超絶チート能力
「ぶっ殺す!!!」
俺は異世界に降り立つなりそう叫んだ。
仇討ちしたいのは、あのメガネ野郎よりもクソ女神のコレットだ。輪廻転生の権利を侵害して強引に異世界におくりつけやがった。絶対いつか復讐してやる……俺はそう心に誓った。
「それはそうと……ここが異世界か。」
ドスンッ!
何というか現実世界とあまり変わらないような。日本的な景色ではないけれど、テレビで見る外国にありそうな景色。広い草原が広がっていて牧歌的な場所だ。
ドスンッ!
遠くには高く鋭い雪を被った山がある。外国で例えるならスイスとか、カナダとかにありそうな景色だ。非現実的な美しさに目を奪われる。
ドスンッ!
「ってか、なんか地震……?」
地面がグラグラと揺れる。
しかもドスンドスンとスゴイ音がする。これが異世界というものなのだろうか。なんだか音が近づいてきているような?
不意に長い影が伸びてきて、一面が日陰になる。
なんだろうと後ろを振り向くとーーー。
「ひああああああーーーーー!?」
巨大な化け物が迫っていた。
巨大なんてものじゃない。まるで山だ、それもただの山ではなく山脈と言える。10mや20mじゃ全く足りない。10kmや20kmのレベル。そんな規格外のサイズで某ハ◯ルの動く城のようなブリキの玩具みたいな要塞がガッシャガッシャといくつもの足で動いていた。
どう見たって人が勝てる相手じゃない。
戦う以前に踏み潰されて終わりだ。あのクソ女神は何を考えているんだ。いきなりゲームオーバーってどうするんだよ!
必死に逃げる。
全速力で駆けるが、どうやったって相手の方が早い。一歩の歩幅がせいぜい数メートルの俺と、数キロの化け物では比較にすらならない。あっという間に足音の渦に飲み込まれていく。
「くそおおおおおおおおおおおおおーーーー!!」
ドスンッ!
ドスンッ!!
ドスンッ……
ドスンッ…………
ドスンッ………………
「ゲホゲホッ……!」
踏み潰されるのかと思いきや、化け物は俺など眼中に無かったらしく、そのまま素通りしていった。しかも、俺は運良く踏み潰されることもなかった。ただ、化け物が巻き上げる砂埃で咳き込んだだけ。
「……いったい、なんだったんだ。」
化け物はゆったりとした足取りで、遠ざかっていく。動作そのものは遅く見えるが、移動速度は早い。あっという間に距離が開いて小さくなっていく。それでもあり得ないほどの巨体が地平に消えるまでには随分とかかった。
危険が去ったことで冷静さを取り戻した俺は、視界の端にメニューと言う項目があることに気づく。そこに意識を集中すると、まるでゲーム画面のようにコマンドメニューが表示される。
ステータス
スキル
アイテム
ヘルプ
内容はシンプルな4種類だけだった。
まずはステータスに意識を集中してみる。
名前 加藤蓮太郎
年齢14歳
職業 アヴェンジャー
レベル 1
HP 32
MP 10
攻撃力 12
防御力 8
魔攻力 5
魔防力 5
素早さ 15
知力 23
幸運 1
「おう……まんま、よくあるゲームのステータスじゃん。ってか、アヴェンジャーって復讐者って意味じゃないか……あのくそ女神め。」
眼前に浮かんだステータスの数値。レベル1だからなのかとてつもなく低いような気がする。特に幸運が1と言うのが酷い。これからの未来に暗い影を落としているような気がした。反面、知力が高いのは少し嬉しい。確かに俺は学校では結構頭が良い方だったからな。
次にスキルの項目を開く。
すると、同じようにスキルの内容が眼前に表示される。
特性 神の加護Lv1
スキル 絶対回避(神の加護Lv1)
特性とスキルの二つが表示される。
そして、それぞれに意識を集中すると、詳細が表示された。
神の加護
神の力を代行するもの。レベルの上昇により神と同等の能力を取得する。
絶対回避
神の加護Lv1により取得可能なスキル。あらゆる物理攻撃を回避する。
なにこれ、超すげえ!
神と同等の能力を取得するって、かなりぶっ壊れじゃないのだろうか。レベル1で取得している絶対回避が既に壊れた性能だしな。コレットはチート能力って言ってたけど、本当にチートだ、これ。
それから、アイテム欄は何も存在しなかった。
インベントリに何か入っているのではという淡い期待は早々に打ち砕かれた。まあ、アイテムをインベントリに入れれば持ち運べるとなれば、楽なのでこれはこれでありか。
最後に俺はヘルプの項目を開く。
……すると。
『ggrks』
「ぶっ殺す!!!!!」
ダメだ、一瞬感謝しかけたけど、やっぱあのクソ女神はムカつく。大方、ヘルプを作るのは面倒くさくなって投げ出したんだろう。コレットの性格を思えば、つまらないヘルプの項目をちまちま作るとは思えない。
あと言っておくけどな……ここは異世界で、スマホは使えねーんだよ! だから、ぐくれねーんだよカスううううーー!!!
