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24 十一月 文化祭 Day1 午前

 冷えゆく十一月。深まる秋とともに、気温が静かに下がっていく。色付く葉は舞い散り、霜が降りた枯れ木が哀愁を漂わせる。徐々に近付く冬の気配とともに、人肌恋しくなる季節。


 秋晴れの中、文化祭が訪れた。

 文化祭は念入りな準備ののちに、金曜と土曜の全二日間を一般公開する。学校側の気合が入っている理由は、近く商店街の一部の店が構内に出店するから。地域活性化も兼ねて、双方積極的に取り組んでいるコラボなのだとか。

 学校内で完結する体育祭はあんなにも雑だったのに、外部が絡むとこうも変わるのか。外面が良いやつめ。

 


 D組は、フルーツ缶と炭酸水と色付きのシロップをぶっこんだお手軽ドリンクを高値で売る、ぼったくりトロピカルジュース屋さんをする。

 教室の内装は、作業台としての長机があるのみ。お客さんの注文を受けて目の前で作る屋台式だ。黒板に絵は描いてあるものの、その他の装飾は少なめでシンプルだ。


 やる気が家出中のD組に対し、お隣のC組は文化祭らしからぬクオリティのカフェ。教室はレンガの壁紙やおしゃれな照明で飾られ、大人っぽいクラシックが流れる異界に変貌していた。

 加えて、親戚にカフェを経営している不良がいるらしく、その協力のもと実際のカフェのケーキなどを提供している。本気を出しすぎである。



 結果、お客さんはC組に流れ、D組は暇を持て余していた。

 私は売り子の椅子に座って足を投げ出し、同じく足を伸ばしている遥菜に話しかけた。


「遥菜の部活は出し物するんだっけ。何するの」

「ゲストを取り囲んで大魔女の元に引き連れる魔女」

「え?」

「うちの部活占いするの、黒魔術っぽい感じのダークなやつね」


 でた。遥菜の部活はいつも不思議なことをしている。

 春の花見ではトランプゲームの敗者が桜餅を丸飲みするバトルをしたと聞いたし、夏休みには百物語をしたあと心霊スポットに行ったという。昨年の文化祭はレゴブロックで空き教室一面に世界の大都市を作り上げていた。

 そして今年は占い。一体何をする部活なんだ。私は未だに部名を知らない。


 懐疑的な気持ちが表情に出ていたようで、遥菜がくすっとした。


「絢理呆れてるでしょ。部長の占い、当たるって評判なんだよ?」

「何占いするの?」

「タロットと手相」

「わあ、幅広い」


 本当に当たるのだろうか。ジャンルが全く違うけれど。

 いや、私はこんな話をしたいわけではなくて。遥菜と辰巳くんの進展が気になるのだ。


「今年も辰巳くんと回る?」

「うん。優吾のシフトの時間までだけどね」


 さらっと言う。遥菜は辰巳くんのこと意識しなさすぎではなかろうか。私は今日の午後のことを考えるとドキドキしてくるのに。


「逢引、緊張する?」

「言い方。せめてデートって言いなさい。そうだなぁ、緊張はしてないかも。なんか一緒なのが当たり前になっちゃってるし」


 当たり前、かぁ。

 でも、当たり前に思っていることが、ある日突然当たり前じゃなくなる日が来るときもある。例えば、ずっと同じだったクラスが離れてしまうとか。


「じゃあ、大学で辰巳くんと離れたら大変だね」

「……え」


 何気なく言った言葉で、遥菜が一瞬固まる。しかしすぐに「そんなことないよー」と明るく笑った。もしかしたら二人は大学も同じところに行くのかも。さすが絵に描いたような幼馴染み。



 遥菜はふと口元を手で隠して、にまーっとし始めた。なになに、その顔は。


「絢理たんは午後から慧斗とでしょ。つーくんとはどうなの?」

「つーくん?」

「仲良いじゃん。いつだっけ、花火のときとか、修旅のお土産も交換したんだっけ。最近教室でもよく話してない?」

「や、つーくんは」

「そういえば、絢理たんの釣り合いたい人とやらをまだ聞いてなかった! ねえ、誰なの?」


 ずいっと身を乗り出して圧をかけてくる。いつの間にか、私が尋問される側になっている。何故だ。それに釣り合いたい人って好きな人ってことで。

 ぽわんと瀬野くんの笑顔が頭に浮かんできて、身体が急に高熱を発しだした。唐突に拍動が異常に速くなる。爆発寸前。これは確実に心臓病。病院の予約しないと。


「ま、待ってね、今言うから」

「……やだ、絢理たん照れすぎ。私まで火照ってきちゃった」


 二人とも真っ赤だ、耳まで。窓を開けると木枯らしでも物足りなかった。もっと冷やしてよ。

 数分経ち、ようやく意を決し、息を飲んで遥菜に近付く。お客さんもいない教室の隅で内緒話。声を絞り出す。


 好きな人を、誰かにはっきりと伝えるのは、きっと初めて。


「あの、わ、私は、瀬野くんが……す、好き」


 焦げ茶色の瞳と数秒見つめ合ったあと、ハッと遥菜が動き出した。


「あのね、絢理っ。私は恋のアドバイスとかわかんないし、絢理が好きな人いることも気付かなかったし、てかどっちかというと体育祭でつーくん選んでたからそっちのほうが仲良いのかなって思ってたけど!」


