クロスボウと山クジラ
第10話
王都内に武器屋は2軒しか無いそうだ。
その2軒のうち、商会ギルドから近い方に向かう事にした。王都を行ったり来たりしていて気付いたが、この中央通りに商業施設が集中している。逆に一本裏の道へ入ると、居住区になっていた。
正門から続く中央通りを100メートル程、城のある方へ進むと武器防具の看板を見つけた。店の中に入ると”カンカン”と金属を叩く音が聞こえる。リズミカルに聞こえる金属の音が心地よい。店の中に鍛冶工場があるようだ。カウンター越しに作業場が見える。赤白い炎が窯から噴き出していいて、その前に座っている職人らしき人物が鉄を鍛えていた。
店のカウンター内で椅子に腰かけている初老の男性に話しかけた。
「すいません。ワーカーになったんだけど狩猟に向いている武器を教えて欲しい」
「ワーカーとな? したらどんな獲物狙うんじゃ?大物か?小物か?鳥類か?それによっても変わってくるぞい」
始まる前から躓いてしまった。そもそも日本では畜産で肉を賄っている。自らの手で獣を狩るなんてした事があるはずもない。獣狩りをファンタジー世界の感覚で捉えていた。
「あまり考えて無かったな。一番金になるのは?」
「あぁそれなら大物じゃな。ただ、簡単には獲れんし、命の危険もあるぞ」
(まぁ、最悪スキルを使えば…費用対効果を知りたいな)
スキルを使えるかどうかはどのぐらい稼げるのかにもよる。おおよその買取値段を聞くことにした。
「買取の値段は時期にもよって変わるでな、正確には分からんが、熊なら1頭10万てとこかの」
平均買取価格を聞く事が出来た。
熊価格;100,000/1頭
猪価格:50,000/1頭
鹿価格:25,000/1頭
兎価格:1,500/1羽
烏価格:500/1羽
正直高いのか安いのか判断は出来ないが小物や烏は数が必要すぎる。
ここは一発逆転の大物を狙う事を伝えた。
「大物かぃ。それなら、クロスボウがお勧めじゃよ~」
そう店主は言うといくつかのクロスボウを紹介してくれた。
――高威力クロスボウ
効果:コンパウンドタイプのクロスボウ。時速313~417キロの初速が出る。両手タイプ
金額150,000リーン
ー―中威力クロスボウ
効果:コンパウンドタイプのクロスボウ。時速181~269キロの初速が出る。両手タイプ
金額80,000リーン
――低威力クロスボウ
効果:リカーブタイプのクロスボウ。時速165~192キロ未満の威力を持つ。軽いので女子供でも扱える。片手タイプ
金額:30,000リーン
「店で扱ってるのはこんなところじゃな。まぁ大物やるなら中威力以上あれば十分じゃな。初めてなら中威力がお勧めじゃよ。高威力タイプよりも軽くて扱いやすい」
どれがいいのか見分ける事は出来ないので、店主の言うままに『中威力クロスボウ』を購入した。
{残金8233リーン}となり、もう獲物を狩る以外の道は断たれたのだった。
扱い方も分からないので店主に指導してもらう事になった。
「構える時は脇を締めて呼吸を止めるんじゃ。肺の動きで狙いが狂う。照準と狙いたい場所を合わせるんじゃ。片目でみるなよ。ちゃんと両目でみるんじゃぞ!」
引き金を引くと矢は狙った場所より50センチ程ずれた所に刺さった。
10メートルの距離でこれだけ外れるのであれば獲物に当るなんて夢物語だろう。
店主の好意で試射を続ける。
とにかく慣れろという事なので何度も何度も撃った。
2時間程して的の中心に中り始めた所で練習を終了した。
日がすっかり落ちていたので、今日は獲物を狩ることを諦めて宿に帰ることにした。
(朝から何も食べてないから腹が減ったなぁ)
帰り際にどこか飯屋に寄って帰ろうと思い、店主にお勧めの飯屋を尋ねてみると、旨くて安い店を教えてくれたので早速行ってみることにした。
店の名前は≪山くじら亭≫といい、猪の肉料理を出す店らしい。
狩猟運を上げる為にも最高だ。
店主に礼を言って店を出た。
すっかり日は落ち、辺り一面に街灯が灯っていて美しかった。
千葉の夢の国を思い出す。決して明るいわけではないのだが優しい光。電気が通ってるわけではない。これも魔法技術の恩恵らしい。
