第一話【異変】
「ねえなにしてるの」
俺はその言葉を聞いて、なんだか落ち着かない気持ちになった。
それは、初めて聞いたにしては、やけに聞き覚えのあるような言葉だったからだ。
「昼寝だ、メリルは外で遊んできなさい」
優しい口調で娘のメリルに返事をした。
「はーい」
少し不満げに返事をして、部屋から出ていった。
俺はため息をついた。休日くらいはゆっくりさせてくれと思いつつも、どこか焦っているような気がした。俺はもう一度眠りについた。
俺の名前はフラウ 王国騎士団の団長だ。
そして、今俺がいるのは、アルネル大陸の中心地「商業都市アルベド」から少し離れたところにある、小さな村「フラックス村」
普段は、朝早く、嫁が作った作物を商業都市に売りに出かけ、そのまま王国へと足を運び、一騎士団を率いている。
しかし、最近は魔物が活発化しており、城に泊まり込みなんてことも珍しくない。
そして今日、3か月ぶりに家に帰ってきた。娘と嫁しばらく会えず、無事か心配だったが、元気そうで一安心だ。早く娘とも遊んでやりたいが、ひとまず体を休めることにした。
「悪いが、お前の娘はさらっていくぞ」
俺は飛び起きた。
「誰だ!」
周りには娘のメリルが驚いた様子でこちらを見ている。
なんだ夢か…ほっと胸をなでおろすと共になんだか胸騒ぎがした。
窓からは陽が差し込んでおり、辺りはすっかり明るくなっている。
どうやら昼まで寝てしまったようだ。
「パパ、寝ぼけてるの?」
メリルが不思議そうに聞いてきた。
「ちょっと悪い夢を見ただけだよ」
そういうとメリルは納得したのか、
俺の手を握り早く遊ぼうといわんばかりに引っ張る。
夢にしてははっきり聞こえたようなと、少しばかり疑問に思ったが、
気のせいだと思い メリルを遊ぶことにした。
村はずれの森でかくれんぼをすることになり、
メリルが鬼になった、俺は近くの木に登り、メリルが数え終わるのを待つことにした。5分ほど待った。
おかしい。
数え終わったはずのメリルが一向に来ないのだ。
かくれんぼは何度もしており、木の上は何回か隠れたことがあるし、見つからないわけがない。
不安に思った俺は木から降り、最初に数えていた場所まで戻ってみた。
メリルがいた。一安心し、
「どうしたの?見つけに来ないの?」
と声をかけても反応がない。
近くによって声をかけても反応がない。
まるでメリルだけ時間が止まったかのように動かないのだ。
メリルを抱えようとしたが、石のようにびくともしない。
鳥はさえずり風も吹いているのに、メリルだけ動かないのだ。
どうすればいいかわからなくなった俺は、一心不乱に村に助けを呼びに走った。
村に着いた俺はある異変に気が付いた。いつもにぎやかな村がやけに静かなのである。
そう。俺の予感は的中した。
村のみんなが止まっている。森で止まっていたメリルのように。
そして、俺は考える間もなく、商業都市に走っていった。