思議な感覚だ。


そっと引き金を引く。【無音】の効果を纏った矢が鹿めがけて飛んでいく。少し離れていた為か狙いよりも矢が放物線を描くように落下していく。頭を狙っていたが当たる時にはかなり軌道は下がってしまい、左前脚の付け根に刺さってしまった。


”ピィ”と泣き声をあげ驚き走り出した。山頂の方向に走ってしまった。慌てて走って追いかける。だが人間と野生の動物では脚力の差は圧倒的だ。

尾根を越えられ逃げられてしまった。


(あぁ。傷つけるだけになってしまった…)


俯き己の技量の未熟さを恥じる。すると下に生えた草に赤黒い液体が付着している。


(これは!?さっきの鹿の血か!? これを追えば追いつけるかも!!?)


血痕を追いながらゆっくりと後を追った。致命傷にはならないまでも前脚は撃ち抜いている。確実に長距離は走れないはずだと思い落ち着いて追いかけた。いつ遭遇するか分からないので、矢は装填しつつクロスボウを前に構えながら少しずつ進んだ。


尾根から谷へと下りまた尾根に至る。2時間程血痕を追い続け、ようやく川の中で伏せて休んでいる鹿を見つけた。走り続けて上がった体温を冷ましているのかもしれない。今度は確実に仕留める為に距離を詰める。


【無音】の効果は切れていたので谷へ降りていく際の音には気づいている様で耳を左右に動かしていた。かなりの距離まで詰め寄る。しかし鹿は逃げなかった。相馬の姿も鹿には見られている。50メートル…30メートルと距離を詰めていくが相馬を見つめるだけで鹿は逃げない。照準を鹿の顔に定めてじりじりと近寄る。もう木に隠れる事もしない。少しづつ距離を詰める。


