1 豹変する日常(前)
暗くて狭い
居心地が悪過ぎる
周りの話し声が全て自分の陰口に聞こえて来る
「―――――い。」
自意識過剰なのは分かっていても、だけどそう思わずにはいられない
耳鳴りがする
胃が重たい
自分を肯定してくれる存在が欲しくてたまらない
不安が波の様に押し寄せる
「――!――――おい!」
自分を保つ何かが、グラグラと揺れるのを感じる
「―――い!起きろバカ!授業中だぞ?」
自分の声で目が覚めた
あぁ…夢か
「何一人でブツブツ言ってんだっと」
追って後頭部に軽い痛みが走る
「???」
「午前中の2時間目から寝るなよな。昨日夜ふかししてたのか?」
「あ…いえ…すみません。」
「ったくよぉ他の奴らも寝るなよ〜。んじゃ説明に戻るぞ。」
温かい笑いが起こり、授業が進む。ウチは優しい人が多いクラスだった
「お前は友達を作れ。もう浮きたく無いだろ?」
授業が終わり、さぁ家に帰ろうと荷物をまとめていたら、彼は諭すようにそう語りかけて来た。
うるさい。作れるなら作ってるし。分かってる癖に無茶振りするな。
一学期かけてクラス内の友好関係と各生徒の好き好みは大体把握したんだ。話題も用意してある。ただ話しかける心の準備が足りないだけなんだ。
「俺が体の主導権を握れればなぁ…今からでも行動に移してやれるのによ?」
「怖い事言うなよ…」
想像して軽く身震いする。
彼が今、直接僕に干渉出来るのは声帯だけだ。
それも僕が意識している間は喋る事が出来ない。それでも隙あらば喋り出そうとするので、人が居る場所では細心の注意を払っている。
体なんか明け渡したら何をされるか分かった物ではない。
「ウジウジしてたら何も始まらないぜ?二学期もクラスメイトの観察だけで潰すつもりか?」
耳が痛すぎる。
発破をかけてくれているのは分かるけど自尊心がゴリゴリ削られて行くのを感じる。
これはもう立ち直れないな。とりあえず続きは帰ってから考えるとしよう。
「お前は…そんなだから…はぁ」
まだ何か言いたげな雰囲気だったが、彼はそれ以上問い詰めて来なかった。彼も引き際を覚えたのだろう。身の丈にあった振る舞いが出来る様になったこの口うるさい隣人を僕は珍しく称賛した。
「お前…思考共有してるの忘れてないか?」
説教が続いた。
しばらく夢中で言い返していたら、ふと荷物を纏めている途中だった事に気付く。
慌てて支度を再開して学校の門を出た。
時計はもう5時を回っていた。