 早口でまくし立てる。言い終われば、息を吸ってゆっくり吐き出し、


「教えてくれてありがとう。私、めちゃくちゃ応援する」


 ぎゅーっと優しく抱きしめてくれた。

 私を可愛くしてくれて私に自信を与えてくれたのは、遥菜と野乃ちゃんだ。二人にはお礼をいくら言っても言い足りない。


「ありがとう、遥菜」

「でも、私のことも忘れずにちゃーんと構ってね」

「うん!」


 それからシフトが終わるまで遥菜とたくさんお話した。好きなタイプとか、瀬野くんの格好良いところとか辰巳くんの面白いところとか、理想のデートとか。

 その間、D組のお客さんは十組もいなかった。笑っちゃうくらい大赤字のガラガラ。けど、だからこそ、遥菜とたくさん話せた。暇は一長一短である。



 さて、ドキドキワクワクの約束の時間がやってきた。が、C組のイケメンはまだ接客していた。

 大人っぽい黒シャツにキャラメル色のソムリエエプロンを身にまとい、黒のサラツヤ髪とピアスで色気を発して、テーブルの女子たちをメロメロにしていたのだ。


「慧斗先輩って、あの美人の先輩とほんとのところどうなんですか?」

「えー、秘密」

「教えてくださいよ〜。あ、倦怠期とか来たら自分相手しちゃいますよ?」

「それならあたしもどうですか? 結構上手いって言われますよ!」

「はは、俺今そういうの困ってないんだよねー」


 スマイルを返す瀬野くん。随分と楽しそうなご様子だことで。

 C組前の廊下の壁にもたれる。暇つぶしでスマホをいじっている最中、ふと視線を感じた。顔を上げる。


「そんな冷ややかな目で見ないでくれますか、つーくん」


 がらんどうなD組の呼び込みをしている、半笑いのつーくんがいた。この時間帯にはつーくんの友だちはシフトではないようだ。さすが我々はぼっち仲間。一人が似合う。


「暇そうだなぁと思って。何してるの、疲れた人ごっこ?」

「疲れた人ごっこじゃなくて、私は疲れた人だよ」

「えー? そうは見えないけどなぁ」


 私は八時間以上働き、瀬野くんをもう十時間くらい待っているはずだ。体感そのくらい経っている。なのにスマホの時計はたった十分しか進んでなかった。これは確実に故障。修理しないと。


「ねえ、十時間あったら暇つぶしに何する?」

「睡眠」

「そうだ、しりとりしない? りからね、リンゴ」

「極悪人」


 つーくん、会話のキャッチボールが下手すぎる。だからぼっちなんだぞ。私は予期せぬブーメランを受けた。もしや私も会話下手だからぼっちなのか、いやまさかそんな。

 真実に気付いてしまった私を見て、つーくんがふふっと口角を上げる。


「佐藤さん、そんなにも暇なら僕と一緒に働こうか」

「今働いたばっかだもん」

「暇つぶしぴったりだよ。なにせ、ここは客が来ない」

「まぁ、確かに。お手伝いくらいなら」

「暇じゃねえから無理。佐藤さん、遅れてごめん」


 私に被せるように低い声がした。視界からつーくんが消え、目の前に黒シャツの後ろ姿が現れる。ほんのりコーヒーの香りが漂った。

 

「瀬野、暇つぶししたがってたのは佐藤さんだよ?」

「佐藤さん待たせてたのは俺だから俺が悪いわ。つーくんごめんな」

「僕に謝られてもなぁ」


 あ、雰囲気が悪い。これはよくない兆候だ。


「じゃ、俺疲れてるし、佐藤さん連れてっていい?」

「ふうん。疲れてるなら、瀬野は着替えて休憩してきたら? 僕が佐藤さんの相手しとくよ」

「着替えはするけど、佐藤さん一人にさせてまたつーくんに迷惑かけちゃダメだろ? 呼び込み中だもんな」

「呼び込みっていっても客来ないから暇なんだよね。話し相手にちょうどいいから佐藤さん置いて行ってくれていいよ」

「いや、意味わかんね、ん?」

 

 黒シャツを軽く引っ張れば、振り返った瀬野とつーくんに同時に見下された。

 ええと、あのですね。遅れた瀬野くんも、呼び込みをしないつーくんも、暇つぶしが下手な私も、みんな悪い。各々非を認め、喧嘩はやめませんか。周りの人が心配顔でこちらを見ています。


「お、お祭りの日くらい、人のいるところでは仲良くしよ……?」


 尻すぼみになってしまった、が、二人には伝わったようで、ニッコリと私の前で手を握り合った。


「佐藤さん大丈夫、俺らすげえ仲良いから」

「喧嘩するほどってやつだよ、佐藤さん」


 それは熱い握手だった。お互い強く握って指が食い込むほどに。

 握手さえも平和にできないなんて。二人にはぜひ学校の外面の良さを見習ってほしい。

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