鹿と照準越しで目が合う。10メートル。川に入るギリギリまで近寄ったがもう鹿は逃げる素振りすらせず、ただジーっと相馬を見つめている。

鹿は覚悟を決めていたのかもしれない。その屈託のない視線に何故か臆してしまう。

これが野生の戦い。そこには弱肉強食だけがあり、恨みや怒りなどは一切含まれない純粋な世界。

相馬へ鹿との間に不思議な繋がりを感じた。


…30秒程お互い見つめ合っていた。次の瞬間鹿の頭に矢が刺さる。声を上げる事もなく水しぶきを上げて鹿はその場で絶命した。

先程まで光を放っていた黒々とした目から生気が抜けて薄っすら白くなったような気がした。


そのまま鹿の亡骸を見つめて佇んだ。

特に何か考えるわけでもない。無の状態。そして一言「ありがとう」と…


鹿の首を持ち引っ張りながら川から出した。

獲ったは良いがどうやって持ち帰るかまでは考えていなかった。

尾根は二つ越えている。引っ張り上げていくしかない。近くに生えていた蔦をロープ代わりにして鹿の四本の脚に括り付け、蔦を肩に担ぎ両手でしっかり支えながら歩く。


引きずりながら少しずつ進んでいく。途中何度も蔦が切れて斜面を鹿の亡骸が滑り落ちていく。

時間ロスを繰り返しながら王都に戻った頃には日が傾きかけていた。体中が血と泥まみれだった。

西門から戻ると住宅街を通らなければいけないので外壁を辿って正門まで向かった。引きずっている間に血も抜けきっていたのか鹿の屍からは出血は無くなっていた。


やっとの思いで商会ギルドにたどり着いた。無尽蔵の体力とはいっても筋肉痛にはなるようだ。両手が細かく痙攣していた。握力もほぼ無い。

最後の気力を振り絞り鹿を抱えた。50キロくらいだろうか?ずっしりと両腕に重みを感じる。商会の扉がスイングドアな意味が分かった気がした。


そのまま足取りをふらつかせながら買取カウンターの上に無造作に置いた。

一気に疲れが押し寄せてその場にへたり込んだ。

受付嬢が駆け寄ってくる。


「わぁ~すごい雌鹿ですね~!買取はこれだけですか~?」


リュックを降ろして中から三羽のウサギも取り出して渡す。

茶色い毛皮が血が付着して赤黒くなっていた。


「鹿1頭とウサギ3羽ですね!解体はこちらで行うので、解体手数料差し引いた金額を算出するので5分程待っててくださいね~」


裏から従業員が数人来てカウンターに置かれた鹿とウサギを持って行ってしまった。

気力の限界を迎えた相馬はギルド内に置かれた椅子に腰かけた。


喉もカラカラだった。ここでは簡単な飲み物も注文できるみたいだったので、フルーツジュースを注文した。100リーンと値段が安い。

すぐにコップ一杯に入った黄色い飲み物が運ばれてきた。中銅貨を一枚渡す。


手に取り味わう事も忘れて一気に飲み干した。

酸味と甘みが口に広がり柑橘系の良い香りが鼻に抜ける。

体中から疲れて奪われたビタミンが染みわたっていく感じがした。


飲み干して”フゥ”と溜息をついて、椅子の背にもたれ掛かり天井を見上げた。そして右手を天井に向け手の甲を見る。数字は5→4に変化していた。


負債は-85163リーンになってしまった。しかし今日は達成感もあり後悔は無かった。

本当は【探知】と【無音】分だけは返済したかったのだが、最後の鹿が走ってしまったので仕方が無い事だと諦めがついたのだ。


暫く目を閉じて休んでいると受付嬢が呼びに来た。


「ソーマさん!おきてくださーい!計算できましたよぉ~」


受付嬢に促されて先程のカウンターへ向かう。

1枚の紙が差し出された。買取見積書と書かれたその紙に内訳がかかれていた。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

――ウサギ

1羽:1500リーン

減額380リーン(臓器腐敗有)

合計1120リーン×3羽=3360リーン


――雌鹿

1頭:25000リーン

増額:10000リーン(胎内に小鹿有)

減額:3000リーン (臓器腐敗有)

合計:32000リーン


総計35360リーン

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


以上が書かれていた。ウサギの減額は最初ショックだったがまさか鹿が増額するとは。

それと内臓を入れたままにすると時間経過とともに腐敗が始まり肉が傷むことを聞いた。

出来れば内臓だけは取り出してきてくれと言われたので、帰りにナイフを買っていくことにした。


買取完了のサインを済ませお金を受け取った。


「これが命の値段か…なんか重いなぁ」


その言葉を聞いた受付嬢が微笑みながら話しかけてきた。


「それが正解ですよ~命の重さを分からない人には狩りはできませんよぉ~きっとソーマさんは良いワーカーになれますよ~」


「ありがとう受付嬢さん。その言葉を覚えておくよ!」


「コレットですよ~」


「うん?」


「私の名前です~コレットって呼んでください~」


「あぁ、そうか!ありがとうコレットさん!これからも色々よろしくね!」


コレットはニコリと笑顔を見せる。


「あと~ソーマさんは掲示板見てますかぁ?自力で狩猟も良いですけど、掲示板の依頼も確認してくださいね~。そっちの方が稼げる場合がおおいですよぉ~」


「そうなのか!?ありがとうコレットさん。早速見て帰るよ!」


「良さそうな依頼があったら掲示板から取って受付まで持って来てくださいね~」


「分かった!ありがとう!」


コレットにお礼を言って掲示板の方へ向かった。コレットは手を振りながら笑顔で送り出してくれた。少し抜けてる感じの子だがとても可愛くて人懐っこい。商会ギルドの看板娘なのだろう。前も何人かのワーカーがコレットと楽しそうに雑談しているのを見かけた。


掲示板にの下まで行くと様々な依頼が出されている。一つ一つ眺めて内容を確認していく…



☆現在の相馬情報☆

{残金41993リーン}

{借金85163リーン}


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