調律
「な、何が起こったのだ!」
私は声を荒げ、兵士に確認を行う。
そうすると確認に向かった者が、顔を青くしてこう言った。
「クロン・スタッシュ…クロン・スタッシュですッ!」
「何…!?」
最近地脈が乱れ気味なのは知っていたのだが暴走する域に達していたというのか。
あれが起こってしまえばこの国は一瞬にして滅びるだろう…だが、
「調律師を呼べ!時計塔への転移魔法も準備しろ!」
「はっ!」
調律師、かつて伝説にある龍の調律の力を扱える者達の総称だ。調律の力は私の血にも流れている。
時計塔の中にある《カルフサイト》を調律すれば治まるはず…そう信じたい。
調律師を呼び集め、転移魔法が準備された場所へ私たちは向かう。
「アルカード王よ、必ず生きて帰ってください。」
「あぁ、レイヴン・ノル・アルカードの名に懸けて。」
国の滅亡はレイヴン家の恥だ。必ず抑えなければ。
目の前が白くなり、数秒した後十数年ぶりに見る時計塔の中にいた。
しかし、その光景は過去のものとは程遠くただ膨大な暴力的な力が渦巻いていた。
「…持って十数分…時間がない、始めるぞ!」
「了解!」
「我、レイヴンの名を継ぎし者。この身に流れる血を持って今、調律せん!」
調律の詠唱を放ち、たちまち時計の中心にある宝石へ膨大な量の魔方陣と術式を展開する。
…おかしい、全く反応がない。本来ならこの時点で反応があるはずだが……
「ッ!まさか!詠唱を解除しろ!今すぐに!」
「え?は、はい!」
アルカードは気付いた。この調律が逆効果を示すことを。そして急いで調律師に中止の合図を出した。
アルカードの怒号に…いや、とてつもなく焦りを感じたその声に調律師は一斉に詠唱を中止する。
「しまった……っ!」
なぜこんな簡単なことに気付かなかった!
宝石はこの国全域に魔力を送るもの、余剰分は地脈へ返されるはずなのに今こうやって魔力が異常に貯まっているということは……
「宝石ではなくこの時計塔の魔力回路が壊れたのかッ!」
「な…!それでは王よ!一体どうすれば……」
今ここに地脈を停止する逆調律を行えるものはいない……
あぁ…この国は終わるのか…と絶望した瞬間、壁に何かが強烈な勢いで衝突する音を聴いた。
時計塔にある窓から視覚強化を扱い外を見ると、一人の少女がいた。
あの小娘は逃げずに何をしているのかと思った瞬間。
目を疑うことが起きた。
「これは…!」