日本の空は電線で埋まっていたけどここは違う。空気中に漂う魔力を吸収して発動していると聞いた。
流石王都だけあって夜でも人通りが多い。最初に立ち寄った村では日が暮れると皆、家の中から出なかった。街灯が一個も無い事も理由だろうが、技術の恩恵は全ての国民にいきわたっている訳でもないのだなと思った。
大通りから数本内側に入り込んだ住宅街の一角に≪山くじら亭≫はあった。
山の上をくじらが飛んでいる様子をロゴに使っている。名前とロゴが一致しているのは本当に見つけやすい。
扉を開けて中に入る。扉につけられた鐘がカランカランと来客を知らせる。熊避けの鈴と同じ音がした。
「いらっしゃいませぇ! 開いてるお席にお座りくださいー!」
カウンターが4席。テーブル席が四人掛けを三つ。さほど広くない店内だが清潔感がある素敵なお店だ。まさに奇麗な定食屋といった感じだ。
席に座っていると、店員がお水とおしぼりを持ってきた。
「こちらメニューです!お決まりになりましたら声を掛けてくださいね!」
元気な店員だ。見た目は17歳くらいだろうか。赤い髪をポニーテールでまとめている。八重歯と二重がチャームポイントの可愛らしい女の子だ。
テーブル席もほとんど埋まっていて忙しそうだが嫌な顔一つせず、楽しそうに接客をこなしている。
メニューを見ると全ての料理に猪が使われているようだ。
そんなに提供できる料理数は多くないが一つ一つがとても美味そうだ。
――ボアシチュー
金額:600リーン
――ボアスペアリブ
金額:1200リーン
――猪の生姜焼き
金額:900リーン
――猪と根野菜を使ったお鍋
金額:1800リーン
――レバー
金額:500リーン
ーーパン
金額:150リーン
どれも美味しそうで悩むがボアシチューを頼むことにした。
「すいません!ボアシチューとパン下さい!!」
「はーい!かしこまりました~!」
少し離れた場所にいたので大きな声で頼むと、店員の女の子も大きな声で答えてくれて、下膳しながら厨房の方へ消えていった。
「店長!ボアシチューとパンを1番席のお客様よりご注文いただきました」
厨房の中からカウンターまで声が聞こえる。
「はいよ!」
シェフ?と思われる男性の声も聞こえた。
(店員もシェフも元気があるし、活気があって良い店だ)
客の顔もみんな笑顔で酒の肴に猟の成果や雑談をして楽しんでいる。
どうやらワーカー御用達のお店みたいだ。
よく見ると客の半数は武器などを所持している。
(いい店紹介してもらったな)
しばらくすると店員の女の子が料理を持って近づいてきた。
離れてても分かるいい匂い。口の中に唾液が溢れ出てくる。。
「お待たせしました! ボアシチューとパンです。ごゆっくりどうぞ~♪」
配膳を済ませると、また違うテーブルへと向かっていった。本当に忙しそうなのに元気いっぱいで頭が下がる。早速手を合わせ”いただきます”というとスプーンを手に取り、シチューを掬う。最初はシチューだけを口に運んだ。
口に入れた瞬間、口いっぱいに広がる濃厚なワインの香り。野菜の甘みがしっかり溶け出している。続いて猪肉の塊を掬う。ずっしりとした重みがスプーン越しに伝わる。口に入れて奥歯でしっかりと噛みしめる。肉は想像以上に柔らかく、噛むたびに油が口の中に溶けだす。豚肉を想像してたが別格の旨味だ。豚肉と比べると獣臭はするだろうと思っていたが良い意味で期待を裏切られた。正直豚肉の方が臭いのでは?と思うほどだった。
猪は地球にいた時も食べた事が無く、人生初だったが、今まで食べてこなかった事を後悔した。
パンをちぎってシチューをつける。当然に染み込んだシチューとパンが発する麦の香りが調和して極上の料理へと昇華させた。
大げさに思うかもしれないが自然と口角が上がり笑顔になる。
(≪山くじら亭≫の料理には人を笑顔にする魔法がかかっているのかもしれない。)
本心でそう思った。
空腹だった事もあり、数分で完食してしまった。
再び手を合わせる。
「ごちそうさま」
美味しかったと店員に伝え、代金750リーンを支払った。
☆現在の相馬情報☆
{残金7483リーン}
{借金45500リーン}