「はあ……。」
どっと疲れた。
ああ、そういえば持ち物とかどうなっているんだろう。服装は死亡前と一緒。ポケットを探ってみると、スマホと財布が出てきた。
「あれ……もしかしてググれちゃうの??」
スマホをポチる。
あ……やっぱ、圏外だわ。やっぱクソ女神だわ。
財布の中身は、現金が3000円とちょっと。それから定期とレシートと割引券的なものが出てきた。何とも心許ない所持金に泣きたくなる。まあ、どうせこの異世界では役に立たないだろうけどさ。
確認することが一通り終わったので歩く。
目的はどこかの街だが、方角が分からない。普通に考えると遠くに川が流れているから、そこを下流に辿ればいつかは街につくような気がする。人の営みは水辺に近いところで行われるから。
けれど、ここは頭のイカれたコレットが作った世界。俺の持っている常識が通用するとはあまり思えない。とは言え、他に案もないので川を目指して歩き、そこを下っていくことにした。
しばらく歩くと……。
「グルルルルーーー!!」
魔物に遭遇した。
うん……よく考えてみれば、水場って生き物の溜まり場だから、魔物もいるよな。ハハハ……。
魔物は犬型だった。
いや犬型というか、完全に犬だ。色だけ不思議な緑色。何だろうセンスが無い。それにまんま地球の生き物をトレースするとか、これは手抜きなんじゃ無いだろうか。
まあ、何にせよ。
俺は丸腰、武器も防具もない。有り体に言ってピンチなんだけど!
犬が咆哮を上げて、襲いかかる。
ヤバイ! 大きく開いた口にはビッシリと鋭い牙が並んでいる。しかもそれが俺の首元目掛けて飛びかかってくるじゃないか。
スルリッ!
恐怖で竦んだはずの身体が軽やかに犬の攻撃をかわした。犬の攻撃は失敗に終わり虚しく地面に着地する。
「あれ……? あ……そうか、絶対回避!」
そんな便利なスキルがあったのを忘れていた!
と言うか、スキルと言うものの存在を信じられなかったのもあるかもしれない。
犬の攻撃は全て物理攻撃。
爪か牙、もしくは体当たりか、いずれにせよ物理だ。と言うことは、絶対回避のある俺には全部通じないことになるのか。
犬は自分の攻撃が通じなかった事に苛立ちを覚えたのか、激しく飛びかかってくる。けれども、それは俺にかすることすらなく、スルスルと受け流されていく。それはまるで華麗な闘牛士が猛牛をいなすかのように。
「ヒャッハーーーーー!!!」
そして、合間合間に素手ではあるけれど、犬に対して攻撃を加えていく。防御は完璧だけど、攻撃の手がないのがもどかしい。それでも、確実にダメージを与えていく。チリも積もれば何とやらだ。
数分後……。
「獲ったどおおおおオーーー!!!」
動かなくなった犬の前で俺は高らかと勝利を宣言した。
ちゃらららっちゃら〜〜〜!!
どこからともなくファンファーレのようなものが聞こえてくる。社会通念上、一般のゲームに照らし合わせるとこれは手抜きレベルアップの音!
俺は早速、一覧を確認するとやはりレベルが上がっていた。
名前 加藤蓮太郎
年齢14歳
職業 アヴェンジャー
レベル 2
HP 238756
MP 12
攻撃力 98263
防御力 86942
魔攻力 7
魔防力 7
素早さ 120935
知力 30
幸運 1
なんかおかしいぞ……。いや、だいぶおかしい!
一部のステータスだけ、スーパーサ◯ヤ人みたいになってる。何故だろう。とりあえずスキルも確認する。
特性 神の加護Lv2
スキル 絶対回避(神の加護Lv1)
人類超越(神の加護Lv2)
人類超越ってスキルなの……?
レベル2で人間やめちゃうって大丈夫なんだろうか。たぶん、ステータスの異常な数値はスキルのせいだと思うけれど。恐る恐るスキルの詳細を確認する。
人類超越
人族の限界を超えた肉体を手に入れる。生命力、攻撃力、防御力、素早さにおいて、圧倒的な上昇補正を得る
やはり、ステータスのありえない上昇理由は人類超越のせいだった。このステータスで魔物と戦ったらどうなってしまうんだろう。
まあ、そんなことより……
「何で幸運が1のままなんだよおおおーーー!!」
お読みいただきありがとうございました。
ブクマ、感想、評価など大歓迎です。気に入っていただけましたら是非どうぞ。